(本記事は、渡部 卓の著書『40代から伸びる人 40代で止まる人』きずな出版の中から一部を抜粋・編集しています)
「上司・先輩の姿」が当てにならない時代
すでに実感されている人も多いと思いますが、いまや戦後の日本経済を支えてきた独自の雇用・評価システム「終身雇用」「年功序列」は崩れつつあります。
たとえば2019年5月にはトヨタの豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べ、同じ5月には経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)も、終身雇用について「制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」と訴えています。
そもそも「終身雇用」「年功序列」は、昭和の終戦後に、いち早く戦後復興を遂げることを目的として導入された、世界でも例が少ない特殊な日本独自の制度です。その特殊な制度を維持・守り続けているのが日本の職場の現状です。
日本経済が右肩上がりを続けることを前提に、労働力を安定的に確保しつつ、失業の不安を感じさせないことはとても重要なことでした。そこで働く人々にマイホームやマイカーなどの消費を促すことができる優れた経済システムだったこともまた事実です。「坂の上の雲」を目指して、未来を信じて、年金制度も信じてがんばって坂を上れたのです。
しかしその後、日本はバブルの崩壊から平成に入り、俗に「失われた20年」などと呼ばれる経済停滞に入りました(令和に入って「失われた30年」になりつつあります)。その間にテクノロジーの発達や、中国の発展など国際的な経済環境が変動しているなかで、こうした日本企業における働き方の形の変化は、当然といえば当然といえるでしょう。
ここで困ったことになるのが、いまの20〜30代の若手ビジネスパーソンです。
彼らは「キャリアの考え方」について、なかなか学ぶべき相手が見つからないのです。
旧来の「終身雇用」「年功序列」のシステムが社会のなかでうまく働いているときには、ビジネスパーソンは良くも悪くも、自分のキャリアについて真剣に考える必要がありませんでした。新卒で入社した会社でそのまま働き続ければ、安定的な給料がもらえて、しかも少しずつ増えていったからです。
また、たとえば同じ会社で働いている10歳年上の先輩の姿を見ていれば、それがだいたい自分の10年後の姿だと想像できたのです。いわゆる「ロールモデル」というものです。
しかしいまは違います。新卒で入社した会社にい続け、淡々と仕事をこなしているだけでは、キャリアを通じた自己実現を達成できる見込みは低いでしょう。
同じ会社の10歳年上の先輩を見て、「自分も10年後にはあのくらいの役職になっているだろう」などと考えている楽観的な人はほとんどいないと思います。
もちろん、いまの会社で順調に出世して、50代には取締役になれそうだ、という人もいるかもしれません。ただ、すべての人がそうではない......というよりも、そういう人はごくごく一部に留まるはずです。
身近なところにロールモデルという存在がいなくなってしまっているのです。
いまの時代、たとえば、キャリアやスキル、収入をアップさせたいなら、会社の外にも目を向け、転職や副業・兼業などをどうしても考えなければいけません。
50代でやってくる役職定年と早期退職
あるいは、人並み以上の待遇を望んでいなくても、いまの会社にいつまでもいられる保証はないのです。
現状の日本の法律では、正社員はなかなか解雇できないシステムになっていますが、最近増えているのは「役職定年」という仕組みです。これは50代後半の人間を対象に、一定の条件に合致しない人を管理職から外すというもの。
これにより、50代半ばに差し掛かってから急にキャリアのはしごを外され、収入が大きく減り、部下もいなくなって、自尊心を保つ仕事ができなくなる人が増えています。
単に給料が減るだけではありません。これまで自分の部下だった年下の人間の部下になるということもあり、精神的な負荷も大きくなるのです。
あるいは「早期退職制度」で、退職金を積み増す代わりに50代での退職を迫られることもあります。
40代までであれば、まだ漫然と働いていても会社が許容してくれます。
しかし、そういった環境にあぐらをかいている人は、50歳になったあたりから風当たりが変わり、50代半ばにしていきなり収入が激減したり、職を失ってしまったりする恐れがあります。
45歳では遅すぎる!
40代まで漫然と働いていても会社が雇ってくれると言いましたが、実際のところ、キャリアは一朝一夕で形成できるものではありません。
私は経験上、30代から自分のキャリアについて真剣に考え始めたほうがいいと思っています。どんなに遅くなったとしても、リミットは45歳くらいです。
20代はまだ社会人になったばかりで、まずは社会人としての基本的な仕事のやり方を身につける時期と考えていいでしょう(もちろん、自分のキャリア形成について早くから考えることは良いことです)。
30歳くらいになると一通りのことを経験し、ある程度自分で意思決定をしたり、先を見通せたりするようになってくるでしょう。
40代になればさらに経験を積んで、いわゆるマネジメントを任される年齢になっていると思うのですが、同時に、たとえば同じ会社で同じくらいの年齢の人々との仕事力の差が明確になってきて、働く意欲が明確に落ち始めるのです。
パーソル総合研究所が1万人のビジネスパーソンを対象に行った2017年のデータでは、「出世したい」と考えている人の割合と「出世したいと思わない」と考えている人の割合は、42.5歳で逆転するといいます。
要因はいろいろありますが、この年齢になると、自分の出世の天井が見えてしまうのです。これは「ガラスの天井」といって、アメリカにも存在します。
40代から思考や習慣を変えるのは難しくなる
40代からキャリアを考えるのでは遅い理由は、それだけではありません。それよりも、思考や習慣が固定化してしまうことのリスクが大きくなります。
とくに一番危ないのは、45歳まで一度も転職を経験せず、同じ職場で働き続けている人です。
会社というのは、それぞれに「色」があります。なにかを決定するときに重視する要素や、行動のスピードなど、会社によって差があるのです。
45歳までずっと同じ会社にいるということは、20年近く、その環境に浸り続けているということですから、そこから思考方法や習慣を変えるのは非常に難しくなってしまうのです。
たとえば、こんな話があります。1990年後半の頃の話です。私はとある外資系企業の社長を、ある日本の大企業の社長に紹介することになりました。
その外資系企業は当時すでにインターネット業界最大の会社になっていました。ところが日本企業の社長は相手の社長を見て、なかば冗談でこう言ったのです。「私に会いに来るときに、ネクタイを締めなかったのは君が初めてだ」
当時から、アップルのスティーブ・ジョブズ氏のように、アメリカのネット企業界隈ではノーネクタイが当たり前でした。ネクタイは旧来の組織人のシンボルで、それを崩したいという気持ちがインターネット業界にはありました。
もちろんこれは、ノーネクタイがいいとか悪いとかという問題ではありません。社長になるまで1つの企業で過ごすと、外の世界の習慣が風変わりに見えるようになってしまいます。だから社長は悪気もなく笑ったのだと私は感じました。
こういった常識や固定観念は、本人の気づいていないところで、いつのまにか染み付いてしまっています。
環境の変化を経験しておく重要性
現代において自分のキャリアを考えるとは、必然的に転職や独立、そして副業・複業などを視野に入れて行動するということです。すなわち、「環境の変化」は避けて通れません。
環境の変化に対応し、自分の考え方、習慣を変えられる年齢のうちに行動を起こしておくことが非常に重要なのです。私自身、最初に転職をしたのは30代でしたが、転職先の考え方の違いに驚いたことがあります。
私がシスコシステムズというアメリカのネットワーク機器専門会社にいたとき の話です。当時のシスコシステムズは、毎週のようにほかの企業を買収していました。そのこと自体、日本企業ではめったにないことで私は驚いたのですが、もっとびっくりしたのは、買収された企業が喜んでいたことです。
当時の私の感覚では、買収されるのは負けを意味するような気がしていたのですが、まったく違います。私が担当した、アメリカの買収された企業の創業者は「シスコの優秀な仲間と仕事ができることを楽しみにしている」と、肯定的なのです。
なにが高く評価され、なにが評価されないかは業種、業界、社風によってまったく異なるのです。
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