業界のイロハを知らないから、「魔物」に気づけた

私は保険・金融業界で長い間、生きてきましたが、幸いなことに「4つの魔物」が戦うべき相手であることを認識してきました。それは、私がこの業界に飛び込んだとき、業界のイロハも知らない素人だったからです。それゆえにずいぶん失敗もしてきましたが、当初から「なぜ、こんな非効率なことをしなければいけないのだろう」と、疑問を感じることも少なくありませんでした。

そのことは、保険・金融業界が他業界に比べて監督官庁の強い統制のもとにあり、法律面でもさまざまな規制に取り巻かれていたという特殊な事情が大きく関係しています。

ただ、そうした事情を考慮しても、私が当初から反発を感じていたのは、この業界にお客様サイドからの発想が薄いことでした。お客様にとっての利便性より、業界の悪しき「慣習」が優先するような印象が強かったのです。私は、まさにその点にビジネスチャンスを見出したわけですが、もしみなさんも業界にお客様ファーストとはいえないような悪しき「慣習」を発見したら、恐れることなく排除してください。

既成概念の中にも「よいもの」がある

また、「既成概念」ほど営業マンの思考や行動を制限するものはありません。その多くは封建的、保守的、閉鎖的な業界の「慣習」からきており、だからこそ、営業マンは常に民主的、革新的、開放的な思想、思考にもとづき行動しなければなりません。

すべてはお客様の利益という観点からゼロベースで見直すべきですが、気をつけたいのは、「慣習」も「既成概念」も「業界文化」も「古い成功事例」も、古いものは単に破壊すればいいと安易に考えないことです。

どんなに古くさく思えるものにも、長年にわたって尊重され、定着してきたということには、それなりの理由があるはずです。過去から踏襲されている「よい慣習、よい事例」を馬鹿にしてはいけません。そのなかにも未来の成果、成功のヒントは多く隠されているのですから。

そうした事情をまったく考慮せず、とにかくすべてを破壊しようというのは、単なるトラブルメーカーです。お客様のためにもならないでしょう。

お客様は、「いままでつきあってきた営業マンとは違う」「話が通じる」と感じた営業マンを選びます。それは、業界の常識を踏まえつつ、業界っぽさを感じさせない営業マンと表現できるのかもしれません。

一戸 敏(いちのへ・さとし)
保険代理店(株)エージェント代表取締役兼CEO
北海道札幌市出身。明治大学商学部中退。会計事務所勤務を経て28歳で保険業界に転身。営業マンとして数々のタイトルを獲得すると同時に、自身が経営する株式会社エージェントを大型化し、グループ全体で300名ほどの組織を形成し、グループ全体で取扱高100億以上の企業にまで成長させる。住宅・不動産会社(株)FIND会長兼ファウンダー。米国保険ブローカーAgent America co.,ltd Director。保険業界の称号であるMDRT終身会員(18年連続登録)、MDRT COT11回登録、MDRT TOT2回登録。(『THE21オンライン』2019年11月11日 公開)

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