(本記事は、細木 聡子氏の著書『女性管理職のためのしなやかマネジメント入門 〈信頼〉をつなぐ、チームビルディング 』NTT出版の中から一部を抜粋・編集しています)
安心して仕事を任せるには
不安をなくす3つのポイント
自立して成長する人材を育てるためには、まずは、成長につながる仕事を任せる、ということ。
ところが、この部下に仕事を任せることを「怖い」と感じている管理職も多いように思います。私もかつては、部下に仕事を任せるのを「怖い」と感じたことがありました。経験の浅い部下がやるよりも自分がやった方が速く確実だと思いましたし、もし部下が失敗をしてしまったら、その責任を全て自分で取りきれるか心配だったからです。
しかしながら、部下の成長のためには、まずは仕事を任せないことには話が始まりません。前述の通り、人は失敗も含めた経験から学び、成長していくのです。そこで、できるだけ安心して部下に仕事が任せられるようになるためにはどうしたらよいのかをじっくり考えてみました。ポイントは3つあるようです。
▼部下の「将来の目指す姿」につながる仕事を任せる 部下との関係性を築くために理解した部下の思考や特性、希望などから、部下が将来目指したいと思っている姿を想定し、その「将来の目指す姿」に少しでもつながる関連性のある仕事を任せていきましょう。
こうすることで、部下自身もその仕事に取り組むことで、将来のありたい姿の実現につながると考えられるようになり、任せた仕事へのモチベーションがぐっと高まります。仕事がうまくいく確率も高くなります。成功確率が高くなる仕事の任せ方をすることで、上司であるみなさんも必要以上に心配せず、安心して部下に仕事を任せることができるようになるはずです。
▼成長のためのチャンスを与えると考える チーム全体の短期的な仕事の効率性を考えると、部下に任せるよりも自分がやった方が速い、と考えてしまうこともあるでしょう。しかしながら、管理職という立場であるならば、長期的な視点でチームの成果を出す、ということも考えなくてはいけません。
そのためにこそ、部下を育成するという視点が非常に重要です。短期的には自分や他の人がやったほうが速くて確実と考える仕事であったとしても、部下の成長につながるのであれば、部下に任せ、部下を成長させることが、チーム成果を上げることにつながるという発想で考えてみましょう。
部下に仕事を任せることは、部下とチームに成長のチャンスを与えているということなのです。
もちろん部下が失敗する可能性はゼロではありません。多くの管理職の方たちは、この失敗への不安が原因で、なかなか部下に仕事を任せられないと思っているのではないでしょうか。だとすれば、事前に考えられる失敗を予測しておいて、その対処方法を考えておくことで、その不安は解消できると考えます。
考えられる失敗の中で、自分で責任を取れないほどの大きな失敗につながるものがある場合は、次の対応を行います。
- 任せる範囲の見直しを行う
- 自分がフォローするタイミングと内容をあらかじめ設定しておく
こうしておけば大きな失敗の回避は十分可能です。
▼部下の長所だけを見るようにする 人にはそれぞれ長所も短所も必ずあります。短所を見てしまうとその人の能力を信頼できなくなってしまって、仕事を任せるのがとても不安になってしまうものです。
しかも相手の短所ばかり見てしまうと、最終的にその人のことが「生理的に嫌い!」になってしまうということもよくあるようです。こうなると部下との間の信頼関係は崩れ、敵対関係になってしまって最悪の場合、部下に足を引っぱられるといった事態にも陥りかねません。短所は極力見ずに、〝長所だけ〞を見て、仕事を任せることは重要なポイントです。
長所はどんな小さなことでも構いません。「こんなよいところがあるのだから、きっとこの仕事は最後までやり遂げてくれるだろう」と思って、全面的に信頼を寄せることが実は成功の秘訣なのです。
部下のよいところがなかなか見つからないというときは、次ページのワークシートを、参考にしてみてください。その人の「よいところ」を考える時間をもつと、不思議と関係がよくなることもあるものです。
- 部下の良いところの見つけ方
- Q1 合わない相手(部下等)に対して冷たい態度をしている自分を客観的に見るとどんな印象? Q2 自分が気づかないことで、相手がやっていたことは何か Q3 相手が得意とすることは何か Q4 相手が仕事で成果を上げている点はどこか Q5 相手が仕事をする上で大事にしていることは何か
- ↓
- 相手のいいところ
完璧主義を手放そう
これまでお伝えしてきた、部下に安心して仕事を任せるためのポイントを実行したとしても、やはりまだ不安に思ってしまう管理職の方もおられるでしょう。特に責任感の強い管理職の方は、頭ではわかっていても感情ではどうしても仕事を任せるのを不安に思ってしまう人が多いように思います。
私もどうしてもそういう風に考えてしまう時期があったのですが、次のような発想を持つことで、不安がなくなりました。
▼完璧主義を捨てる まず、完璧主義を捨てましょう。
完璧主義を貫くことで、それができなかった場合のストレスも抱え込んでしまうことになります。全ての仕事を完璧に行うことはできません。ほとんどの場合、多くの仕事を決められた期限でこなしていくことになるので、どこかで折り合いをつけバランスをとって、制約条件の中で最高のアウトプットを出すように心がけるのが、全体を見たときには、よいやり方だと考えます。
私は、いつも部下からのアウトプットが60点ぐらいでOKにしています。
これは、私が考える100点のアウトプットと部下が出してきたアウトプットの効果が結果的にはあまり変わらないことが多いのと、部下の成長のためには、時には試行錯誤も大切だと考えるからです。
人を育てるには「完璧主義」は捨てなければなりません。
▼長期的視点を養う そして、部下の成長は長期的な視点で考えるようにしましょう。
人がすぐに成長するということはなかなかありません。
成長するためには経験を積み重ね、その経験から得た学びを自分のものにしていくことが必要で、一定の時間がかかるものです。このため、例えば、部下が1度や2度失敗したからといって、部下をその業務からすぐに外したりするのはやめておいた方がよいのです。
また、人の成長曲線は人それぞれです。たとえ、現時点でパフォーマンスが出せていなかったとしても、少しずつでも昨日より今日、今日より明日で、よくなっている点があるとするなら、ヨシとする考え方を持つようにしましょう。
人を育てるには、「長い眼」が必要です。
仕事の背景をしっかり伝える
成長につながるだろう仕事を不安なく任せることができたら、部下にはその仕事を通して、自分以上のアウトプットを出せるように成長してもらいたいですよね。部下にそうなってもらうことができれば、より安心して仕事を任せていくことができますし、チーム全体の成果もぐっと上がるでしょう。任せれば任せるほど、上司の仕事は楽になるとも言えそうです。
部下のパフォーマンスを上げる効果的なポイントのひとつが「情報共有」です。
人の能力には、思うほど大きな差はないものです。私は成果を出せるか出せないかのわかれ目は、実は「情報」にあると考えています。成果を出すための情報を戦略的に提供していくことで、部下が自分以上のアウトプットを出す、ということは十分可能なのです。
アウトプットの質を、次のような方程式で表してみます。
アウトプットの質 = インプットする情報の質・量 × モチベーション
アウトプットの質を上げるためには、インプットする情報の質・量とモチベーションを上げなければなりません。モチベーションの向上がアウトプットの質につながることはすでに触れたので、ここでは「情報の質・量」に着目してみましょう。
もし、自分と同じレベルか、それ以上のアウトプットを部下に求めるのであれば、自分が持っているのと同じだけの質と量の情報を意識的に部下に伝えてみてください。
上司である自分と同じ量と質の情報を部下に伝えることで、部下の視点や視座が自分と同じになってきます。仕事の背景、目的、関係者、社会的な意味……等々を共有することで、仕事の全体が立体的に見えてきて一つひとつの仕事の意味を自分で主体的に考えられるようになります。結果として、アウトプットの質は高まります。
私が新規サービス開発・運営を担当していた頃の話です。そのサービスは新規事業ということもあり、なかなか思うように成果を出せず、どうしたら軌道に乗せることができるのか、頭を悩ませる日々でした。そのとき、私の部下は業務経験が浅い人ばかりだったため、仕事を任せるのを躊躇してしまい、私がほぼ一人で孤軍奮闘している状況でした。
そうこうしているうちに、いよいよそのサービスを畳むことも考えなくてはならないところまで収支が悪化し、ようやく、この状況を打開するにはチーム全員で協力して成果を出していくことが必要だと気がつきました。
そこで、私はこれまで公開していなかった現状の事業の売上と費用、利益の金額といった収支状況を詳細の事項まで含めて部下に公開し、改善に向けての協力を呼びかけました。
その結果、部下が自ら勉強し、売上を確保するための施策のアイデアを出し、実行するようになりました。そして、半年後、利益は当初の1.7倍となり、見事、事業を安定軌道に乗せることに成功したのです。
「部下のパフォーマンスが上がらず、なかなか成果が出ない。仕事を任せなければよかったかも……」
と悩んでいる管理職のみなさんは、任せた仕事について、自分が部下に十分な情報を与えているか、一度考えてみてください。自分が持っている情報と部下が持っている情報を比べてみたときに、同じ質と量の情報を部下にも提供しているでしょうか。
▼部下に提供すべき具体的な情報 もちろん、部下には言えない情報も当然ありますから提供できる範囲のなかで自分が持っている情報を部下に積極的に提供するように意識してみてほしいのです。私が部下と共有をはかり、とても効果があったのは以下のような情報です。
- 当該業務が発生した背景・経緯
- 会社の経営との関連性
- 周りを取り巻く状況
- 関連する他の業務の状況
- 業務に対する自分の考え
つまり、任せる仕事の背景や会社の事業との関連性など、仕事の前提条件となるような情報をできる限り共有しておくということです。部下は目の前の仕事を高い視点から立体的に見られるようになることで、求められているアウトプットの水準、評価の基準を自分で考えられるようになります。
更に重要なのが、あらかじめ上司である自分の考えも部下と共有しておくこと。部下自身の考えを引き出そうと、自分の考えは言わずにまずは部下に考えさせ、部下が考えた結果を見てダメ出しをする、という管理職をよく見受けます。
一見、部下の育成のために、このやり方がよさそうに見えるかもしれませんが、部下からすれば、必死で考えた自分の提案が全て却下となってしまい、「それなら最初から言ってくれれば……」と残念な気持ちになることが多いようです。
もちろん、最初から自分なりに考えた「答」を言う必要はありません。それこそ部下の成長にはつながらないですね。そうではなく、仕事を任せる際に、
- ・判断基準(優先事項) ・譲れないポイント ・守って欲しいこと
といった仕事を進めるにあたっての重要な条件を、自分の考えとしてあらかじめ伝えておくということです
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