「自分の軸」があれば、どんな人とも渡り合える

ソフトバンクアカデミアに入ってからは、孫さんの姿を生で拝見し、話を伺い、それにとどまらず何回もご本人の前でプレゼンをさせてもらう機会を得ました。そのプレゼンからの流れで、ヤフーの社長だった宮坂氏とも知り合うこととなり、色々な話をするようになりました。

自分がこれまで会うことがなかった、テレビやメディアに出ている「有名人」経営者たちと、いきなり知り合い、話すようになったのです。「うわ、本物がいる」という感じで、最初は勝手にビビっていました。

とはいえ、目の前にいれば、当然ながら1人の人間です。

そのような方たちと直接会って話すことは、自分にとって大きな経験となりました。

「社会に貢献する人、世の中の役に立つ人たちっていう意味ではみんな同じだ。メディアに出てくる『有名人』経営者であっても、そんなに遠い世界の人じゃないんだな」と、はじめて感じたのです。

こうした出会いを通じて、「すごい人」「偉い人」と評価され、みんなに仰ぎ見られるような人でも、普通の人なんだという感覚を、持てるようになりました。

20代の自分はメンタル不調などで自信を持つどころではありませんでした。

30代はひたすら会社のために一生懸命仕事をしていました。

そういうわけで、自分が特別すごいことをやっているという意識はありませんでした。

それが、40歳を超えて、震災をきっかけにリーダーシップに目覚めました。

ちょうどその頃、ずっと学んでいたグロービス経営大学院で成績優秀者に選ばれ、卒業式で代表謝辞を読む機会をいただき、また、ソフトバンクアカデミアに入って、孫さんの前でプレゼンをする機会を得て、少しずつ違う環境も経験しました。

こうした経験が重なるうちに「すごい人」と会う機会が増えていき、少しずつ私の意識は変わっていきました。

「すごい人」も、決して特別ではない。

もっと言えば、「すごい人」なんていない。というより、「すごい人もみんなと同じなんだ」「ある意味、みんなすごい人なんだ」という意識が芽生えました。だったら、自分は自分でいいじゃないか─―と、思えるようになったのです。

40歳を過ぎてようやく「自分に自信が持てた」

40歳を過ぎてこういう経験をした私が、皆さんに伝えたいことは1つです。

相手が「すごい人」だからといって遠慮することはない。自分の場合は、20代、30代にはそういう機会があまりなく、40代になってから、急に機会が増えました。

だから最初は必要以上にビビったのですが、結果的には、「あれ? どんな人が相手でも、別に遠慮したり、怯えたりすることはなかったんじゃないか?」と気づいたのです。

そして最近、立て続けに、スポーツ界のレジェンドの方々とお会いする機会がありました。まずサッカーの三浦知良選手にお会いし、翌月に、元プロ陸上選手の為末大さん、そしてそのまた翌月には、阪神の金本知憲前監督とお会いし、対談しました。これは孫さんに会ったときより正直、ビビりました。

でもお会いして、改めて、皆さん1人の人間なのだなぁ、ということを実感しました。

カズさんは、私と同い年ですが、少年のようにサッカーを愛している方でした。

為末さんは、若い頃ドキドキしながらも、世界に踏み出していったそうです。

金本さんは、骨折した翌日、痛くて、打球が来たらいやだなぁ、とビビりながら守備をしていたそうです(骨折したこと自体、気づいていなかったそうですが)。

そういう、少年のようであったり、ドキドキしたり、ビビったりするところは、皆同じなのです。有名であろうと無名であろうと関係ないのです。

社会に大きな影響を与える仕事をしていようと、自分の会社の中で粛々と仕事をしていようと、そこに優劣はありません。

「すごい人」だと評価されている人も、「普通の人」だと自認している人も、決して別次元で生きているわけではないのです。

人に語れる「自分の言葉」を持っているか?

それより重要なのは、その人が話すこと、語る言葉を持っているかどうかです。

語る言葉さえ持っていれば、自分がどんな立場であろうと、相手がどんな立場だろうと、話は聞いてもらえます。

どんな立場にいようと、「自分はこういうことをやっている」「自分はこんなことをしていきたい」という言葉があるかないか。それが重要です。

私の場合でいうと、この時期は震災後の経験を通じて「リーダーとは何か」について、自分なりに確信を持てるようになった時期でした。

その上で、今働いているプラスの中でどんな改革を行っていけばいいか、その結果、世の中にどんな価値を提供していきたいのか、社会をどう変えていきたいのか、といったことについても、自分なりに語る言葉を持つようになっていきました。

この「自分なりの考え、言葉を持っている」ということが何より大事です。

よくある勘違いは、たとえば「いわゆる『すごい人』とは、自分も『すごい人』にならないと対等に話せない」といった考え方です。

「ただの凡人」である自分が、有名な経営者やリーダーと話すのはどうにも気後れがする、という声を聞くことがあります。

その気持ちはわかります。でも、やはりそれは勘違い、誤解です。

別に彼らが「凡人」より偉いわけではないし、経営に携わっている人のほうが、誰かのチームで働いている人よりも偉いというわけでもありません。

ビジネスパーソンが語ることの価値はどこで決まるのか。

それは、「自分の仕事を通じて世の中にバリューを提供していくということを、『我が事』として捉えているかどうか」。この1点にかかっていると私は考えます。

本当の問題は、あくまで一般論ですが、会社勤めをしている人の中には、「我が事」として世の中を良くしていきたいと考えている人が少ないように思います。そこで差ができてしまうことはたしかにあるかもしれません。この「我が事」意識の差が、気後れにつながってしまうのでしょう。

逆に言うと、たとえ会社勤めであっても、キャリアがまだ浅い若いビジネスパーソンであっても、「世の中にバリューを提供したい」という当事者意識さえあればいいのです。

相手が有名な起業家だろうと、辣腕の経営者だろうと、気後れする必要はありません。

「仕事を通じて、社会を良くしていきたいと思っているのは自分も同じ。一緒にがんばりましょう」という意識で、対等に話せばいいのです。

伊藤羊一(いとう・よういち)
ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長
〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。(『THE21オンライン』2019年12月13日 公開)

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