(本記事は、小林 尚氏の著書『開成流ロジカル勉強法』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
ロジカルな話の上手さとは?
「話の上手さ」にはいくつかの種類があります。そしてその中で私たちが目指したいのは「論理的に話す技術」、つまり「ロジカルな話し方」です。本書においては「話す」といっても勉強のために「話す」ことを解説していますが、そもそも「話す」という行為そのものには勉強以外の多様な目的が存在しうるわけで、それまで否定しているわけではありません。
それこそよくある話なのですが、私が以前いたコンサルティング業界では、ロジカルに話す教育を受けてそれに慣れ親しんでいる人間が多数います。しかし普段からそのような話し方をしていたところ「話が面白くない」と言われ異性にふられてしまったというエピソードがあります。これは半分冗談のような話ですが、あながち笑い流すこともできないもので、自分の話し方は時と場合によって調整すべきであることも示唆していると言えます。
それも踏まえたうえで、「ロジカルな話し方」を目指すのですが、「ロジカルな話し方」とはどのようなものでしょうか。みなさんが持っている経験やイメージを膨らませて考えていただくのも構いませんが、実はここまでに学んだことで十分な定義が可能です。そもそもロジックとは、要素を順番に並べること、もしくは分解することによって説明したい対象を相手に伝える技術です。すなわち、言い換えれば「ロジカルな話し方」とは、要素を整理して構造化して話すことであると言えます。
さらに一歩踏み込んで考えれば、「話す」際にはただ一方的に話しても仕方ありません。かつてピーター・ドラッカー(社会生態学者)が「コミュニケーションの成否は聞き手で決まる」と述べたように、聞き手に伝わらなければ意味がありません。ですから、「情報の整理・構造を聞き手の頭の中に植えつける」ことができる話し方こそが、ロジカルな話し方だと言えるでしょう。
そこで難しい点は、「話す」際にはストーリーでしか話すことができないという点です。「書く」でやったように、パワポ型や箇条書きで一気に見せて、「パッと見でわかる状態」を演出することはできません。あくまで言葉を重ねるしかなく、同時に2つのことを話すのは物理的に不可能です。
この課題に対処するための考え方が、「書く」で登場した箇条書きの考え方です。「書く」においてパワポ型でまとめた情報をいくつかのまとまったストーリーとして展開する場合、全体の構成を示す箇条書きを冒頭に用意すべきであると説明しました。その考え方と一緒で、ある程度の分量を話す時には冒頭に話の「地図」を用意してあげましょう。詳しい手法については今後のパートで解説していきます。
なお、少しだけ補足をしておきたいことがあります。よく、ロジカルな話し方として勘違いされやすい話し方の種類として、早口や難しい言葉を使うケースがあります。ある程度の分量を一定の時間の中で話さなければならない以上、早口になってしまうことや、そもそも説明すべき対象が難しいから専門用語を利用することはよくあることです。また生まれつき早口気味な方もいますから、それ自体が悪いことではありません。しかし、早口や難しい言葉の使用が必ずしも「ロジカルな話し方」とならないことはぜひ知っておいてください。
ひとつの事例として、弁論部のことをお話ししておきましょう。ディベートを行う際は時間制限があるので、ほとんどの選手(プレイヤー)はかなりの早口であるという特徴があります。のんびり話していては、時間内に展開できる議論の量が少なくなってしまうので、致し方ない面もありますが、普通の方がいきなり聞いたら「まったくなにを話しているのかわからない」状態になっても不思議ではないスピードです。
そして、ディベートに取り組んでいる選手たちがみんなロジカルに話せているのかと言えば、実はそうとも限りません。ディベートという競技の特性上、主張にはその根拠が必要です。ディベートであれば参考図書や引用文献、統計情報などの「データ」が主張を支える根拠となります。ゆえに、ただ主張をぶつけるのではなく、ディベートの中でデータとデータをぶつけ合って戦うのです。データをぶつけ合う際は、当然ディベートの制限時間の中で「話す」ことで議論を行います。すると、どうしても「議論を展開する」ことに気が向いてしまって、話し方そのものはそこまでロジカルではない場合があります。極端な言い方をすれば、それまでに用意したデータの中から使えそうなものを抽出して、高速で音読しているに過ぎないケースもあります。もちろんこれはあくまで例として挙げたものであり、ディベート全体がそうであるとは言いません。要は「早口」とか「難しい言葉を用いる」ということが、必ずしもロジカルに話す(=聞き手に構造や整理を植え付けながら話す)に至らないという点はおわかりいただいたと思います。
3分間トーク法
いよいよここからは論理的に「話す」、そして「話す」ことを勉強につなげるための具体的な技術について解説していきます。既に述べた「学習内容を理解している」「繰り返す」「時間制約がある」という条件を満たした練習を行うことで、より学習内容を深掘りした理解が可能です。学習内容の理解については、地道なインプットが必要ですが、繰り返しや時間制約についてはすぐにでも対応することが可能です。
そこで活躍するのが「3分間トーク法」です。文字通り3分間で説明するということであり、時間制約や繰り返しにダイレクトに効いてくるのですが、これにはいくつかのミソがあります。
まず、「どんなことでも3分で話す」という点がポイントです。私たちは早口の名人になりたいわけではないので、1分や2分では短すぎます。しかし5分、10分かければ、ある程度「思い出しながら」ゆっくりと説明することはできてしまいます。早口にならない程度にしながらも時間制約の厳しさがあるため、どの情報を説明してどの情報を説明しないかという取捨選択、説明を行うための言葉選び(婉曲的な表現ばかりでは時間がまったく足りなくなる)の練習になるのです。
もし実際に3分間で時間が足りなければ、情報の取捨選択ができていない(大きな流れを捉えられていない)ですし、3分間の途中で話が終わったり詰まったりしてしまうようではそもそもの知識が不足していることも推察できます。知識をキーワード的にただ暗記しているような状態であれば、「話す」ことでほぼ確実に情報同士のつながりに対する理解不足が露呈します。
第2に、ボリューム的なちょうどよさもポイントです。一般的には私たちは1分間に200~300文字程度を話すことができます。もちろんアドリブで話すのか、あらかじめ用意した原稿を音読するのかでかなり話すことができる文字数は変化しますし、さらに早口を意識したり、カタカナが多い文章だったりすれば一層の違いは出ますが、あくまで数百文字程度が目安です。
その際に、やはり1分程度ではあまりに短く、情報を整理して手順や構造を示す以前に冒頭から情報の中身について言及しなければ間に合わないでしょう。自己紹介のような気軽なトークであればさておき、勉強という一定の深さが必要なことを話すのであれば、3分すなわち600~900文字程度は用意したいところです。そしてこの文字数は、おおよそパワポ型で表現した情報の1枚相当に匹敵します。あまり登場場面は多くないかもしれませんが、10分話す場面があってもパワポ型で3つのスライド、プラス冒頭の全体構造に1分をかければ10分の話を構成できます。
3分間トーク法が優れている点は他にもありますが、実際の取り組み方には注意が必要です。それは「教材を見ながらやらない」ことです。実際、話が上手な方は「自分のストーリー」を持っており、それを小出しにしたり、組み合わせたりして話を構成します。芸人さんのエピソードトークは、1分、数十秒、一言二言のように、明確に使い分けています。私たちも3分という時間で勉強内容をまとめることができるようになることで、いざという時に自分の知識を抽象的にでも具体的にでも瞬時に表現できることを目指します。
その中で、教材を見ながらやってしまうと、自身が勉強内容を身に付けているのか判断ができなくなるうえに、教材が優れているほど、自分は音読をするだけの人間になってしまいます。音読は音読で暗記の効果もありますし、悪いことではありませんが、私たちが目指すところからは離れてしまいます。
逆に、自分の知識が十分になるまでは音読やテキストを見ながら講義の真似をすることで知識の習得を目指し、ある程度その段階を超えたところで、何も見ずに「話す」スタイルへ移行するのもありです。本書では音読について深く触れることはありませんが、インプットの手法としては非常に自然な、優れた方法であることは間違いありません。
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