(本記事は、渡部 卓の著書『40代から伸びる人 40代で止まる人』きずな出版の中から一部を抜粋・編集しています)
家庭がうまくいくと、仕事もうまくいく
自分自身を知る上でもう1つ大事なのが、自分にとって重要な人物を把握しておくことです。これは、「自分自身」を除きます。こうした、自分に関係のある重要な人物のことをステークホルダーと呼びます。
これは1人に限定しなくてもかまいません。「ワーク」「ライフ」「ソーシャル」のそれぞれの領域で、重要な人も異なってくるはずです。
これらの人々を一覧表にして「彼らが私に期待していることはなんだろう」と考えてみてください。
これは実際にその人に質問しなくてもかまいません。そのような質問をしたら、相手がどのように返答するかを想像するだけでOKです。
そして、そうした期待に対して、いまのあなたがどの程度応えられているかも、自己評価で構いませんから、考えてみましょう。
次は逆に、「私が彼らに期待していることはなんだろう」と考えてみます。そして、実際にそれがどれくらい実現されているのかを評価してみるのです。
こうした関係性の人々は少なからぬ人数に及ぶと思いますから、できれば紙などに表でまとめましょう。
それをまとめていくと、おそらくあることに気づくはずです。それは、さまざまな領域で、あなたが相手に求められていること、相手に求めていることに、共通の項目が見つかるということです。
たとえばよくあるのは、「自分のことを評価してほしい」というものです。仕事はもちろん、家庭でも家事などをやっていれば、そのことをちゃんと認めてほしい、という気持ちを持っている。そういうことに気づくはずです。
これは、「ワーク」「ライフ」「ソーシャル」に重なるところがあることの証でもあります。私たちは会社や家庭でそれぞれ違う役割を持っていますが、結局は同じ人間で、別の人格になるわけではありません。
あなたと他者との関係は、「あなたの人生」という大きなシステムの一部であり、連動しています。
たとえ仕事でうまくパフォーマンスが発揮できなくても、家庭など「ライフ」のフィールドでのパフォーマンスを向上させることで、仕事にプラスの影響を与えることができるのです。
多くの人は、「ワーク」「ライフ」「ソーシャル」をゼロサムで考えてしまいます。
たとえば、「仕事をがんばっているから、家族とのコミュニケーションが減ってしまうのは仕方がない」といったような考え方です。
しかし、そうではないのです。むしろ、そのような考え方は仕事や家庭が自分のコントロール下にないこと、すなわち、自分自身がリーダーシップを持てていないことの証ですらあります。
「ワーク」でも「ライフ」でも「ソーシャル」でも、コントロールできるのはあなたであり、リーダーシップを発揮することができます。
そして同時に、ある1つのフィールドで高いパフォーマンスを発揮すると、その影響はほかのフィールドに及びます。
大切なのは、自分がどのフィールドでどのくらいのパフォーマンスを発揮できているのか、現状を確認すること。そして、そのなかで、いまの自分が一番パフォーマンスを発揮しやすいのはどのフィールドだろうかと考えてみることです。
たとえば、仕事がうまくいっていない人は、家族とのコミュニケーションも不足しがちで、家庭にも不満が溜まってはいないでしょうか。
新しい行動を起こしたり、環境を思い切って変えたりするのは、会社よりも家庭のほうが簡単なことが多いものです。
リーダーシップは「主語」に表れる
真のリーダーシップは、じつは「主語」に表れます。
ほとんどの人々は、なにかを考えるときに「私は」と、自分自身を主語にします。しかし、リーダーは「私たち」を主語にするのです。
自分の成し遂げたいことを実現するためには、周囲の人々の協力が欠かせません。仕事はもちろんのこと、家庭の問題だって、配偶者や子どもの同意を得られなければ実現することはできないでしょう。
そのためには、自分の求めるものと相手の求めるものを理解し、すり合わせ、自分の利益と人々の利益を調和させる必要があります。つまり、自分のやることが相手にとっても利益があると思わせるのです。
ただし、ここで多くの人がぶつかる2つの壁があります。
「モラルの壁」と「合理性の壁」です。
「モラルの壁」というのは、自分のやりたいことのために周囲の人間を動かすことを「人を操る」といったイメージで自分のなかで考え、自分のアイディアを主張するのを躊躇してしまう心理のことです。
一方、「合理性の壁」というのは、正しさを追求するあまり、自分のアイディアに対する他者の反対を受け入れ、「自分が間違っているのかもしれない」「忘れたほうがいいだろう」と考えてしまうことです。
これは間違いで、乗り越えるべき壁です。
たしかに、一人称が「私」で、その考え方や行動があなたにしかメリットがないのであれば、こうした懸念は正しいのかもしれません。 しかし、主語を「私たち」で考え、自分のことだけではなく、他者のメリットにもなるように行動しているのであれば、間違ってはいないのです。
もう1つ、リーダーシップという点で言えば、真のリーダーは自分が称賛されるよりも、人のことをより称賛するということです。
主語が「私たち」ですから、たとえ目標を達成できてもその成功を自分で独り占めにせず、周りの人々に実力を発揮する機会を与えて称賛するのです。
これは、人間にとって大きな資源である「社会的資本(ソーシャル・キャピタル)」を豊かにする原動力となります。
他者の成功に積極的に貢献することによって、自分も他者から貢献してもらえるようになる互恵関係です。
ビジネスにおいては人脈が大事だ、ということがよく言われますが、これはべつに交友関係の広さが大切なわけではありません。
そうではなく、このような互恵関係をどれだけ多くの人と築けているか、が大事なのです。
そしてこれはもちろん、「ワーク」の領域だけに限る話ではありません。
「ライフ」「ソーシャル」のそれぞれのフィールドで互恵関係を築き、ネットワークを持っておくことが、キャリア形成における重要な要素の1つとなります。
また、この「与える」という行為は、幸福そのものにも高い影響を与えます。
人間は他者からなにかを与えられるよりも、他者に与える行為をしたほうが、じつは気持ちよくなれるのです。このことは、ドイツのリューベック大学が行った、MRIを使った実験でも明らかにされています。
人を助け、「与える側」に立つほうが楽しいし、結果として社会的資本の蓄積 にもつながるわけです。
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