「いちばん厳しいお客さまの目」で考えられているか

もちろん、誰でも初めは不慣れで失敗もするものです。それがいけないと言っているのではありません。ただし、新人が新人なりに精いっぱいやっていたとしても、お客さまの求めるレベルに達していなければ、意味がないのです。あくまでもお客さまの視点です。

そして、その仕事に従事する上で必要とされるスキルと共に、「お客さまから求められているのは何なのか」をきちんと教えないまま、現場に立たせる会社のあり方に問題があるのです。

接遇に不満があったとき、直接その場で文句を言ってくれるようなお客さまは実は有難い存在で、たいていの場合、お客さまというのは、不快感を持ったら二度と来ません。「黙って去っていく」が大原則で、次の機会はないのです。

新人教育を徹底している会社は、従業員教育の大切さをよく分かっています。お客さまを大事にするためにどうしたらいいかを考えている会社です。

本当の「お客さま第一」とは、売り手の立場でものを考えるのではなく、買い手の視点に立つことです。お客さまの立場になって、お客さまが満足するレベルで「どうしてもらえるのがうれしいか」を考えられるようになることです。

そのためには、社長や幹部が、「いちばん厳しいお客さまの目でものを見られる」ことが大切です。

私の知っているある社長は、事前に知らせることなく、ときどき一人でふらりと店舗を訪ねます。店長以外はほとんどの従業員が社長の顔を知りませんから、ただのお客さまとして接遇しています。「そこで感じたことは、たいてい、今のわが社の課題なんですね。面白いですよ」とその社長は言います。こういう視点が良い商品やサービスを生むのです。

小宮一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント、小宮コンサルタンツ代表
1957年、大阪府生まれ。1981年、京都大学法学部を卒業後、東京銀行に入行。1986年、米国ダートマス大学経営大学院でMBAを取得。帰国後、経営戦略情報システム、M&A業務や国際コンサルティングを手がける。1993年には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。1996年、〔株〕小宮コンサルタンツを設立。『小宮一慶の1分で読む!「 日経新聞」最大活用術』(日本経済新聞出版社)など、著書多数。(『THE21オンライン』2019年11月05日 公開)

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