獣は欲望に忠実で調教師は理性を司る
これらの力を総合的に高めるにはどうすればよいのでしょうか。その秘訣は、頭の中の「獣と調教師」にあります。人間の頭の中には、「欲望に従いたい獣」と、「合理的に物事を進めたい調教師」がいるのです。
獣が属しているのは、脳の「大脳辺縁系」という、進化の過程の初期にできたエリア。対して調教師は、「前頭前皮質」という、後期にできたエリアに属します。
獣の特徴は三つあります。まず、単純で具体的な事象を好むこと。従って、複雑なタスクとの相性は良くありません。
第2は、刺激に反応しやすいこと。生存を脅かすものを瞬時に察知し、回避もしくは排除する特性です。原始時代には、飢餓や猛獣などから身を守るために必須の能力でした。現代ではその必要性は激減しましたが、「小腹がすいた」程度のごく小さな刺激にも反応してしまうのが困り物です。
第3の特徴は強大なパワー。欲求・衝動・感情といった形で、瞬時に身体を乗っ取ることです。
対して調教師は、獣が「仕事より美味しいものを食べたい」と暴れ出したとき、「期限に間に合わなくなる。そうなると信頼を失う。だからダメ」と、論理的に説得する役割を果たします。
しかし、調教師は獣のようなスピードとパワーを持っていません。理性は、欲求・衝動・感情にたやすく押し流されるのです。とはいえ、獣は決して集中力の敵ではありません。ここは、獣のパワーを上手に使うべき。つまり、調教師を獣と「戦わせる」のではなく、「上手に乗りこなす」スキルを身につけましょう。その方法を説明しましょう。