(本記事は、小林 尚氏の著書『開成流ロジカル勉強法』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
拾うべき情報・捨てるべき情報
1対多の場面を想定してみましょう。実際のところ1対1で質問ができる環境がいつでも整っているというケースよりも、基本的に「聞く」といえば1対多、すなわち授業や講義の形式の学習を行うケースの方が多いと思います。1対多の形式の場合、直接先生や講師を質問攻めにすることはできませんが、講義で(最低限)決まった範囲を解説し、聞き手が理解するところまで持っていくことが意図されています。ですから、1対多の形式に向けた事前準備も必要になります。先ほどの例(予習が終わった段階)をもう一度見てみましょう。
この状況で講義に参加するだけでも、既にわからない部分が可視化されており、効果的に「聞く」ことが可能です。もう少し明確に疑問を把握しておく方が混乱しないのであれば、前回のように文章に落としてもいいでしょう。ただし、自分から一つひとつ質問できるわけではないので、質問を統合せず、疑問一つひとつを残しておいて、講義の中で解決するたびにチェックするイメージがいいでしょう。1対1と異なるのは、1対多は自分個人に対して解説をしてくれるわけではないので、講義を通じて疑問が残る可能性があります。そのため後から「実はわからなかった」とならないようチェック形式にしておくといいでしょう。イメージを掲載しておきます。
おそらく、先ほどの質問の際のプロセスを理解していれば、ここまでは問題ないと思います。ここから問題になるのは、「わかっているところをどう扱うか」ということです。わからない部分については講義に集中し、理解に努めればよいでしょうが、既にわかっている部分を講義の中でどのように扱えばよいのでしょうか。
そもそも、講義の中で既にわかっている部分が存在するのは当然のことです。講義の内容がすべてわからなかったら、それこそ講義が自分のレベル・知識にマッチしていないので、至急講義を変更するべきです。理想としてはわかっていることとわからないことが5:5、少なくとも4:6くらいでないと、その講義の理解はかなり困難を伴う場合が多いです。逆に言えば、少なくとも4~5割は既にわかっていることを講義の中で聞くわけですから、その対応策を考えておく必要があります。それは、情報の取捨選択です。
情報の取捨選択というのは頻繁に使われる言葉であり、考え方としても重要ですが、「どの情報を拾うべき」であり「どの情報を捨てるべき」か、基準を持っておくことが重要です。一般的な情報収集の場合、間違っている情報と正しい情報を区別したり、必要な情報と不要な情報を区別したりするだけで済むかもしれません。しかし勉強においては、教材に書かれていることが間違っているというケースは少なく、ほとんどの情報は正しいし、必要である場合が大半でしょう。ですからその中で、より現在の自身の学習状況に即して必要な情報を選択しなければなりません。
まず、拾うべき情報とは「構造に関する情報」です。自分が予習をしている段階でストーリーロジックやストラクチャーロジックを用いて構造化した内容が、必ずしも正しいとは限りませんし、講師の話を聞くことでより正しい構造に気付く可能性が大いにあります。ですから自分なりに既に構造化に成功していたとしても、講師の話を聞いておくべき部分です。むしろ1対1であれば自分の視点に合わせて講師も話してくれますので、気付きづらい「新しい視点」を1対多だからこそ知ることができる可能性があります。
逆に、捨ててしまっても構わない情報とは「具体的な答え」です。勉強において問題の答えは後からでも確認できる場合も多いですし、多少癖の有無はあったとしても、根本的に人によって正解が変化することはありません。予習の段階で判明しており、かつ後からも確認できるようなことであれば、その時間は必ずしも講師の話を聞き続ける必要はないでしょう。
これらを踏まえたうえで重要なのは、結局講義そのものの取捨選択です。新しい構造や視点に気づかせてくれる時間を提供してもらえるのであれば、それはきっとみなさんにとって意味のある時間ですし、仮に答えの確認しかしていない時間なのであれば、それは無意味な時間です。
聞きながらメモをとる方法
ここからは実際に「聞く」タイミングにおける所作を解説していきます。「聞く」というのは形のないものなので、それを後から確認できるように形にする必要があります。「形にする」ということは基本的に「書く」ことになるのですが、この話はあくまで「聞く」ことにおける作業なので、「書く」のパートではなく、ここで解説を行います。
予習の段階で構造化に成功していれば、基本的にそれに準じて話を聞いていくことで、情報の迷子にならず「聞く」ことに取り組めるでしょう。逆に言えばそれだけ事前の準備が重要であることの再確認でもあると言えます。
しかし現実的に講義などに参加すると、事前の予習が常に完璧に働く(有効に活用される)とは限りません。本人が構造化を大幅に失敗している可能性もありますし、講師がテキストと関係ない解説や話を始める可能性もあります。そして、どうやっても人間は「話す」スピードと「書く」スピードであれば「書く」方が遅い場合がほとんどなので、いきなり情報を投げつけられても、いったん整理しておけるスキルが重要です。
そこで用いるのが、みなさんが既に学んだ構造やメッセージの目印となる「接続語」です。接続語には大きく4種類あり、「イコール」「逆接」「因果」「並列」であると述べました。そして細かく分類する場合、上記のようになります。
これは、文章において「文と文のつながり」を明らかにするためのツールでした。今回は聞いたものをどのように整理するかを考えるため、「情報と情報のつながり」という観点で接続語を用います。かつ、メモをとる際に「しかし」「そして」「または」などと書いていても、後からパッと見て情報同士のつながりを見抜けるかと言えば、多少理解に時間がかかってしまいます。ですから「初めから構造的にメモをとる」というのが、正解です。構造の示し方に絶対的な正解はありませんが、実際に構造化を図示した事例を見てみましょう。
いかがでしょうか。文章で書き残すよりも、数段速いスピードで、しかも後から見直して構造がわかりやすい状態になっています。なお「転換」については図示を行いませんでしたが、これは文字通り話題を切り替えることなので、情報同士のつながりを断っているというわけです。そのため、図示するほど重要なつながりにはなりません。また、図形を工夫して四角と楕円を使い分けています(四角は結論部分や楕円よりも大きな粒度の時に利用)。今回はあくまで例なので、みなさんそれぞれ使いやすい記号や図形を使うとよいでしょう。なお、これらの情報のつながりは複合して利用することもできます。
注意点として、これはあくまで部分的な情報と情報のつながりを示しているにすぎないので、復習として後から全体の構造の中に組み込み直して理解することも忘れないでおきましょう。同様に、これはいざという時のメモなので、本来であれば予習段階で構造化されているべきものです。講義を聞きながら教材に書いてあることをただ可視化するだけだと、わざわざ講義に参加している意味はありません(自宅で教材を読みながら、内容を可視化・構造化してもいいわけです)。ですからなるべく予習段階で構造化をしておきましょう。
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