仲間に裏切られ左遷された「一人忠臣蔵」の失敗

伊藤 おっしゃるとおりですね。

楠木 「まあまあうまくいってるのにすごい嫌」というのが一番嫌なんじゃないかなと。

伊藤 うまくいってるのに嫌、か――。

楠木 別に取り立てて、問題があるというわけではないんだけれども、どんどん嫌になってくるっていうのが、当時の状況としてはありましたね。まったく個人的な好き嫌いの問題なんですけど。

伊藤 私自身もそれで、20代は何もやってなくて。やってないからもう、どんどん、どんどん、ドツボにハマっていくっていうだけで。でも、仕事をやり始めて、やったら別にできるじゃんっていうことを繰り返しているうちに、今に至るんですけど。

楠木 でも、かなりその間も上下がありますね、小刻みに。

伊藤 そうですね。20代後半はですね、仕事がちょっとできるようになってきて、「仕事、面白れぇじゃん!」と思い始めたタイミングです。当時は銀行に勤めていて、ちょうど住専問題で叩かれまくっていた時代でした。でも、銀行だってしっかり仕事しているのに、なんでみんな叩くんだと。若手で集まって、「どげんかせんといかん」って作戦会議をしたんです。「でも、俺らが会議しても、銀行の経営に何も影響なくない?」となったわけですが。

楠木 なるほど。

伊藤 15人ぐらいで、頭取にメールを送ろうっていう話になって。そしたら多少は影響あるよなってことで。「OK、でもなんて送るんだ?」って聞いたら「『辞めろ』って書くんだよ!」って、誰かが言うんですね。そこで、全員で書けば効き目あるはずだということで、私は書いて送ったのですが、翌日になって残りの14人が誰一人送っていなかったという事態になりまして。私だけ送っちゃったんですよ。それで2週間後に私、飛ばされてました。

楠木 「一人忠臣蔵」みたいになっちゃった。

伊藤 そう。でも実は飛ばされたって知ったのは6年前ぐらいで、ついこの間なんですよ(笑)。当時は気づかなかったんです。ちょうどこのタイミングで幸福度が下がっているので左遷がきっかけかと思われるんですけど、みんなに裏切られたっていうのが、むちゃくちゃショックだったんです。「おまえら口だけじゃん!」と。それがもう一回ガッと燃え上がるエネルギーにもなってるんですけど。

楠木 逆にね。

伊藤 そうなんです。この後、銀行を辞めて、今度は文具メーカーに移って……。まぁなんであれ、私は「好きなことを好きなようにする」というより、「ただ目の前の仕事だけ」をひたすらやってここまできました。使命感とか、これをやりたいとか、これは嫌だなとか、そんなものはなくって。

ただ、東日本大震災のとき会社で指揮を執っているときに「待てよ」と。本当にそれでいいのかと思ったんですよね。