12月に入り、ドル円は米経済指標の悪化や米中協議の長期化懸念から一旦やや円高に振れたが、米中協議が「第1段階の合意」に至ったことや英総選挙での保守党勝利によって合意なき離脱リスクが低下したことを受けてリスクオンの円売りが優勢となり、足元では109円台前半で推移している。
米中が部分合意に至ったことは世界経済にとってポジティブであるが、今のところドル円の反応は鈍い。理由としては、(1)合意に伴う米国側による既存の関税引き下げが小規模に留まったこと、(2)合意内容を巡る両国の説明に不一致があること、(3)米国が「第2段階の交渉」の早期開始を主張し、摩擦再燃が警戒されたことがリスクオンの円売りを抑制したと考えられる。また、合意直前に行われたFOMCで、来年にかけて政策金利が据え置かれる可能性が示唆されていたため、米利上げ観測が盛り上がらなかったという事情もある。
今後3ヵ月を見通すと、米中摩擦緩和に伴って世界経済の底入れ、米経済指標の改善が期待されるため、ドル円は上値を試すと見込まれる。ただし、米中協議は今後も一筋縄には行かず、FRBの利上げも当面全く視野に入って来そうに無い。従って、ドルの上値は重く、3ヵ月後の水準は現状比でややドル高程度に留まるとみている。
ユーロ円は12月に入ってしばらく120円台での横ばいが続いていたが、英総選挙を経て合意なき離脱リスクが低下したことを受けてユーロが買われ、足元は121円台後半に上昇している。ただし、今後は英国とEUとの間のFTA交渉が難航しそうなこと、ユーロ圏の景気は低迷が続くと見込まれることから、ユーロ買いの持続性は乏しいだろう。3カ月後の水準は現状程度に留まると見ている。
今月の長期金利はリスクオンに伴う米金利上昇と日銀による追加緩和観測の後退を受けて上昇し、足元は▲0.01%台で推移している。今後も世界経済の底入れ感による上昇圧力が予想されるものの、米利上げが見通せない以上、米金利の上昇余地は乏しい。また、プラス圏では本邦投資家による強い需要が見込まれることも、金利上昇を抑制する。3カ月後の金利水準は現状並みに留まると見ている。
(執筆時点:2019/12/18)
上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト
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