無意識のバイアス(先入観)を克服し無理なくリターンを上げる新たな手法として、「行動投資学(Behavioral Investment)」が、米国の投資家やファンドマネージャーの間で注目されている。

「期待通りのリターンが得られない」「自分の投資スタイルがつかめない」という人は、行動投資学の要素を戦略の一部に取り入れてみてはどうだろう。

行動経済学の投資版 

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(画像=miniwide/shutterstock.com, ZUU online)

行動投資学に関する書籍や文献は複数出ているが、筆者が調べた限り、正確にいつ・誰が考案したものは明らかになっていない。意思決定研究機関Decision Research創設者兼オレゴン大学心理学部ポール・スロヴィック教授が1972年に発表したレポート『人間の判断の心理学的研究:投資決定への影響(PSYCHOLOGICAL STUDY OF HUMAN JUDGMENT: IMPLICATIONS FOR INVESTMENT DECISION MAKING)』が、今日の行動投資学に影響をあたえた文献ではないかと推測される。

簡単に説明すると、心理状態が行動におよぼす影響の研究「行動経済学(Behavioral Finance)」の投資版だ。

多くの人は、投資を合理的で論理的なプロセスと考えているが、投資判断は無意識のバイアスや感情の影響を強く受ける。したがって、投資家は自分の中の無意識のバイアスや感情を認識することで、より合理的で理論的な投資戦略を立てることができる。これが行動投資学の目的だ。

そのため、従来の投資戦略は市場の動きに重点を置いて意思決定を行うが、行動投資学は「個人の富の増加・減少を決定するのは、市場ではなく投資家自身の行動である」という考え方に基づき、戦略を立てる。つまり、戦略の目的は市場を上回ることではなく、市場に基づいたリターンを生みだすことだ。

米国では、行動投資学カウンセリングの専門家(カウンセラー)が存在するだけではなく、サービスや戦略の一環として取り入れるファンドマネージャーやフィナンシャルアドバイザーも増えている。

意思決定に影響をあたえる6つの主要因

それではなにが無意識のバイアスを生みだすのか。ここでさらに一歩踏み込み、無意識のバイアスを生みだす6つの要因を見てみよう。

ユタ・アバランシェ・センターの研究者、イアン・マッカムモン氏の心理学研究報告書によると、意思決定に影響をあたえる潜在的な主要因は、精通(familiarity)・容認(Acceptance)・一貫性(Consistency)・専門家(Experts)・希少性(Scarcity)・社会的促進(Social Facilitation)の6つ。

これら6つの要因は相互作用があり、時として誤った意思決定を促す。そして意思決定を誤ると、予期せぬ事態に対して自ら深刻なリスクを背負うことになる。

ノーベル賞を受賞した心理学の権威ハーバート・サイモン博士は、「人間は合理的な選択をするよう努力するが、認知能力が判断力にブレーキをかける」と分析している。本当に合理的な判断を下すためには、潜在的に利益に対するコストやリスクを考慮する必要があるが、多くの人はコストやリスクを恐れるあまり、判断が簡単な方へ、知識や経験がある方へ、大衆が流れる方へと向かう傾向がある。

「経験」の意外な落とし穴

こうした心理は、状況に応じてうまくコントロールしないと、リターンの伸びを制御するマイナス要因になりかねない。例えば、問題が過去に経験したもの(特に何度も経験したもの)であるほど、心の中に「慣れ」が生じる。