(本記事は、渡部 卓の著書『40代から伸びる人 40代で止まる人』きずな出版の中から一部を抜粋・編集しています)
ストレスと「ストレッサー」
とらえ方のクセによって感情が変わると書きましたが、とくにポイントになるのがストレスをもたらす「ストレッサー」への対応です。
心理学では、心身に変化をもたらす存在を「ストレッサー」と呼びます。そして、ストレッサーによって引き起こされた歪みがストレス(状態)です。
ビジネスパーソンにとっては、仕事のプレッシャーは代表的なストレッサーでしょう。しかし、だからといって仕事を放棄して逃げ出すわけにはいきません。するとジレンマに陥り、イライラや不安、モチベーション低下などのストレス反応が生じます。
頭痛や腹痛、腰痛、不眠といった体調不良のかげにストレッサーが潜んでいることも珍しくありません。
ところが、ストレスへの耐性には個人差があります。ある人にとっては耐えられるストレスも、別の人にとっては限界を超えているかもしれません。
また、ものごとを客観的、合理的、柔軟にとらえられる人ほどストレスに強い傾向にあることもわかっています。必要以上にネガティブにとらえる人は、無用なストレスを溜めこんでしまいます。
心を柔軟にしてものごとを肯定的にとらえられるようになれば、ストレスへの耐性は上がります。メンタフダイアリーはその手伝いをしてくれます。
ただし、ストレッサーは必ずしも悪いものとは限りません。適度なストレスは生活に張りをもたせてくれます。仕事のストレスから逃げ回っていれば、当然ビジネスパーソンとしての成長は鈍化してしまいます。
たとえば、やりがいのある仕事も一種のストレッサーですが、それによってもたらされる緊張感(ストレス)は仕事のパフォーマンスを上げてくれるかもしれません。まったくストレッサーがない状態では弛緩してしまうでしょう。
メンタルヘルスを害したりする悪質なストレッサーは、「予測・コントロール ができないストレッサー」です。
たとえば突然、抱えきれないほどの仕事が発生したとします。あるいはトラブルでも同じですが、これらは予測しておらず、しかもコントロールが不可能ですから、悪いインパクトを与えるストレッサーです。
最大のストレッサーは人間関係
仕事にはさまざまなストレスがありますが、最大のストレッサーになり得るのが人間関係です。
機械やソフトは習熟すればまだ理解やコントロールができますが、もっとも理解や把握が難しいのは他人。職場の人間関係ではいつトラブルや軋轢が生じるかわからず、とくに上司や取引先はコントロールが難しいためです。
部下や上司などとの人間関係からストレスを感じるのも無理はありませんが、30代になれば、愚痴や弱気ばかりになってはいけません。心を柔軟にし、上手に付き合うスキルを身につける必要があります。
変化が激しい現代では、昨日までの部下が急に昇進して上司になることもありえます。そんなときに問われるのが、変化を柔軟に受け入れる力です。「アイツは部下だったのに......」「年下なのに......」「俺のほうが経験も職務知識もあるのに......」と一面的な見方にこりかたまった心はストレスを生むでしょう。
ストレスを感じやすい人は、視野が狭く、完璧主義者である傾向があります。「~でなければいけない」「~に違いない」といった考え方をしてしまう人は要注意です。もちろんいい加減で無責任、すべてに甘く適当すぎては困りますが、バランスがとれたレベルでの「ほどほど」で済ませることがストレスを溜めこまないポイントです。
そうはいっても、それはもう承知しているでしょうし、口で言うほど簡単ではありません。
ただ、「完璧でなければ気が済まない」などのさまざまなものごとのとらえ方、考え方のクセですが、先ほど述べたように、まずは自分のクセやパターンに気づかなければ、そのクセを直せることはまずありません。それは一生続くことが多いのです。そのことに気がつくことがどれだけ得策かは、冷静になればよく理解できるはずです。
そこで、自分の考え方を振り返り、客観的に観察できるメンタフダイアリーが 役立ちます。メンタフダイアリーは中国でもその書き方が書籍になり、とても多くの書評で評価されています。
次に、メンタフダイアリーを書くにあたって覚えてほしい考え方を説明します。
ネガティブ思考には ABCDE理論
ものごとのとらえ方を変えると感情が変わるということを説明した理論に、アメリカの心理学者であるアルバート・エリスが唱えた「ABCDE理論」があります。
A、B、Cはそれぞれ「出来事(Activating event)」「そのとらえ方(Belief)」「結果(Consequence)」の頭文字です。この結果とは、生み出された感情や行動のことを指します。
「ABC」とは、出来事(A)がそのまま感情に繋がるのではなく、とらえ方(B) によって結果(C)が決まることを示しています。
たとえば、あなたが仕事で失敗し(A)、「自分はなんてダメな人間なんだ」と とらえ(B)、その結果仕事へのモチベーションが下がった(C)とします。こ れがABCです。
ですが、理論にはまだDとEが残されています。Dは「異議を唱える・論じる (Dispute, Discussion, Dialogue, Debate)」という意味であり、Eは「効果(Effect)」です。
仕事での失敗でモチベーションが下がっても(C)、自分のその考えに第三者的な視点を持ち込み、客観的に異議を唱えて見直し(D)、別のとらえ方ができ るようになれば、ネガティブな感情を打ち消す効果(E)が生まれてきます。そ れがABCDE理論の骨格です。
ABCDE理論に基づくと、仕事の失敗によってモチベーションが落ちたの は、「失敗をした自分はダメな奴だ」と自ら解釈(Belief)したからであるとわかります。
しかし、その認知、解釈、判断は正しかったのでしょうか? 仕事で失敗をしない人がいるでしょうか? ほかの人は気にしないくらいの小さな失敗ではないでしょうか? 自分の考え方を客観的・冷静に見直すと、果たして落ち込むほどの大きな失敗だったのか、周囲の人が気にするほどの失敗ではなかったのではないか、ということに気づくことができます。
すると、「次は失敗の要因を周到な準備で潰しておこう」などと前向きに考えることができるようになります。
このように、出来事に対して他人からみれば非合理的なとらえ方をしてしまうことで、ネガティブな感情に繋がるケースが非常に目立ちます。 ということは、合理的な、客観的な思考を身につけることができれば、不要にネガティブになることを避けられるということでもあります。
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