要旨
現在、原則1割となっている75歳以上高齢者の医療費自己負担に関して、これを引き上げる議論が社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)医療保険部会でスタートした。この問題では、政府の全世代型社会保障検討会議(議長:安倍晋三首相)が2019年12月19日に取りまとめた中間報告で、「一定所得以上の人は2割、それ以外は1割」という方針が示されており、部会は今夏の取りまとめに向けて、詳細を議論。その後、厚生労働省が今秋にも予定されている臨時国会に関連法改正案を提出する予定となっている。
しかし、中間報告の検討プロセスでは与党との調整が難航し、「原則2割」の方針が明記されるに至らなかった。このため、1割と2割の対象者を線引きする所得基準を巡って、調整の難航が予想される。本稿では、全世代型社会保障検討会議の中間報告を巡る政府・与党内の調整を振り返るとともに、(1)現役世代、将来世代の負担軽減、(2)年齢で区切る不合理性解消、(3)過去の制度改正論議からの軌道修正――という3つの点で、自己負担引き上げの意味合いを考察する。その上で、「原則2割」の方針が明記されなかった影響を含めて、議論の行方を占う。