コアCPI上昇率は前月から0.2ポイント拡大
総務省が1月24日に公表した消費者物価指数によると、19年12月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比0.7%(11月:同0.5%)となり、上昇率は前月から0.2ポイント拡大した。事前の市場予想(QUICK集計:0.7%、当社予想は0.8%)通りの結果であった。生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比0.9%(11月:同0.8%)、総合は前年比0.8%(11月:同0.5%)であった。
参考値として公表されている消費税調整済(幼児教育無償化の影響も調整)のコアCPIは10月、11月の前年比0.2%から12月は同0.4%へと伸びを高めた。
コアCPIの内訳をみると、電気代(11月:前年比▲0.2%→12月:同▲1.1%)、ガス代(11月:前年比0.8%→12月:同0.2%)は伸びが低下したが、ガソリン(11月:前年比▲6.3%→12月:同▲0.1%)、灯油(11月:前年比▲6.6%→12月:同▲1.4%)の下落幅が縮小したため、エネルギー価格の下落率は11月の前年比▲2.1%から同▲0.6%へと縮小した。
食料(生鮮食品を除く)は前年比1.8%(11月:同1.8%)と引き続きコアCPI全体を明確に上回る伸びとなっている。ほとんどの品目で軽減税率が適用されない一般外食は9月の前年比1.0%から10月に同3.2%と消費税率引き上げ分を若干上回る値上げがあった後、11月、12月が同3.3%と高めの伸びが続いている。
それ以外では、文房具などの教養娯楽用品(11月:前年比3.4%→12月:同4.5%)、宿泊料などの教養娯楽サービス(11月:前年比1.9%→12月:同2.3%)の上昇率が高まったことがコアCPIを押し上げた。
一方、電子レンジ、電気冷蔵庫などの家庭用耐久財(11月:前年比5.4%→12月:同3.3%)、テレビなどの教養娯楽用耐久財(11月:前年比0.8%→12月:同▲0.2%)は伸びが低下した。消費税率引き上げ後の売上の落ち込みが価格低下につながっている可能性がある。
コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが▲0.20%(11月:▲0.33%)、食料(生鮮食品を除く)が0.32%(11月:0.32%)、その他が0.25%(11月:0.20%)であった(当研究所試算による消費税、幼児教育無償化の影響を除くベース)。
上昇品目数の割合は消費増税前に比べて低下
消費者物価指数の調査対象523品目(生鮮食品を除く)を、前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると(消費税率引き上げの影響を除いている)、12月の上昇品目数は274品目(11月は285品目)、下落品目数は190品目(11月は182品目)となり、上昇品目数が前月から減少した。上昇品目数の割合は52.4%(11月は54.5%)、下落品目数の割合は36.3%(11月は34.8%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は16.1%(11月は19.7%)であった。
上昇品目の割合は引き続き50%を上回っているが、消費税率引き上げ前と比べると水準が低下している。前回の消費増税時と比べて税率引き上げ分を価格転嫁できなかった品目が多かったことが影響していると考えられる。
コアCPI上昇率は当面ゼロ%台の推移が続く見込み
19年12月のコアCPIは上昇率が前月から0.2ポイント拡大したが、その主因はエネルギー価格の下落幅縮小である。制度要因(消費税率引き上げ+幼児教育無償化)を除いた上昇率は引き続きゼロ%台前半で、基調的な物価上昇圧力が高まっているわけではない。
原油価格は中東情勢の緊迫化から一時大幅に上昇したが、その後は落ち着いた動きとなっており、先行きのエネルギー価格は前年比で小幅な下落が続くことが見込まれる。また、消費税率引き上げ後の個人消費の低迷によって当面は値上げが難しい状況が続くだろう。消費税率引き上げと幼児教育無償化の影響を含めたコアCPI上昇率は当面ゼロ%台で推移することが予想される。
CPI上昇率の世代間格差が拡大
2019年12月分と同時に公表された2019年のコアCPI上昇率は0.6%となり2018年の0.9%から上昇率が0.3ポイント縮小した。また、同時に公表された世帯主の年齢階級別指数によれば、2019年のコアCPI上昇率は39歳以下の年齢層が小幅なマイナス(29歳以下:前年比▲0.1%、30~39歳:同▲0.2%)となる一方、50歳以上の世帯が平均を上回り、60歳以上は1%程度(60~69歳:前年比0.9%、70歳以上:同1.0%)となった。これは2019年10月の消費税率引き上げと同時に実施された幼児教育無償化の影響が年齢階級によって大きく異なるためである。
世帯主の年齢階級別指数は年平均のみの公表となっているが、消費税率引き上げと幼児教育無償化の影響を詳細にみるために、月次ベースの上昇率を試算すると、30歳代と50歳以上では10月以降、コアCPIの上昇率格差が3%以上に広がっている1。19年12月のコアCPIは上昇率が最も低い30~39歳が前年比▲1.8%となる一方、50~59歳が同1.2%、60歳以上(60~69歳と70歳以上の加重平均)が同1.4%となった。
19年10~12月の年齢階級別・コアCPI上昇率を寄与度分解すると、幼児教育無償化の影響が年齢階級によって大きく異なることが上昇率格差の主因であることが確認できる。
幼児教育無償化によるコアCPI上昇率の押し下げ幅は29歳以下が▲2.3%、30~39歳が▲3.2%、40~49歳が▲1.1%、50~59歳が▲0.1%、60歳以上が▲0.0%である(数値は2019年10~12月の平均)。
コアCPI上昇率は幼児教育無償化の影響(コアCPI上昇率を▲0.6%程度押し下げ)によって消費税率引き上げ後も大きく高まっていないが、その影響は一部の世帯に偏っている。二人以上世帯(家計調査)の7割を占める50歳以上の世帯では、消費税率引き上げ後に1%台の物価上昇とそれに伴う実質購買力の低下に直面しており、このことが消費低迷の長期化につながる恐れがあるだろう。
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(1)試算の詳細はweeklyエコノミストレター「30歳代と50歳以上の物価上昇率格差は消費増税後に3%まで拡大」をご覧ください
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任
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