中国の土地は「国有」であるため、土地の売買は原則禁じられているが、地方政府による土地使用権の譲渡に関わる費用の算出基準として、基準地価が公表されている。ここで「地価」という言葉が使われているが、正確な意味は「土地使用権の譲渡価格」のことである。
基準地価、標定地価と留保地価
「基準地価」(基准地价)とは、商業用地、居住用地、工業用地などの種別で評価された土地使用権の譲渡に関わる費用の評価額である。通常は、基準地価の評価業務は市・縣(1) 政府から土地評価機関に委託され、評価結果は上級政府(2)の許可を得て、市・縣政府より公表される。基準地価は、広範囲の地価水準を反映した「区域(级别)基準地価」、局部の地価水準を反映した「局部(区片)基準地価」及び特定の市街地や道路沿いの地価水準を反映した「路線価」の3つに分類される。
「標定地価」(标定地价)とは、基準地価に基づき、土地の面積、形状、容積率等の要素を考慮した特定の土地の土地使用権の譲渡に関わる費用の評価額である。基準地番号、所在、地積、利用区分のほか、道路、電気、ガス、上下水などの整備状況と使用年限などの項目も公示されている。
「留保地価」(出让底价)とは、特定の土地の土地使用権の譲渡に関わる費用の最低制限価格である。留保地価は原則非公開であり、一般的に基準地価の70%以上に設定されている。
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(1) 中国の行政区画の一種、「市」の下部に設置され、日本の「郡」に近い概念である。
(2)行政区画の上位のものを指す。中国の地方行政区画の最上位のものは「省」であり、日本の「都道府県」に相当する。
基準地価の更新
自然資源部(当時国土資源部と呼ばれる)が公表した「土地市場秩序の整頓と規範化に関する通知」(关于整顿和规范土地市场秩序的通知)(2001)によると、基準地価は「原則3年ごとに更新し公表しなければならない」とされているが、実際には、各地方政府の更新期間は様々である。
自然資源部(3)の基準地価の公示サイトを確認すると、北京市の基準地価の調査基準日は2014年1月1日だが、最新更新日は2014年8月である。2019年5月に、公募を経て、北京市政府は基準地価の更新業務を民間土地評価機関に委託しており、まもなく最新の基準地価が公表されるだろう。上海市の基準地価の最新更新日は2013年6月だが、今後の更新予定は確認されていない。
広東省広州市の最新の基準地価は2020年2月に公表され、約2年ごとに更新されている。2019年10月、深圳市は率先して地理情報システム(GIS)を用いたオンライン標定地価検索システム(4)を構築し、より透明性のある地価情報公開制度の実現を目指している。
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(3)自然資源部は土地や資源の利用を管轄する行政部門である。
(4)同システムは以下のURLより確認できる。http://pnr.sz.gov.cn/ywzy/qt/bddj/
土地使用権の譲渡価格の動向
各地方政府によって公開されている基準地価のデータは継続的な更新が実施されておらず、各都市を同一時期で比較するには時点修正を行わない限り難しいが、自然資源部自然資源開発利用司(5)は、「中国地価情報センター」(中国地价信息服务平台)(6)にて、全国主要都市105市(7)を対象に、年4回土地使用権の譲渡価格の動向レポートを出している。
中国主要都市における土地使用権の譲渡価格の上昇率を用途別にみると、2009年以降、どの用途でも総じて同様な傾向で経済状況に応じて変動を見せているが、2015年から2019年の間は、住宅用地の変動が他の用途を上回っており、2017年までの上昇とそれ以降の下落が顕著である。これは住宅用地の譲渡価格が下落した地方都市の数が増えたことによると考える。2019年、上海市の住宅用地の譲渡価格は2018年と比べわずかに下落しているが、北京市、深圳市、広州市の住宅用地の譲渡価格は減速するものの上昇が続く。大都市では、今後更なる人口流入が予想され、しばらく緩やかな上昇が続くだろう。
基準地価は地方政府が土地使用権を譲渡する時の参照価格である。土地使用権の譲渡価格は、不動産開発業者が地方政府に支払った土地使用権の市場価格である(8)。一般消費者による不動産の購入価格は土地使用権の譲渡価格など諸経費が含まれた土地と建物を一体となった価額である(9)。ただし、前回「中国不動産の基本(1)土地使用権」で報告したように、土地の使用年限が満了した時、土地使用権の更新料が基準地価を基準に徴収されるケースがあることから、今後基準地価は一般消費者に影響を及ぼす可能性があり、関連法整備とともに基準地価の動向を注視することが必要である。
次回は、中国不動産開発業者の独特の土地取得方法により生まれた「住宅小区」について報告する。
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(5)自然資源開発利用司は自然資源の取引市場を監督する部署である。
(6)以下のURLより確認できる。http://www.landvalue.com.cn/Home/Index
(7)主要都市とは、直轄市(省と同格の行政区画)、省政府の所在市、省と同等の権限を持つ都市のこと。
(8)入札・競売方式が一般的である。
(9)一部公共住宅(公房)を除き、一般消費者は再度土地使用権譲渡金を支払う必要がない。
胡笳(こ か)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 研究員
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