(本記事は、渡部 卓の著書『40代から伸びる人 40代で止まる人』きずな出版の中から一部を抜粋・編集しています)
転職に失敗はない
転職はそもそも成功、失敗や、適切な回数、タイミングなどの基準が当てはまらないものです。
もちろんその人のタイミングによっては、転職しないほうが良いケースもあるのは事実です。いまの職場から移ったほうが良いか、それともとどまったほうが良いか自問自答するとき、そのセルフチェックには、「自分が成長できているかどうか」を目安にするとよいでしょう。
たとえば半年前、1年前の自分自身と比べて、いまの自分はどれくらい成長しているか。ビジネスパーソンとしてどのくらい新しいことに挑戦し、できることが増えたか、人脈が増えたか、などを確認しましょう。
もし、やっていることが半年前や1年前となにも変わらず、自分の能力や心持ちなども変化していないなら、受動的な現状維持状態になっている可能性があります。それを理解した上で受け入れるならいいですが、その状況に対して不安を抱いていたり、もっと自己の成長を望んでいたりするなら、転職のための行動に移すべきといえます。
ここで留意すべきは、あくまでも比べる対象は自分自身である、というところです。ありがちなのは、自分と年齢が近い社内の人間、あるいは同級生の年収などを自分と比較して焦りだし、転職を考えるケースです。
年収はその人の実力以外にも業界や会社の規模などによって変わるものですから、単純に比較できません。「隣の芝生は青い」ということわざもあるように、他人と自分を比較して行動していると、いつまでも満たされることがないのです。
なお、転職は最終的にはご本人が決めるべきですが、今の会社をほぼ辞めたほうが良いと言えそうなケースもあります。それは過労やハラスメントによってうつ状態になっている社員が多く発生しているような場合です。
2015年のクリスマスに、某大手企業の入社間もない女性社員が自らの命を絶つという、とても痛ましい事件がありました。大々的にニュースになったのでご存じの方も多いでしょう。彼女の自殺の原因は過労だったのではないかと言われています。
過労やハラスメントなどによってうつ病になったり、それに近い状態になると、判断能力も著しく低下します。亡くなった彼女がどういうメンタルの状態だったかはわかりませんが、辞めたほうが良いという判断がすでにできなくなっていたのかもしれません。
私は産業カウンセラーとビジネスコーチの資格を持っており、メンタルヘルスも専門です。もし私が彼女の労働環境や過重労働の話を、悩み始めた段階で聞けたら、会社を辞めることをすすめたり、労働環境の改善を会社側に提言したりすることができたかもしれません。
ところが、現実には彼女のように追い込まれている人に対して「もっとがんばれ、我慢のしどころだ」「(追い込まれて判断も決断もできない状態なのに)転職したほうが良い」と安易に、そして不適切に言ってしまう人が後を絶たないのも事実です。そもそも、そのような状況になるまで放置することは、経営の本質が問われます。
もし、いまの仕事がつらくて、毎日が憂鬱だとしたら、それは転職を考える立派な理由になり得るのです。
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