(本記事は、山下貴宏氏の著書『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』かんき出版の中から一部を抜粋・編集しています)
イネーブルメントプログラムの具体例
ここからは、イネーブルメントプログラムの具体例について解説します。特にトレーニング、コーチング、ツール/ナレッジとはどういうもので、どのように提供するのかについて示していきます。
●イネーブルメントトレーニング
営業向けのトレーニングには大きく2つのタイプがあります。
「オンボーディングトレーニング」と「営業トレーニング」です。トレーニングの枠組みについて説明しましょう。
●立ち上がりを早める「オンボーディングトレーニング」
上図の左側のオンボーディングトレーニングとは、入社後の立ち上がりのためのトレーニングです。
新卒社員や中途社員、あるいは他の部門から営業に移って営業自体が初めてという人を対象にしたもので、実施期間は会社によってさまざまですが、数週間~1ヵ月間ほどの時間をかけて行うトレーニングです。
目的は、入社、配属後に営業現場に出たときに必要な最低限の知識やスキルを身につけることです。あれもこれもとあまり欲張らず、動くにあたって本当に必要なことだけをコンパクトにまとめて提供するのがオンボーディングトレーニングになります。
上図の左側の「共通」とあるのは、全員が受けるものです。
Company History(会社の成り立ちや初期のビジョン)は何か、自社の市場における立ち位置はどこなのか、製品のコンセプトや強みはどこにあるのか、お客様の業務はどういうふうに流れているのかなど、その会社の営業であれば全員が知っておかなければならないことを学びます。
次に、「営業職種別」を見てください。
ここでは直販営業とインサイドセールスに分けていますが、営業内でも職種が分かれていたり、あるいは大手担当、中堅中小担当などと分かれていたりします。動き方に違いがあるのならば、職種別、担当別に分けてトレーニングをしましょう。
例えば、直販営業で入社した営業社員向けには、「営業フェーズの考え方」「アカウントプランのフレームワーク」「提案書の構成」などです。
インサイドセールスであれば、「リード対応の仕方」「コール前準備の概要」「コールオペレーションの手順」などです。
トレーニング後、現場に出て必要になる最低限のテーマに絞ってコンパクトにインプットします。
最後は、「理解度チェック」として、インプットしたものをアウトプットして、どの程度身についているかを確認します。テストという形式もあるかもしれませんし、グループワークや、ロールプレイでのプレゼンテーションをさせてみるというケースもあります。
そして、これらのトレーニングの履歴をシステムに登録していく。以上がオンボーディングトレーニングの概要です。
よくあるのは、「こういったトレーニングのコンテンツはあるのだけれども、バラバラで体系化されていないので、本当に伝えなくてはいけないことを伝えきれていない」というケースです。
また、「インプットはするのだけれども、本当に理解しているかどうかをアウトプットや理解度チェックで確認していないので、現場に出たときのレベルにバラつきが出てしまう」というケースもあります。
形はどうであれ、立ち上がりの早期化という目的を明確にした、インプットからアウトプットまでのトレーニングを設けるだけでとても効果があります。特に、中途社員がどんどん入ってくる成長企業は、まず入り口をきちんと整備するだけでも立ち上がりが大きく変わってきます。
●最新の売り方・売りモノを理解する体系的な「営業トレーニング」
上図の右側の「営業トレーニング」は、既存の営業向けのトレーニングです。全営業を対象とした、特に最新の売り方と売りモノ、この2つを継続的にアップデートするためのトレーニングです。
ここでの「売り方」は、営業スキルを指します。会社によって営業のプロセスがあると思います。案件をつくり、前に進めて受注するという流れの中で、それぞれ求められるスキルが違うと思いますので、それを体系的に理解するためのトレーニングです。
例えば、以下のようなものです。
・本当に追うべき案件かどうかを見極めるための「案件見極めトレーニング」 ・潜在ニーズを顕在化させるための「ヒアリングトレーニング」 ・初回訪問前に顧客課題を想定するための「仮説立案トレーニング」 ・コンサルティング型の提案書をつくれるようにするための「提案書トレーニング」 ・複雑なプロジェクトを前進させるための「プロジェクトファシリテーショントレーニング」
売りモノについては、扱っている製品・サービスについて最新の情報をアップデートします。「新製品が出ました」「新しい機能が加わりました」ということを営業に伝えれば売れる製品であればいいですが、複雑な製品についてはそうはいかないので、「新製品、新機能をどう売ればいいのか(How to Sell)」ということまで落とし込みます。
例えば、事例を使ったヒアリングの仕方や、競合優位のポイントを商談の中でどう訴求すればいいのか、最終段階で価格をどう出せば価値を感じてもらえるのかといった、その商品を売り込むための具体的な方法をトレーニングします。
その他、以下のような工夫も考えられます。
・3C(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:自社製品)を柱としてコンテンツを提供する ・製品・サービスの理解(インプット)だけでなく、デモやロールプレイ(アウトプット)をセットにしてプログラムを構成する ・製品・サービスを実際に購入した顧客にスピーカーとして来てもらって、勉強会を開く
売り方・売りモノを理解するという観点で営業に体系的なトレーニングをしている会社は、製薬業界が比較的進んでいるようですが、一般的には非常に少ない印象です。
こういったプログラムとトレーニング履歴をシステムで管理し、誰がどんな学習をしているのかがわかる状態にしておくことで、育成プログラムが確実に前に進みます。
●イネーブルメントコーチング
イネーブルメントプログラムのコーチングについて説明しましょう。
営業現場のメンバーが習得した知識・スキルをきちんと実践できているかどうかを、客観的な視点で気づかせること、もしできていなかったら、できるように仕向けていくこと、これがここでのコーチングの目的です。
コーチングは、ティーチング(教えること)とは異なります。コーチングでは、営業パーソン自身にある程度知識や経験があることが前提になります。知識や経験はあるが、第三者からの「問い」を通じて自ら新しい気づきを得て、新しいアクションを繰り返しながら行動を変えていくプロセスです。
コーチングは、イネーブルメントチームが営業担当に対して直接行うケースもありますが、支援する営業の人数が多い場合、圧倒的にリソースが足りません。先ほどの「育成をスケールさせる3要素」で見たとおり、「営業マネージャー」を通じてプログラムを提供します。
このとき、営業マネージャーには、2つの重要なコーチングスキルが求められます。
1つは、商談を的確に理解してコーチングができること、もう1つが、営業担当者のスキルレベルに応じたピープルコーチングができることです。
商談の理解だけで進めようとすると、往々にして数値のレビューになってしまい、「この商談はどこまで来てるの?だったらこれを次にやっておいて」という指示になりがちです。これではコーチングになりません。
一方、ピープルコーチングだけだと、人事評価的なコーチングになって実務から離れてしまいます。
「実商談をどう進めればいいのかを知りたい」という営業現場のニーズからすると、商談を読み解く力と、担当者のレベルに応じた的確なコーチングができる力の両方が必要です。
これができるように営業マネージャーを仕向けていくのがイネーブルメントの役割といえます。
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