第3回 「好き」を仕事にしなくちゃダメですか?

働き方,楠木建,伊藤羊一
(画像=THE21オンライン)

「好きなこと」「やりたいこと」を仕事にする働き方が注目されている。でも、夢がない、明確なキャリア目標もない。そんな自分はダメ人間なのか――? 天才でもナンバーワンでもオンリーワンでもない、フツーの人が直面する仕事の迷いについて、「好き嫌いの仕事論」を重視している一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と、Yahoo!アカデミア学長として次世代リーダーの育成を行ない、新刊『やりたいことなんて、なくていい。』を上梓した伊藤羊一氏にお話しいただいた。

取材構成 野牧 峻

嫌いなことがわかった後に好きなことがわかる

――楠木先生の仕事観が形成されてきた経緯、とても面白いです。伊藤先生はいかがですか?

伊藤 これ自分のライフラインチャートなんですけど……。

働き方,楠木建,伊藤羊一
(画像=THE21オンライン)

楠木 面白いですね。

伊藤 高校のときにテニス部をクビになって、彼女にフラれたっていうことでマイナスに陥って。そこから、いわゆる不良ですね。大学へ行っても、不良のまんま。

楠木 『ビー・バップ・ハイスクール』みたいな感じですか?

伊藤 もうちょっと後になりますけど、『ビー・バップ・ハイスクール』は読んでました(笑)。

楠木 なるほど、なるほど。

伊藤 ああいう不良って、屋上でタバコを吸うんですね、授業をサボって。

楠木 伊藤さんは、もうちょっと「カリフォルニアの不良」というイメージですかね?

伊藤 そうですね。あとは、RCサクセションの『トランジスタ・ラジオ』的な感じです。

楠木 なるほど、なるほど。

伊藤 というふうにやってきて、大学のときもう何もやってないんですね。斜に構えて。何もやってないから、社会で大人と触れないから、大人とのコミュニケーションが怖いわけですよ。そのまま一応社会人にはなれたんですけど。楠木さんの今のお話を聞いていて、社会人になるとか、ならないとか、会社へ入るとか、入らないとか、好きとか、嫌いっていう選択肢自体が俺にはなかったなって。

そうするとひとまず会社に入っちゃうんですよね。怖いんで。でも、会社に行ったら人と何かやるのって実はあまり得意じゃなくて。それでどんどん、どんどんダウンして、26歳のときに会社に行けなくなっちゃうんですね、うつになっちゃって。

そこから、色々な人に教えられて、ここまで来た感じです。恐らく、楠木さんは高校とかに経験していたことを私は社会人になってから経験していますね。

楠木 僕はというと、「十五、十六、十七と私の人生暗かった」っていうほうですね。本当に嫌でした。やっぱり当時はミッドな昭和なので、中高生なんていうと社会が学校にしかなくて。その社会でのアイデンティティが部活で決まっていた時代ですから。だいたいスポーツですよね。とにかく嫌でしたね、あれは。

――確か、柔道部も辞められたというふうに……。

楠木 そうそうそう。ホントに向いてない。だから、母校の高校に呼んでもらって講演する機会をいただいたときに「私はこの学校におりましたが、1つもいいことはありませんでした」って言いました。横で先生が嫌な顔していましたが、本当にそうだったんで。

――正直ですね(笑)。

楠木 ええ。「でも皆さん、ご安心ください。ずっとそれが続くわけじゃありませんので」っていうメッセージを後輩に伝えました。そしたら、「なんてことを言うんだ!」と怒られましたね。

――勇気をもらった生徒も多いと思いますが。

伊藤 高校の頃は暗かったですね。私の場合は大学もずっと幸福度が落ちて社会人になっても下げ止まりしませんでしたが。

楠木 長いですよね。

伊藤 長いんですよ。

楠木 とくに25歳のころの6年とか7年は、本当に長いですからね。

伊藤 そうなんですよ。そのときに、嫌いなことはやらないほうがいいよなとさえも思えなかった自分がいるなって。楠木さんとは、そこの違いがあるなと感じます。

楠木 そうですね。ただ、やっぱり人間は社会的な動物なんで、私の場合は会社に入らなくても、アカデミックな社会に入ることになりました。そうすると、「こういうものだからね、君」と「こんなこともできないなんて話にならないよ、君」って言われます。面白くはありませんでしたが、「ああ、そうですか」っていうことで、目の前のやらなきゃいけないことをしばらくやっていました。すると、2回目の事後性の話にも関わると思いますが、「ほとほと嫌だ、なぜならば~」というのがよくわかって「じゃあ、こういうことが好きなんだ」っていうのが見えてきます。こういう順番だと思うんですよね。