(本記事は、細木 聡子氏の著書『女性管理職のためのしなやかマネジメント入門 〈信頼〉をつなぐ、チームビルディング 』NTT出版の中から一部を抜粋・編集しています)

キャリアウーマン
(画像=PIXTA)

耳に痛いことをどう伝えるか

「叱り方」はテクニック?

褒める言葉は伝えやすいですが、変えたほうがいいことや、改めてほしいことを伝えるフィードバックはしにくいものです。

フィードバックするときに大事なことは、テクニックだけに頼らないということ。「叱り方」については、世の中に様々な手法がありますが、それを使ったとしてもそこに心が入っていなければ、全く効果はありません。

私もかつては、その手法を使いこなすことだけに意識が集中してしまい、本当に意図していることがうまく伝えられず、「なんか、あんまりピンときません」と言われたこともあります。

テクニックだけに頼ってしまい、部下への信頼や成長を期待するといった「心」の部分を置き去りにしてしまったためだと猛反省しました。その後、相手に対しての信頼の気持ちを軸にテクニックの基本だけは抑えつつも、その場で相手にとって最もよいと思われる伝え方で話をするようになってからは、面談が終わったあと、部下に劇的な変化が現れ、これまでにないパフォーマンスを発揮する社員に生まれ変わっていきました。

相手は必ず理解してくれる、自ら改善し成長できる人だと確固たる信頼の気持ちを持って対応することで、必ず上司である管理職のみなさんの思いは伝わります。その信頼の気持ちが部下の気持ちを動かし、大きな成長を促すのです。

これからお伝えする効果的なフィードバックのやり方は、この「相手に対して確固たる信頼の気持ちを寄せる」いうあり方を持っていることを前提とした方法です。ぜひそのあり方をベースにしたうえで活かしてみてください。

事前に必ず情報収集

部下に問題点、改善点を指摘するフィードバックを行う際は、必ず正確な情報を把握するために事前の情報収集を行います。

上司である管理職のみなさんも人間なので、どうしても感情が入ってしまい、決めつけや偏った見方をしてしまうこともあるでしょう。それを避けるために、客観的で正確な情報把握が極めて大切です。

情報収集する内容は次の3つの観点を意識してみましょう。

  • どんな状況のとき
  • どんな行動が
  • どのような影響、結果を招いたのか

また部下のよくない噂などを耳にしたときは、決してそれを鵜呑みにせず、ひとりだけではなく複数の人から話を聞いて多くの視点で把握します。

まちがった噂にもとづいてフィードバックを行うことは、例えささいなことでも信頼関係に致命的な亀裂をつくります。部下はそのことをあえてあなたに伝えくれない可能性もあります。事前の情報収集は、このような関係の亀裂を避ける目的もあります。

▼事実のみを伝える
事前の客観的で正確な情報収集により、事実を確認できたら、部下に伝えていきます。ここでのポイントは、

事実のみを伝える

こと。自分自身の感情や主観は、この段階では置いておいて、客観的な事実のみを伝えていくことで、相手も冷静に受け止められるようになります。例えば、遅刻ばかりする部下には

「今週は月曜と水曜と木曜の3日、15分ほど遅刻でしたね」

というように事実のみを伝えます。感情的な非難や人格を批判するような表現をしていないか、注意します。

また、事前に収集した事実が、まちがっている可能性もないとは限りません。まちがっているわけではなくても、部下の認識とずれていることもあります。

伝えた「事実」が本当にそうだったか、確認の一言を添えます。そしてもし違うと思っていたら、相手がその「事実」をどのように認識しているかも聞きましょう。ここがズレていると、やはり信頼関係にヒビが入るでしょう。相手も本当にそう思っているかどうかを確認します。

決めつけ禁止―「Iメッセージ」で伝える

部下に問題のある行動について事実ベースで伝えた後は、その問題行動の改善を促していきます。このときの伝え方には「細心の注意を払う」ということが効果を出す秘訣です。

私がオススメしているのは、相手にとってより受け取りやすいメッセージの形式で伝えるということです。メッセージの伝え方には2種類あると言われています。

▼YOUメッセージ 相手(YOU)が主語になったメッセージ   

「◯◯さんって真面目だよね」
「◯◯さん、調子が悪いね」

といった形で、相手を主語にした伝え方です。

▼Iメッセージ 自分(I)が主語になったメッセージ

「私、◯◯さんに任せていると安心するんです」
「◯◯さん、調子が悪そうに見えるのですが」 

といった形で、自分を主語にした伝え方です。

フィードバックをするときには「Iメッセージ」で伝えるのがとても効果的です。ついついお手軽なYOUメッセージで伝えてしまいがちですが、場合によってこれは相手を決めつけた表現になります。特に上司と部下の関係のような力関係がある場合は、部下は反論・訂正がしにくく、そう感じられる可能性が強いため、細心の注意が必要です。

Iメッセージで伝えることで、あくまでも自分の感想という形で伝えることができるので、相手にとっては受け取りやすくなります。例えば、遅刻ばかりする部下に対して、どんな言い方をするといいでしょう?少し時間をとって、考えてみてください。

例えば、あなたがこんな風に言われたら、それぞれどんな気持ちになりますか?

「◯◯さんはちょっとルーズですよね。遅刻ばかりしてますよね」
「◯◯さんは、すごい能力を持っているのに、遅刻して来るとだらしない人と思われて、私はもったいないと思う」

あるベンチャー企業で働く女性管理職のほうが、部下がまさに毎日1時間以上遅刻して来て、注意してもなかなか改善しない、ということで、私のところに相談に来たことがあります。

私は、このフィードバックとして「Iメッセージ」をもとに先ほどの「面談術5ステップ」に従った面談をしてみるようにお伝えしました。彼女はすぐに面談をすることにしたのですが、ただしとても忙しい部署なので確保できた時間はたったの15分だったそうです。

15分間の中で、彼女は部下に、

「今の仕事に活かせる強みやよいところがたくさんあると思うのに、遅刻をしてくることで周りからだらしない人と思われて信頼されなくなってしまうのが、私はすごくもったいないと思うんです」

と「Iメッセージ」で伝えたそうです。

すると……その15分間の面談をした翌日、その部下の方は、なんと1時間早く出社してきたそうです。仕事も人が変わったように積極的に取り組むようになり、半年以上たった今でもその部下は全く遅刻することはなく、更にはその管理職の方に「あなたのために仕事がんばります」と言ってくれているということです。

この「Iメッセージ」には、上司の彼女への信頼も込められており、この信頼が彼女に伝わったのだろうと思います。もしこれが、

「1時間も遅刻をしてくるとか、社会人として失格です。周りの人に迷惑をかけていることに気づいていますか?」

と言っていたら、どうだったでしょう。彼女はおそらく、これまでもそのような叱責を受け、人の信頼を失ってきた自覚があったのでは、と思います。このように言われたら、ますます自信を喪失してしまったかもしれません。この管理職は、部下を「部下以上に」まず先に信頼したからこそ、部下も彼女を信頼してがんばってくれるようになったといえるでしょう。

このように、面談でのちょっとした伝え方の違いが、大きな成果につながっていくということがあります。面談は、信頼を伝え、関係を築く機会として大変重要です。部下一人ひとりに信頼をもって向き合うことを心がけることで、結果としてチーム全体の力も向上してゆくはずです。

女性管理職のためのしなやかマネジメント入門
細木聡子
株式会社リノパートナーズ代表取締役。 中小企業診断士/しなやかリーダー塾塾長。1990年筑波大学卒業後、NTTに入社。管理職に昇格し、大規模システム構築プロジェクトのマネージャーに就任。部門間・上層役員間・社外機関の調整役として抜擢され、人と組織をつなげるパイプ役として活動の幅を広げる。10年間で述べ1,000人のマネジメントに携わり結果を残す。2018年4月より、人材育成コンサルティング会社・株式会社リノパートナーズ設立。

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