相続,不動産,売却
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中川崇
中川崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

相続で不動産を取得したとしても、何らかの事情でそのまま持ち続けることができずに売るケースは多い。そこで、今回は相続した不動産を売却した場合にかかる税金と、それを軽減する制度について紹介する。

不動産を売ったときにかかる税金は? 計算方法も紹介

個人が保有する不動産を売却した場合、所得税や住民税がかかる。ここでは、その計算方法について説明する。

譲渡所得の計算方法

譲渡所得の計算には、基本的に以下の式を用いる。

収入金額 - (取得費 + 譲渡費用) =譲渡所得

上記の数式に書かれた言葉の意味は、以下のとおりだ。

収入金額 不動産を売った代金。なお、固定資産税の精算分を受け取った場合はそれも収入金額に加える。
取得費 売った不動産を、買ったときに支払った代金。詳細は後述する。
譲渡費用 不動産を売却したときにかかる費用。詳細は後述する。

不動産の譲渡にかかる所得税・住民税の計算方法

不動産の譲渡にかる所得税・住民税の金額は、以下の計算式で算出される。

譲渡所得 × 税率 = 税額

税率は、売った年の1月1日時点の保有期間によって、以下のようになる。

5年超 所得税 15.315%
住民税 5%
5年以下 所得税 30.63%
住民税 9%

(注:所得税には復興特別所得税が含まれる)

相続で取得した物件の保有期間の計算方法

相続で取得した不動産の保有期間は、亡くなった人がその不動産を取得したときから数える。

取得費の計算方法(資料がある場合)

取得費はそれを購入したときにいくら支払ったかをもとに計算するが、以下の費用を加えることができる。

・不動産業者に支払った仲介手数料
・測量費
・造成費用

なお、建物の場合は減価償却費を控除する必要がある。居住用の計算式は、以下のとおりだ。

建物の取得価額×0.9×償却率× 経過年数= 減価償却費

償却率は建物の構造によって異なり、以下のとおりだ。

木造 0.031
(鉄骨)鉄筋コンクリート 0.015

事業用ついては、事業を通じて行った減価償却の累計額を控除する。

土地と建物の総額がわかるものの、建物の価格が契約書ではわからない場合は、以下の方法で算出する。

・取得時の固定資産税評価額をもとにして按分する
・建物の標準的な建築価額表をもとにして計算し、残額を土地の取得費とする

取得費の計算方法(資料がない場合)

契約書などの資料がなく、取得費がわからないことも多い。その場合は以下の方法で算出する。

取得費は売却価格の5%とするのが一般的だ。たとえば物件が3,000万円で売れた場合、その5%の150万円を取得費とする。

ただし、それでは譲渡所得ひいては税金が高くなることがある。その場合は、その他の資料を使って推定する方法もある。マンションの場合、募集当時のパンフレットに書かれている金額を取得価格とすることがある。

不動産を取得するときに借入れを行っていれば、抵当権を設定しているため、記載事項証明書を取得すれば借入金額がわかり、それをもとに取得費を推定できる。ただし、これはあまり用いられない方法なので、税務署から質問があったときに説明できる資料を用意しておく必要がある。

譲渡費用

譲渡所得を計算するためには、譲渡費用を知る必要がある。これは、不動産を売却するために直接かかった費用のことで、売却価格から差し引くことができる。譲渡費用には、以下のようなものがある。

・売却時に不動産会社に支払った仲介手数料
・契約書の印紙で売主が負担したもの
・土地を売却するために、建物を解体したときの費用とその建物の損失額

なお、以下は譲渡費用にはならない。

・固定資産税など維持するための費用
・売った代金の取立ての費用

相続した物件に関する様々な制度がある

相続した物件を売却した場合は、特別な控除が受けられたり、取得費に一定金額を加算できたりする制度がある。空き家の3,000万円控除や、相続税の取得費加算制度がそれだ。

相続不動産の制度1. 空き家の3,000万円控除

亡くなった人の家が空き家になり、更地にしたり、建物を補強したりして、令和5年12月31日までに売却した場合、売却益から3,000万円を控除できる制度である。

要件

1.亡くなった人の要件

・亡くなった人が亡くなる直前まで家屋に居住していたこと、または亡くなった人が要介護認定等を受けた後、亡くなる直前まで老人ホームなどにいたこと

2.空き家の要件

・相続で取得したものであること
・昭和56年5月31日以前に建築されたこと
・区分所有建物登記がされている建物でないこと
・亡くなった人がそこに住んでいた場合は亡くなった時、老人ホームに入っていた場合はその時から事業の用、貸付けの用、または(その人以外の)居住の用に供されていないこと
・亡くなった人がそこに住んでいた場合は亡くなった時、老人ホームに入っていた場合はその時において亡くなった人以外誰も住んでいないこと

3.建物を残して売る場合の要件

・譲渡の時において、一定の耐震基準を満たすものであること

4.建物を取り壊して売却する場合の要件

・持ち主が亡くなった時から取り壊した時までその住宅で事業や貸付を行っていたり、誰かが住んだりしていなかったこと。
・持ち主が亡くなった時から譲渡の時まで事業や貸付を行っていなかったこと
・取り壊した時から譲渡の時まで建物を建てたり、構築物を設置したりしていないこと

その他、以下の要件を満たす必要がある。

・相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・売却代金が1億円以下であること

手続

家屋を取り壊して売却する場合、適用を受けるには確定申告をする必要がある。必要な書類には、以下のようなものがある。

・市区町村長から交付を受ける「被相続人居住用家屋等確認書」
・譲渡所得の内訳書
・全部事項記載証明書
・売買契約書の写しなど売却代金を明らかにするもの

相続不動産の制度2.相続税の取得費加算制度

相続によって取得した土地や建物などを一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定の金額を取得費に加算することができる制度だ。

取得費に加算できる金額は、以下の計算式で求められる(平成27年1月1日以降に相続があった場合)。

式

要件

以下の要件を満たす必要がある。

・相続や遺贈により財産を取得した者であること
・その財産を取得した人に相続税が課税されていること
・その財産を亡くなった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

手続

この特例の適用を受けるためには確定申告を行う必要があり、必要書類は以下のとおりだ。これらは、国税庁のホームページや税務署で取得できる。

・相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
・譲渡所得の内訳書

その他にも不動産の売却時に節税できる制度はある!

ここまでで説明したものは、相続などで入手した不動産にしか適用されないが、相続したかどうかに関係なく、不動産を売却した時に譲渡所得の控除や税率の軽減が適用される制度もある。

相続不動産の節税1. 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除

居住用財産であれば、譲渡所得から最大3,000万円控除できる制度だ。

要件

1.物件の売却時点の要件

まず、以下のいずれかを満たす必要がある。

・住んでいた物件であること
・その家に住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・災害によって滅失した場合はその敷地を住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること

家屋を取り壊した場合は、以下の要件が加わる。

・家屋を取壊した場合は取り壊してから1年以内に売却すること

2.売却先の要件

・売手と買手が親子や夫婦など特別な関係ではないこと

3.他の制度の利用の要件

・売却した前年や前々年にこの制度や居住用財産の譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
・売却した年や、前年や前々年に居住用財産の買換えや居住用財産の交換の特例の適用を受けていないこと。
・売却した年とその前後2年間に住宅ローン控除の適用を受けていないこと
・売却した家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと

手続

確定申告が必要になる。必要書類は、以下のとおりだ。

・戸籍の附票の写しまたは消除された戸籍の附票の写し(売却時にその物件に住んでいなかった場合)
・譲渡所得の内訳書

相続不動産の節税2. 10年超所有軽減税率の特例

居住用財産を売却した際、一定の要件に当てはまれば、軽減税率の特例を受けられるものである。税率は、6,000万円までの部分が14.21%(所得税、復興特別所得税、住民税の合計)である。

要件

1.物件の売却時点の要件

まず、以下のいずれかを満たす必要がある。

・住んでいた物件であること
・その家に住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・災害によって滅失した場合は、その敷地を住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること

家屋を取り壊した場合は、以下の要件が加わる。

・家屋を取り壊した場合はその1年以内に売却すること
・取り壊してから売却まで賃貸などその他の用に供していないこと

2.所有期間の要件

・売却した年の1月1日において売却した家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること

3.売却先の要件

・売手と買手が親子や夫婦など特別な関係ではないこと

4.他の要件との兼ね合い

・売却した年の前年及び前々年にこの特例を受けていないこと
・売却した年とその前後2年間の間に住宅ローン控除の適用を受けていないこと
・売却した家屋や敷地について居住用財産の買換えや交換の特例など他の特例を受けていないこと

なお、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除と併用することができる。

手続

適用を受けるためには、確定申告を行う必要がある。必要書類は、以下のとおりだ。

・譲渡所得の内訳書
・売った居住用家屋やその敷地の登記事項証明書
・戸籍の附票の写しまたは消除された戸籍の附票の写し(売却時にその物件に住んでいなかった場合)

相続不動産の節税3.特定居住用財産の買い替え特例

特定の居住用財産(旧物件)を令和元年12月31日までに売却し、代わりの居住用財産(新物件)に買い換えた場合、一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる。

この制度は、今後の法改正によって復活する可能性があるものの、現時点では令和元年12月31日までの特例であるため、簡単な説明に留めておく。

主な要件

主な要件は以下のとおりだが、他にも要件があるので適用を受ける際は確認してほしい。

1.旧物件の売却時点の要件

・譲渡した年の1月1日時点の所有期間が10年を超えること
・譲渡したときにおいて10年以上居住していたこと

2.売却条件の要件

・売却代金が1億円以下であること

3.売却先の要件

・売手と買手が親子や夫婦など特別な関係ではないこと

4.買い換える物件の要件

・新物件の床面積が50平方メートル以上のものであること
・旧物件を売った年の前年からその年の12月31日までの間に新物件を買うこと
・その新物件に、譲渡した年の翌年の12月31日または新物件を買った年の翌年の12月31日までに住むこと
・新物件は25年以内に建築されたものか一定の耐震基準を満たしていること

5.他の制度との兼ね合い

売却した2年前から本年までの確定申告時に他の制度を使った場合は、この制度が使えないことがある。

手続

適用を受けるためには、確定申告が必要になる。

相続不動産の節税4.居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除

令和元年12月31日までに居住用財産(旧物件)を売却して新しい居住用財産(新物件)を買い、旧物件を売却した時に譲渡損が出た場合は一定の場合に限り、他の所得と損益を通算できる。通算してもなお余りが出る場合は、3年間に限り損失を繰り延べ、相殺することができる。

なお、この制度は今後の法改正によって復活する可能性があるものの、現時点では令和元年12月31日までの制度であるため、簡単な説明に留めておく。

主な要件

主な要件は以下のとおりだが、他にも要件があるので適用を受ける際は確認してほしい。

1.物件の売却時点の要件
・旧物件を譲渡した年の1月1日時点での所有期間が5年を超えること

2.所得の要件
・繰越控除はその年の所得が3,000万円以下であること

3.売却先の要件
・売手と買手が親子や夫婦など特別な関係ではないこと

4.買い換える物件の要件
・旧物件の建物の床面積が50平方メートル上のものであること
・旧物件を売った年の前年から翌年までの3年の間に新物件に買い換えること
・新物件に、旧物件を譲渡した年の翌年の12月31日または新物件を買った年の翌年の12月31日までに住むこと

5.住宅ローンの要件
・新物件に対して取得した年の12月31日までに償還期間10年以上の住宅ローンを組むこと
・繰越控除を使う場合はその年の12月31日時点で、償還期間が10年以上あること

6.他の制度との兼ね合い 売却した2年前分から本年分までの確定申告で他の制度を使った場合は、この制度が使えないことがある。

手続

この制度の適用を受けるためには、確定申告が必要になる。また繰越損失を使う場合は、損失申告用の確定申告書を作成しなければならない。

相続不動産の節税5.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除

令和元年12月31日までに住宅ローンが残っている居住用財産を売却し、売却額が住宅ローン残高を下回った場合は一定の場合に限り、他の所得と損益を相殺できる。通算してもなお余りが出る場合は、3年間に限り損失を繰り延べ、相殺すること(繰越控除という)ができる。

損益通算や繰越控除ができるのは、売却直前の住宅ローン残高から売却価格を引いた残りの金額だ。なお、この制度は今後の法改正によって復活する可能性があるものの、現在のところは令和元年12月31日までの制度なので、簡単な説明に留めておく。

主な要件

主な要件は以下のとおりだが、他にも要件があるので適用を受ける際は確認してほしい。

1.物件の売却時点の要件
・譲渡した年の1月1日時点での所有期間が5年を超えること

2.所得の要件
・繰越控除はその年の所得が3,000万円以下であること

3.売却先の要件
・売り手と買い手が親子や夫婦など特別な関係ではないこと

4.住宅ローンの要件
・譲渡契約を締結した時点において譲渡した物件にかかる住宅ローン残高があり、売却価格がそれを下回っていること

5.他の制度との兼ね合い
・売却した2年前から本年までの確定申告時に他の制度を使った場合は、この制度が使えないことがある。

手続

損益通算を行うには、確定申告が必要になる。繰越控除を行うには損益通算をした年について期限内に確定申告を行い、その翌年から連続して終わるまで確定申告を行う。

文・中川崇(公認会計士・税理士)

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