(本記事は、菅原洋平氏の著書『超すぐやる! 「仕事の処理速度」を上げる“科学的な”方法』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

脳はアウトプットしないとインプットもできない!?

インプット,アウトプット
(画像=pedrosala/Shutterstock.com)

情報をインプットしてからでないとアウトプットはできない。だから、まずは試験範囲の教科書をすべて読んで理解する必要がある、と考える人もいると思います。

インプットを重視するのは、情報をそのまま脳に貯める短期記憶を活用した勉強法です。

それに対して、アウトプットを重視し、情報を貯めたらその情報を使おうとすることで、脳内の既存の情報とつながり、情報が自分にとって理解しやすい加工されるのがワーキングメモリを活用した勉強法です。

インプットよりアウトプットのほうが、学習効率が上がる、つまり「短期記憶よりワーキングメモリを使うことで学習効率が上がる」という結果は、他の研究でも示されています。次の実験結果をみてみましょう。

この実験では、3つの学習方法で教科書の内容を覚えてもらいました。

(1)教科書を繰り返し読む

(2)教科書を読み、コンセプトマップ(複数の概念、事柄をその関係性に応じて線で結んで図式化する)をつくる

(3)教科書を読んだ後で、学習内容に関する自由作文を書く

それぞれの方法で学習してもらい、1週間後のテストの成績を比べました。

すると、最も成績がよかったのが、(3)の自由作文を書いたグループでした。(1)と(2)は、成績の差はほとんど見られませんでした。

このことから、教科書を読むインプットだけの学習よりアウトプットする学習がよい。そして、アウトプットの方法は、図式化するより自分の言葉に置き換えて言語化するほうがよいということ言えそうです。

さらにこの実験では、学習の直後に、参加者に次のような質問をしています。

「学習した内容の何%を、1週間後まで覚えていられると思いますか?」

この質問への回答で、

「覚えていられなさそう」

と自己評価が最も低かったのは、実際の成績が最もよかった(3)のグループでした。

一方、最も自己評価が高かったのはインプット学習の(1)だったのです。

これは大きな落とし穴かもしれません。教科書を熟読すれば、わかったような感じがするというのは、実感がある人が多いと思います。自分なりに言語化しようとすればうまく言葉が見つからず自分が分かっていないことに気づくという経験もあると思います。これら主観的な成果と実際の成果は正反対だというのです。

より短い時間に効率よく学習するには、覚えたことを話すなり書き出すなどして、ワーキングメモリを活用したアウトプット学習をすることが有効です。

「スキマ時間にコツコツ」VS.「時間をつくってまとめて」──効率がいいのはどっち?

ワーキングメモリの特徴は、情報を入力した後が重要だということです。入力すれば勉強したことになるわけではないのです。

このことが関係するもう1つの場面を考えてみましょう。勉強はまとまった時間に集中して行なったほうがよいか、それとも、勉強時間が途切れてしまったり短くなってもできるときに勉強したほうがよいか、という問題です。

「つい勉強するのを先延ばしにしてしまって、いよいよまずいとなってから夜中に一気に勉強するパターンになってしまいます。

寝不足で翌日にも響くので、やり方を変えたほうがいいかなと思っているんですけど、追い込まれると集中できるような感じもしていて……実際のところ、どうなんでしょう?」

勉強しなければならない社会人からは、このような質問が多く寄せられるものです。

このような質問をされる方に、

「ちょっとした空き時間があっても、それだと全部終えられないから今はできないな、と思ってしまいませんか?」

と尋ねると、皆さん、

「そうそう。そうなんですよ」

とおっしゃいます。「時間がない」というのは、まとまった時間に一気に勉強することを前提としている悩みのようです。

まとまった時間をとって一気に集中して学習するのと、少しの空き時間でもこまめに学習するのとでは、どちらのほうが成績はよくなるのでしょうか?

それを確かめた実験では、

(1)2日間使ってそれぞれ1回ずつ勉強する(普段からこまめに勉強している条件)

(2)1日使って2回勉強する(テスト前にだけ追い込みをした条件)

(3)1日使って1回勉強する(追い込みをしてなおかつ勉強時間が少ない条件)

という3つの勉強法に分けて検証されました。1回の勉強時間の長さは同じという条件なので、(1)と(2)は同じ時間数勉強していて、(3)は勉強時間が少ないです。それぞれ対になった単語を覚えるという課題のテストを、間隔を空けて2回行なったそうです。

1回目のテストでは、(3)(1日使って1回勉強)のグループの成績が悪く、(1)(2日使って1回ずつ勉強)と(2)(1日使って2回勉強)は成績に差がありませんでした。

(3)は勉強時間が少ないので成績が悪いのは当たり前、という感じがします。(1)と(2)の成績が変わらない、ということは、普段から勉強していてもテスト前に追い込みをしてもどちらの方法でもよい、ということになります。

ただ、これが2回目のテストでは成績に差が出ました。

時間を空けて2回目に行なわれたテストでは、(1)(2日使って1回勉強)が、高い成績を収める結果となったそうです。

これはつまり、大学受験のように合格しさえすればよい短期的な勉強に対し、テスト後にもその知識が必要になる長期的な勉強の場合は、分割して勉強したほうがよいということです。私たち社会人に求められるのは後者であり、「まとまった時間がとれないから先に延ばす」と考えず、時間があるときにできるところまで勉強しておくほうが、効率が良いということになります。

この結果には、ワーキングメモリの特徴がよく表れているといえます。

テストとテストの間に時間が空いた場合、その間に別の作業が入ります。そのとき、勉強によってインプットされた情報は脳内に蓄えられていた別の情報につなげられたり、別の関係ない作業によってインプットされた情報とつながれて使える情報に加工されています。

この加工作業が挟まることで、「丸暗記」から「使える知識」になるのです。

超すぐやる! 「仕事の処理速度」を上げる“科学的な”方法
菅原洋平(すがわら・ようへい)
作業療法士。ユークロニア株式会社代表。1978年、青森県生まれ。国際医療福祉大学卒業後、作業療法士免許取得。民間病院精神科勤務後、国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事。その後、脳の機能を活かした人材開発を行なうビジネスプランをもとに、ユークロニア株式会社を設立。現在、ベスリクリニック(東京都千代田区)で外来を担当する傍ら、企業研修を全国で展開し、その活動はテレビや雑誌などでも注目を集める。著書には、本シリーズの第1巻で10万部を突破した『すぐやる! 「行動力」を高める"科学的な"方法』の他、『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社、13万部突破)など、多数がある。

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