(本記事は、齊藤 勇の著書『誰とでも会話が続く「相づち」のコツ』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

全ての人間関係はアイ・コンタクトから始まる

アイ・コンタクト
(画像=Africa Studio/Shutterstock.com)

ここでは、相槌を、さらに効果的にするためのノンバーバル・コミュニケーションについて2つの点から詳しく話していきます。

それは、「アイ・コンタクト」と「あいさつ」です。どちらもそんなに難しいことではありませんが、大変効果的です。

では、まずアイ・コンタクトの有効性についてお話をしていきましょう。

人間関係は、アイ・コンタクトで始まります。アイ・コンタクトとは、目と目を合わせることです。偶然、目と目が合うことがありますが、知らない人同士ならすぐに目を離してしまいます。

人間関係は目を合わせることから始まります。一方が、あるいは二人が、目を合わせようと意識して数秒目を合わせることから関係性がスタートするのです。

つまり、アイ・コンタクトはすべての人間関係のベースとなるのです。そして、アイ・コンタクトができていなければ、〝何もスタートしない〞といっても過言ではないのです。

相槌もそうです。アイ・コンタクトがあって、相槌が効果をもつのです。

アイ・コンタクトの意味は、対人心理学の領域で重視されています。

心理学で明らかにされたことは、人は目の知覚(認知)にきわめて敏感で、即座に認知するということです。これは、黒い丸が2つ並んでいると、なんでも目に見てしまうという人間の認知特性にもとづいています。

たとえば、「ビルの入り口が顔に見える」「文房具をばらまいたら目に見えるようになった」など、何でも自然に目に見立ててしまうのです。黒丸を2つ並べ、下に横棒を引けば、単なる幾何学模様だとは、誰も思わず、すんなりと人の顔だと認識してしまうのです。それほどまでに人は、目の刺激に敏感なのです。

これは実に本能的なもので、赤ちゃんも生後まもなく、最初に知覚するのは、2つの黒目なのです。このような目についての意識は、発達心理学の実験からも明らかになっています。

人はよい意味でも悪い意味でも、「人から見られている」ということに敏感です。そして、視線を感じ、視線を合わせた後にコミュニケーションが始まるのです。

アメリカと日本ではアイ・コンタクトの効果が違う

日米摩擦はこれから本格化する
(画像=motioncenter / Shutterstock.com)

アイ・コンタクトへの反応は、国によって異なります。

一例を紹介しましょう。

読者の皆さんは、もしエレベータの中で、知らない人と目が合ってしまったら、どうしますか?

おそらく多くの方の答えが、「目をそらす」でしょう。ドラマのように、きれいな女性に見とれて目が合ったというようなシチュエーションでない限り、そのような行動をとるはずです。

しかし、アメリカなどの欧米諸国で日本の常識は通用しません。

私が以前、アメリカに留学したとき、真っ先に訪ねた日系人の方から変な忠告をいただきました。それは、こちらの女性は目を見つめると笑顔でアイ・コンタクトをしてくるが、それにだまされないようにというのです。「だまされないように」という言い方は、少々語弊がありますが、要するに〝間違えるなよ〞というアドバイスでした。

当時、アメリカでエレベータの中で女性をみると、相手はアイ・コンタクトを返して、ニコッとしてくれました。私はこの笑顔に幾分か癒されましたが、それは、単にアメリカ流のあいさつなのです。

最近、私は東南アジアを旅行することも多くなりましたが、国によっては目が合うと、アイ・コンタクトと笑顔だけでなく、言葉であいさつされることも少なくないです。「どこから来たの?」「日本人?」「いつまでいるの?」と簡単なやりとりが、自然と生じ旅行気分を満たしてくれます。

日本でそんなことしたら、驚かれるでしょう。もしかすると、変人として扱われてしまうかもしれません。

日本のエレベータの中では、黙って、階を示す表示板をじっとみているというのが一般的なスタイルになっています。しかし、アメリカや東南アジアの人にとっては、この状況は、冷たく感じるものなのです。これは、日本人は礼儀正しいが、「冷たい」という印象が生まれる一因かもしれません。

しかし、日本でエレベータで出会った知らない人、満員電車の中で会った知らない人の視線にいちいち応えていたら、疲れきってしまいます。今の日本の社会では、視線が来ても、無視するのが正解なのでしょう。

しかし、これでは人間関係は平行線。決して交わることはありません。知らない人同士が視線を感じ、アイ・コンタクトをして、近づきになっていくのが人間関係の始まりです。

さて、対人心理学のアイ・コンタクトの研究では、人は会話中にどのくらい、アイ・コンタクトをするのかが、研究されています。

心理学者のアーガイルは、二人の人が会話をしているときのアイ・コンタクト(視線の一致)について詳しく研究しています。

アイ・コンタクトについて、さらに学問的に裏付けてみましょう。

【アイ・コンタクトの実験】

マジックミラーを使い、会話をしている二人に気づかれない状態で二人の視線を調べていきます。

その研究結果によると、会話している二人が相手をみている時間、つまり、視線を向けている時間が、通常、会話全体の約30〜60%です。そのうち、二人の目が合い、アイ・コンタクトがなされるのは、10〜30%でした。しかし、人により全然相手を見ない人や会話中に相手を見ている人もいます。 次に、会話中に相手をみたときに一回の持続時間も調べており、その時間は1〜7秒でした。普通何かをチラッとみるのは0.3秒ぐらいなので、それと比べますと、人を見るとき(対人凝視)は、かなり長い時間見ていることがわかります。

一方、二人の視線が合ったときのアイ・コンタクトを続ける時間は、普通は1秒くらいでそれ以上は続けません。だから、「間」のところで話したように、3秒以上、アイ・コンタクトが続いたとしたら「何かある」と考えた方がよいでしょう。逆に、アイ・コンタクトにあいさつ以上の意味をもたせようと思ったら、3秒以上続けることが大切です。

誰とでも会話が続く「相づち」のコツ
齊藤 勇 (さいとう・いさむ)
日本あいづち協会理事長。立正大学名誉教授、大阪経済大学客員教授、文学博士、日本ビジネス心理学会長、早稲田大学大学院博士課程修了。
人間関係の心理学、特に対人感情や自己呈示の心理などを研究。またテレビなどメディアでも活躍し、TV「それいけ!ココロジー」の監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。
著書、監修書に『心理分析ができる本』(三笠書房)、『恋愛心理学』(ナツメ社)、「人間関係の心理学』(誠信書房)など多数。企業や学校などで対人関係を良好にするコミュニケーション・スキルの研究に従事、最近は独自の「あいづち対話法」を開発し、日本あいづち協会(http://www.aiduchi.com/)を設立し、その普及に努めている。

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