さらに医療保険制度などでは、民主党支持者の間でも考え方が異なっており、合意形成は困難
最近発表された米国の世論調査は、米国が直面する諸問題に対する考えが支持する政党によって大きく乖離している。さらに、医療保険制度などの特定の問題では支持する政党が同じであっても世代によって支持する政策が異なる実態を示している。
ピュー・リサーチが最近発表した世論調査(1)では、米国が直面する諸問題について「非常に大きな問題」との回答割合は「医療費負担」が66%、「薬物中毒」が64%と大きくなっているほか、「大学の学費負担」(55%)、「財政赤字」(53%)と続いている(図表1)。
世論調査の結果をさらにみると、支持する政党によって回答が大きく乖離していることを示している。民主党支持者の73%が「気候変動」を「非常に大きな問題」と捉えているのに対し、共和党支持者ではその割合は僅か17%に留まっている。「不法移民」の問題では、逆に共和党支持者の67%に対して民主党支持者では23%である。「財政赤字」、「テロ」、「薬物中毒」など乖離幅が1桁に留まっている項目はあるものの、世論調査が対象とした11項目で支持政党による乖離幅の平均は27%ポイントにも上っている。
このような中で民主党、共和党支持者ともに「非常に大きな問題」との回答割合が過半数を超える項目は、「薬物中毒」、「医療費負担」、「財政赤字」の3項目となっており、これらの項目では重点的に超党派での対応が求められていると言えよう。
実際に「薬物中毒」問題では、病院で処方される麻薬系鎮痛薬であるオピオイドが原因の中毒患者や中毒死の急増に対して、18年10月には中毒患者の治療や回復支援、中毒の予防などを盛り込んだ“SUPPORT法”を超党派の圧倒的な支持(2)で成立させた例がある。
一方、「非常に大きな問題」との認識で一致していても、必ずしも超党派で解決策を合意できるとは限らない。例えば、「医療費負担」に関しては負担軽減のために、製薬会社に対して薬価の引き下げを求める点は、与野党問わず概ね合意されているものの、医療費負担に密接に関連する医療保険制度改革に対する考え方は支持する政党によって大きな違いがある。
トランプ政権は、オバマケアが求める個人保険の加入義務を廃止したほか、民間医療保険の加入に際して既往症の有無で加入制限を設け、保険料に差をつけることで、無保険者は増加するものの、保険料負担の軽減を目指している。世論調査でも共和党支持者の「国民皆保険が政府の責任ではない」との回答割合が、70%と高くその政策が支持されている(図表2)。
一方、民主党は国民皆保険によって、医療費支払額や医療保険管理手数料の削減を目指しており、世論調査も民主党支持者の83%が国民皆保険を支持している。
もっとも、国民皆保険をどのように実現するのかは、公的と民間保険を組み合わせる現行のオバマケアの制度強化を支持する回答割合が38%となっているのに対して、民間保険を締め出し、連邦政府が唯一の保険提供者となって、単一の国家プログラムとして国民皆保険を実現する所謂メディケア・フォー・オールの支持が44%と拮抗している。このため、医療保険制度に対する民主党支持者の考えも一枚岩ではない。
さらに、民主党支持者の中でも、年齢階層別の回答は65才以上では、公的と民間保険の組み合わせ支持が56%と過半数となる一方、18~29才では、逆に単一の国家プログラムが50%と、公的と民間保険の組み合わせ支持の27%に大きく差をつけており、年齢によって支持する政策は異なっていることが分かる(図表3)。このため、医療保険制度では与野党間、民主党支持者の間でも意見相違が大きく、米国民が広く合意できる政策の策定は困難とみられる。
これまでみたように米国が直面する諸問題の捉え方は支持政党によって大きく異なる。また、同じ政党を支持している有権者の間でも、特定の問題で年齢などの属性によって大きく異なっており、分断された世論からは、米国の諸問題に対する政策について、多くの国民が納得する形で実現することは容易ではないだろう。
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(1) “In a Politically Polarized Era, Sharp Divides in Both Partisan Coalitions” (2019年12月17日)
(2)下院は賛成396対反対14、上院は賛成98対反対1
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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