(本記事は、細木 聡子氏の著書『女性管理職のためのしなやかマネジメント入門 〈信頼〉をつなぐ、チームビルディング 』NTT出版の中から一部を抜粋・編集しています)

キャリアウーマン
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人を動かすビジョン

ビジョンと目標は明確に

私がここで考えている「ビジョン/目標」とは、それぞれ次のように定義するものです。

ビジョン:ありたい姿
将来のある時点でどのような発展を遂げていたいか
成長していたいか等の構想・未来像
目標:目指す水準
行動が目指している最終的な結果(数値で示すのが望ましい)

チームに方向性を示すのが「ビジョンと目標」です。

バラバラなメンバーをチームに変えるのに不可欠なのがビジョンと目標です。当然ですが「ビジョンと目標」は、部下や関係者にとって魅力的であればあるほど賛同を得られ、結果として達成に向けたパワーをチームに与えるものとなります。

そして、私自身の経験からも確かに言えることですが、ビジョンと目標は、明確に設定しておけばおくほど達成しやすくなります。日々仕事をしていると色々な選択に迫られますが、ビジョンや目標が明確になっていると、どれを選択すれば、その達成につながるかがすぐわかるので、常に達成に向けた近道を選択することができます。

ビジョンや目標を明確にすることは、確実な達成と達成に向けたスピードを加速させる効果があるのです。

惹きつけるビジョンの3条件

「ビジョンと目標」が大切と言っても、あればいいということではなく、メンバーにとって魅力あるものでなくてはなりません。

管理職であるみなさんは、部下たちと一緒にチームで進めたり、周りの関係部署の人たちと連携して進めたり、部下がいない場合でも協力会社の方と連携したり、たった一人で仕事を進めるということはほぼないのではないかと思います。

このため、ビジョン・目標設定は、自分一人の視点だけではなく、チームの視点で考える必要があります。つまり自分自身だけではなく、部下や周りの関係者までも惹きつけるビジョン・目標かどうか、という視点が重要です。あなたが示すビジョンや目標が魅力あるものとなっているかどうかは、どうしたらわかるでしょうか。私は、これを次の3つの条件を満たすものとしています。


条件① 自分で考えぬいたものかどうか
条件② 部下や周りの関係者の力を引き出すものかどうか
条件③ 自分が成し遂げたいと思うものかどうか

条件① 自分で考えぬいたものか

魅力あるビジョンは、管理職であるあなた自身が徹底的に考えぬくことで生まれます。そうでなくては、それを語る言葉に説得力は生まれません。とはいえ「考えぬいてください」と言っても抽象的すぎて何をどうしていいのかわかりませんね。

まず、次の3つ、「やりたいこと」「やれること」「求められていること」の共通事項を導き出す作業をやってみてください。

  • やりたいこと:チームのありたい姿を実現するもの
  • やれること:チームの強みや得意なこと
  • 求められていること:会社がチームに求めていること、ミッション

この3つを満たすものを周りの意見も聞きながら徹底的に考えぬいてください。

条件② 部下や周りの関係者の力を引き出すものか

ビジョン・目標を徹底的に考え抜いて、方向性を見つけ出せたら、次は部下や周りの関係者、チームメンバーの力を引き出すものにしていきます。

チームメンバーの力を引き出すビジョン・目標の伝え方には特徴があります。それは、

「何を実現するのか」だけでなく、「なぜ実現するのか」

に重点をおいて考えられているということです。この「なぜ実現するのか」については、さらに次の3つの観点から考えて伝えていくことが望ましいです。

▼ 3つの「なぜ」

  • なぜ関わるのか:チームメンバーの課題感や目指している思いに触れる
  • なぜこの仕事なのか:チームのミッション︑提供価値に触れ、理解しやすい言葉で伝える
  • なぜ実現するのか:実現したときにチームメンバーがどのように感じられるか想像できるようにする

この3つの「なぜ」をミッション・目標の中に折り込み、チームメンバーに伝えていきます。

条件③ 自分が成し遂げたいと思うものか

チームのリーダー的存在である自分自身が成し遂げたいものでなければ、チームメンバーにとっても魅力的なビジョン・目標になるはずがありません。「部下は上司よりも幸せになれない法則」のところでも述べたように、自分自身がまず大きなやりがいと達成感を感じることが必須条件です。

このため、ビジョン・目標を設定したら、改めて、それが本当に自分が成し遂げたいものなのか、大きなやりがいと達成感を感じられるものなのかについて確認していきます。ここでのポイントは次の通りです。

自らの価値観(自分が何を大事にしているのか)と信念に沿っているかを確認し、ビジョンに自らの価値観と信念を込める。

すでに会社の中で、ビジョン・目標を設定して仕事を進めている方は多いと思いますが、今一度、みなさんのチームのビジョン・目標が、自分にとって魅力的なものとなっているかという観点から再チェックされるとよいと思います。

同じ内容であったとしても、表現や伝え方によってチームメンバーの反応が劇的に変わる、ということも十分有り得ることなので、ここはこだわりぬいて考えてみていただきたいと思います。

周りを惹きつけるビジョン・目標ができたら、今度はそれを発信して、応援してくれる人、味方になってくれる人を集めていきます。応援してくれる人、協力してくれる人が多ければ多いほど、ビジョンや目標は達成しやすく、またそれを達成するためのチャンスも訪れやすくなります。

私は今、会社を設立して日々奮闘中ですが、設定したビジョンと目標をどんどん周りに発信しています。そうすることで、協力者が現れたり、ビジョン・目標達成につながるプロジェクトを紹介されたりと、大変ありがたいことが次々と起こるようになりました。これは会社の中の仕事であっても同様です。チームの仕事を進めるためには社内外含めた多くの関係者と連携していく必要があります。より多くの人たちから応援され、協力されることがチームのビジョン・目標達成への近道になるはずです。

ここで、弊社リノパートナーズのビジョンと目標を参考までにご紹介します。

短い文章ですが、社員含め、関係者と議論を重ね、考えぬいたつもりです。魅力的なビジョン・目標となっているでしょうか。

株式会社リノパートナーズのビジョン・目標
〈ビジョン〉
私たちは、組織の中で悩める女性リーダーに仕事のやりがいと感動を与えます。
そしてその女性リーダーの存在がやりがいと感動の輪を広げ、全ての人が自分らしく安心して成長できる会社を創ります。

〈目標〉
2020年までに「しなやか女性リーダー育成」でNo.1になり、組織の中で自分の強みを活かしながら真に活躍できる女性リーダーを200人生み出します。

[2分間巻き込みプレゼン術]

ファイナンシャル・アドバイザー
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2分間の構成

プレゼンテーションは時間が勝負です。聞く側を飽きさせず、インパクトのあるものにするには、まずは2分程度で収まる言葉にまとめてみましょう。

そして、この2分間の時間を次のように配分してプレゼンテーションを行うのです。

  • 最初の40秒:課題感
  • 次の60秒:ビジョン・目標
  • 最後の20秒:行動要請

ステップ1 最初の40秒は課題感を語る

巻き込みプレゼンテーションの2分間のうち最初の40秒は、課題感を語ります。最初に課題感を語ることで、聞いている人をぐっと惹きつけていきましょう。

まずは自分の課題感、そして部下やチームメンバーの課題感を踏まえ、なぜやる必要があるのかについて話しをします。自分の課題感は、ご自身の実体験をもとに語るとより説得力が増すでしょう。

部下やチームメンバーの課題感はわかっている範囲で必ず取り入れます。これは事前のリサーチが重要です。事前に聞く人たちがどんなことに課題を感じているのか、ヒアリングを通してリサーチをしておくことをオススメします。


ステップ2 次の60秒はビジョン・目標を語る

課題感を語った後の次の60秒間で、本題であるビジョンと目標を語ります。 

課題とビジョンと目標が「つながる」ように意識して伝えていきます。特に、それが実現したときの具体的な状態や状況について、聞き手にとって魅力的な表現となっているか、考えてください。やはり聞き手の人たちの目指したい姿や思い、価値観などについて事前にリサーチしておくことをオススメします。


ステップ3 最後の20秒は行動要請をする

最後の20秒では、聞いている人たちに向けた行動要請をします。聞き手にどうして欲しいのか、プロジェクトメンバーに入って欲しいのか、協力や支援が欲しいのかについて具体的に伝えます。

より明確に、やって欲しいことを伝えるのがここでのポイントです。明確に伝えることで、聞き手は自分が行動する具体的なイメージが湧きやすくなり、行動につながる可能性が高いからです。そして、最後に改めて、まとめとしてビジョンを一言で集約して語るのも非常に効果的な方法です。 

前に述べたとおり、支援型リーダーシップは、これからのマネジメント層にますます必要とされるでしょう。ひと昔前は、長くその分野に関わった人ほど蓄積された知識やスキルを持っていて、若手社員はその技術を上司から学びとっていく時代でした。そういう時代には、指示型のマネジメントスタイルは大いに力を発揮したと思います。

現在は、新たな技術や情報が溢れるように日々飛び交い、上司よりも若手社員のほうが情報をうまく扱い、適切に判断し、新たな技術開発などに結びつけるのが上手だったりするものです。スピーディーな時代に取り残されず、その中でイノベーションを起こしていくためには、多様な世代・価値観・経験をもつ人々にしなやかに寄り添い、知恵を引き出し、それらを融合させて価値を生み出し、発信していくことが重要だと考えます。

それを実現するキーパーソンが、支援型リーダーシップを発揮できるマネジメント層だと私は思います。なぜなら、相手の可能性を信じ、一人ひとりが独自性を保ちながら、それらがバラバラにならずチームとしての一体感をまとっていくためには、多様性を受け入れ、認め合う関わりが重要だからです。チームをまとめる管理職がその姿勢を保つことで、互いの能力を最大限発揮できるように支援し合う意識が醸成され、チーム全体が大きな「影響力」を発揮していくことにつながるのです。

ブレない〈自分軸〉の作り方

40代,女性,転職
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次の4つのステップで取りくんでみましょう。

ステップ① 自分の強みを意識する
ステップ② 自分の信念を盛り込む
ステップ③ 尊敬する人(ビジネスパーソン)のあり方を参考にする
ステップ④ 「自分のあり方10か条」を制定する

私はいつも「自分軸」を「自分のあり方10か条」として、あえて言葉にしています。これをいつも目にするところに置いて、決断を求められる場面になったとき、判断に迷うときなどは、これを見返すようにするのです。あえて言葉にし、日常的に目にするようにしておくことで、ブレずに進むことができているように思います。みなさんもぜひ、この「自分のあり方10か条」を制定してみてください。職場で壁に貼り出すなどはちょっと恥ずかしいかもしれませんが、手帳の最初に書いておくなどオススメです。

自分のあり方10か条

①自分の強み
 
②自分の信念
 
③尊敬するビジネスパーソンのあり方
 
④自分のあり方10 か条
第1条:
第2条:
第3条:
第4条:
第5条:
第6条:
第7条:
第8条:
第9条:
第10条:

やり方は次の通りです。

ステップ1 自分の強みを書き出す
まず、「自分の強みの見つけ方」をもとに、自分の強みをそのまま書き出しましょう。
ステップ2 自分の信念を書き出す
次に、日頃の自分を振り返り、自分が何かを判断したりするときに、何を大事にしているかを書き出してみてください。自覚していなかったとしても、自分自身の価値観(大事にしていること)は必ずあります。日々の仕事の判断は、あなたが何を大切にした結果でしょうか。その根っこにある信念を短い文章にしてみましょう。
私の場合は、次の2つに行き着きました。

・人には無限の可能性がある
・人を大事にする会社は必ず成長する

これは私が信じている価値だと思うことを、文章に置き換えたものです。この2つが私のブレない信念です。みなさんはいかがでしょうか。
ステップ3 尊敬する人の「あり方」を書き出す
自分自身が尊敬できるビジネスパーソンの「あり方」を書き出してみましょう。何人でも構いません。
これまで仕事で出会った人の中で、この人はいいなと思った人、尊敬している人はいませんか。どんなところがよいと思ったのでしょうか。あなたが尊敬できると感じたビジネスパーソンは、自分の信念と同じ価値観を持っている人かもしれません。あなたは何に共感したのでしょうか。そのビジネスパーソンの「共感できるあり方」を具体的に書き出してみましょう。
私の場合は、次の2人のあり方です。

・松下幸之助 人を大事にするあり方
・上杉鷹山 人を大事にしながら、諦めずに行動するあり方

この2人のリーダーとしてのエピソードには、心を動かされるものがたくさんありました。何に心が動かされ、尊敬の気持ちが湧くのだろう、彼らが大切にしている価値とは何だろうと考えてみました。今は私も彼らの大切にした価値を大事にしてゆきたいと思っています。あなたは、どんな人をリスペクトしてきましたか。
ステップ4 「自分のあり方10か条」を制定する
さて、ステップ①〜③の内容を踏まえて「自分のあり方10か条」を考えていきましょう。ステップ③の尊敬するビジネスパーソンの言葉などを参考にして考えてみると出しやすくなるかもしれません。必ずしも10個出さなくても構いませんが、私の経験から10個が自分の中に浸透しやすく、また漏れなく自分の考えを網羅して出せる数ではないかと思っています。10個を目安としてみてください。

明日からやってみよう
魅力的なビジョン・目標を設定し、周りに巻き込みプレゼンをしましょう

自分のチームにとって魅力的なビジョンと目標を設定し、チームメンバーや関係者などの周りの人を巻き込むために、2分間のプレゼンテーションをしてみましょう。

行動のポイント

  • 全ての関係者を1回で集めようとせずに、可能な人から巻き込みプレゼンをやってみましょう。
  • プレゼンを行ったら、聴いてくれた人から必ずフィードバックをもらって、次に活かしていくようにしましょう。
  • 2分間のプレゼン内容はできればあらかじめ原稿を書いておき、身近な人の前でリハーサルを行っておくと、緊張せずに落ち着いて話ができるようになります。

行動したらこんないいことが!

  • 自分が設定したビジョンと目標に共感し、応援、協力、支援してくれる人が現れ、達成に向けてのスピードが加速していきます。
  • 自ら、自分の思いを語るという姿勢が認められ、周りから信頼され、支持されることで、その後の仕事が進めやすく成果を出しやすくなります。
女性管理職のためのしなやかマネジメント入門
細木聡子
株式会社リノパートナーズ代表取締役。 中小企業診断士/しなやかリーダー塾塾長。1990年筑波大学卒業後、NTTに入社。管理職に昇格し、大規模システム構築プロジェクトのマネージャーに就任。部門間・上層役員間・社外機関の調整役として抜擢され、人と組織をつなげるパイプ役として活動の幅を広げる。10年間で述べ1,000人のマネジメントに携わり結果を残す。2018年4月より、人材育成コンサルティング会社・株式会社リノパートナーズ設立。

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