(本記事は、齊藤 勇の著書『誰とでも会話が続く「相づち」のコツ』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

間接的に相手の評価を伝えてあげると喜ばれる

デキる人,質問
(画像=oldtakasu/photoAC)

相槌の「あいうえお」の2番目、「い」は評価の相槌「いいですね」です。

「いいですね」「それ、いいですよ!」などの「い」です。これは、話し手からの提案や問いに、肯定的評価をする相槌です。評価的相槌については、すでに、基本の相槌「さしすせそ」で十分に説明してきました。たとえば、「さすが」、「すごい」といったものが評価の相槌です。

人はだれでも、ほめられるのが大好きです。常に心の中では、ほめられたいと思っています。そのため、評価の相槌は相手の心を直接打つことになり、好意を引き出すことにつながります。

「さすが」も「すごい」も大変有効ですが、あまり多用すると話し手が、気はずかしくなることがあります。しらじらしさを感じさせてしまうのです。

さらに、話し手の人格や才能をほめてばかりいると、自分の方がみすぼらしく感じるようになる可能性があります。すると、ほめ言葉に誠意が感じられなくなり、効果が薄くなってしまうのです。

そんなとき、「いいですね」という評価の相槌は大変使いやすい相槌です。「いいですね」は、個人の特性を直接に評価しているのではなく、仕事や活動、提案をほどよく評価しているので、いわば間接的に相手を評価する相槌なのです。

間接的評価は、直接的評価に比べ、相手の心にぐさりとは刺さりづらいものです。しかし、逆に、言いやすいという利点があるので、話し手も受けやすいといえます。

「その案、いいですよ」
「そのやり方、いいですね!」
「いや〜、いい話ですね」

など「いいですね」の相槌は、評価が、当人に向けられていないので、何回言っても、相手を途惑わせたりはしないのです。また、逆に、相手に疑いの目をもたれることも少ないのです。そのため、より気楽な相槌として多用でき、関係を深めることができます。

「そのカバン、いいですね」のように、人は間接的にほめられても、もちろん、うれしいものです。自分の持っているカバンや時計をほめられても自分がほめられているときと同じようにうれしいはずです。そして、自己重要感を充実させられます。話し手の話の内容や提案を評価して、「いいですね」と感心することは、相手の持ちものや服装をほめているのと同じ効果があるのです。

話し手が、自信たっぷりの自尊心(自己評価)の高い人なら、直接的なほめ言葉、直接的な評価の相槌が功を奏するでしょう。こういう人は、前にも話しましたが、心理学でいう「自己確証欲求」が強い人だといえます。皆が嫌がるテストを受けたがり、自分の実力を確認したい人です。

しかし、日本人的な恥じらいを持っている人は、間接的な評価の相槌「いいですね」の方がしっくりくることが少なくないのです。

誰もが自分を評価してくれる人を密かに探しています。だからこそ、自分の才能を認めてくれ、評価してくれた人には、心から感謝し好意を持ちます。しかし、言葉ではっきり自分を評価してくれる人は、なかなか現れません。

そこに、あなたが印象を残す、チャンスがあるのです。ほかでもない、あなたがその役を買って出れば、あなたは相槌一つで人の心を奪うことができるのです。まずは、「いいですね」と言って、間接的にほめ、その後「すごい」、「さすが」そして「ありがたい」などを組み合わせてみて下さい。

「いいですね」は、使いやすいうえに、組み合わせもしやすい、有効な相槌なのです。

否定語で心をくすぐる裏ワザ

英語フレーズ,ソライロモンド

相槌の「い」には、もう一つの「い」があります。それは、「いえ、いえ」です。

相槌は、話し手に調子を合わせ、相手を持ち上げる言葉なので、基本的に、ほめ言葉であり、ポジティブな言葉です。

しかし、なかには、「いえ、いえ」のように否定語もあります。もちろん、否定語であっても、相槌なので結果的に相手を肯定していくという特徴があります。「いえ、いえ」は、相手が自己否定をするような発言をした際に、それを否定するために使います。いわば、「二重否定による肯定のほめ言葉」の相槌です。

日本人同士の会話には、特に大人になると自分を卑下する表現が多く使われます。それに対して、「いえ、いえ」の相槌で返すのです。 たとえば、

「自分はうまく話せないので......」
「いえ、いえ、そんなことないですよ。お話、おもしろいですよ」
「頭が悪くて、これ以上、よい考えが浮かばないんですが......」
「いえ、いえ、十分素晴らしいお考えですよ!」

などが挙げられます。

話し手が自分を卑下したとき、この表現を真に受けて「そうですね」と言う人はいないはずです。もしそんな人がいたら、日本人同士の会話のルールを理解しておらず、社会性に欠けている人と見られてしまいます。仲間同士の冗談なら別ですが。

繊細な日本人同士の会話において、「いえ、いえ」は非常に有効な相槌なのです。

ちなみに、欧米の相槌は、「オーケー」「オーライ」「イエス」など、単純な言葉しかありません。なぜならば、それで十分だからです。

相槌は、日本のような謙遜を柱にした主従の人間関係があるために、複雑に発展してきたのです。

たいていの相槌は、「さすが」「すごい」などの一語で十分です。しかし、「いえ」の二重否定の相槌は、「いえ、いえ」と二回言う必要があります。理由としては、しっかりと相手に伝えることができるということと、二回言うことで否定の効果が高まるからです。

話し手は聞き手の「いえ、いえ」という二重否定を聞くと、安心して次の言葉を自信をもって元気に発することができるのです。

「いえ、いえ」の相槌により、自己否定的表現を否定してあげることで、好意を持たれ、人間関係を良好に保つことができるのです。

誰とでも会話が続く「相づち」のコツ
齊藤 勇 (さいとう・いさむ)
日本あいづち協会理事長。立正大学名誉教授、大阪経済大学客員教授、文学博士、日本ビジネス心理学会長、早稲田大学大学院博士課程修了。
人間関係の心理学、特に対人感情や自己呈示の心理などを研究。またテレビなどメディアでも活躍し、TV「それいけ!ココロジー」の監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。
著書、監修書に『心理分析ができる本』(三笠書房)、『恋愛心理学』(ナツメ社)、「人間関係の心理学』(誠信書房)など多数。企業や学校などで対人関係を良好にするコミュニケーション・スキルの研究に従事、最近は独自の「あいづち対話法」を開発し、日本あいづち協会(http://www.aiduchi.com/)を設立し、その普及に努めている。

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