個人金融資産(19年12月末):前年比60兆円増、9月末比39兆円増

資金循環統計
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2019年12月末の個人金融資産残高は、前年比60兆円増(3.3%増)の1903兆円となった(1)。年間で資金の純流入が21兆円あったほか、株価の上昇(TOPIXは年間15.2%上昇)によって、時価変動(2)の影響がプラス39兆円(うち株式等がプラス29兆円、投資信託が9兆円)発生したことで、残高が膨らんだ。

四半期ベースでは、個人金融資産は前期末(9月末)比で39兆円増加した。例年10-12月期は一般的な賞与支給月を含むことから資金の純流入となるが、昨年10-12月期は消費増税後の駆け込み需要の反動減と消費マインド低迷も影響し、純流入額が21兆円に達した。また、この時期には米中摩擦の緩和に向けた動きを受けて株価が持ち直したことで、時価変動の影響がプラス19兆円(うち株式等がプラス15兆円、投資信託がプラス3兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。

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なお、家計の金融資産は、既述のとおり10-12月期に39兆円増加したが、この間に金融負債も2兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は37兆円増の1575兆円となった(図表5)。

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ちなみに、その後の1-3月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年資金の純流出(10兆円前後)が進む。さらに、2月以降、新型コロナウィルスの世界的拡大に伴って株価が急落しているため、現時点の個人金融資産残高は昨年末残高を80兆円前後下回っていると推察される。

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(1)2019年7-9月期の数値は確報化に伴って改定されている。
(2)統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

内訳の詳細: 「貯蓄から投資へ」の動きは加速せず

10-12月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流入(積み増し)となったが、今回は消費増税後の反動減と消費マインド低迷も影響し、純流入規模が22兆円と例年よりも大きめになった。内訳では、従来同様、定期性預金が純流出となった一方で、現金や流動性預金(普通預金など)では純流入が進んでいる(図表7)。

なお、定期性預金からの純流出は16四半期連続となっており、この間の累計流出額は42.7兆円に達している。この結果、定期性預金の個人金融資産に占める割合は22.0%にまで低下している一方で、流動性預金の割合は25.5%と過去最高を更新している(図表8)。各種預金金利がほぼゼロに貼りつく中、引き出し制限などで使い勝手が劣る定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ418兆円もあるため、今後も資金流出が避けられない情勢にある。

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なお、リスク性資産への投資については、代表格である株式等が2.1兆円の純流出、投資信託は0.05兆円の純流入に留まった(図表6)。高齢化に伴う相続絡みの売却や株価上昇に伴う利益確定売りが抑制要因になった可能性があるが、結果的に例年の同時期と比べて大差ない状況となっている。

また、7-9月期に純流入の増勢が目立っていた外貨預金や企業型確定拠出年金(401k)内の投資信託についても、10-12月期は引き続き純流入ではあるものの、増勢が一服している(図表9)。他方で、現預金が個人金融資産に占める割合は53%前後で高止まりしている(図表8)。

昨年半ばに金融庁審議会の報告書を発端として、「老後資金2000万円問題」が世間の関心を集めたことで、その後、老後の資産形成を見据えた「貯蓄から投資へ」の動きが活発化するかが注目されていたが、今のところ全体として顕著な動きは確認できない。

ただし、昨年後半に投資を開始した投資家は、今年2月以降の株価急落・円高進行で損失を被っている可能性が高い。最近の市場の混乱が「投資は極めて危険」との印象を広げ、「貯蓄から投資へ」の動きを後退させる可能性もある。

その他注目点: 家計の資金余剰が急拡大、日銀の保有国債に7兆円の評価減発生

2019年10-12月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、企業部門の資金余剰が縮小(6.4兆円→2.7兆円)する一方、家計が大幅な資金余剰(▲0.6兆円→8.6兆円)に転じた。家計の資金余剰額は2012年1-3月期(9.2兆円)以来の規模にあたる。

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既述のとおり、10-12月期は増税後の駆け込み需要の反動減と消費マインド低迷によって消費が減少したため、大幅な資金余剰になったと考えられる。 12月末の民間非金融法人のバランスシートにおける借入金残高は422兆円と9月末から2兆円増加し、前年比では16兆円増加している(図表11)。また、社債等の債務証券も77兆円と9月末から4兆円増加しており、企業債務の増加基調が続いている。一方で、現預金残高は267兆円と過去最高であった9月末から5兆円減少しており、長らく続いた増勢が一服している。

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なお、10-12月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は4.6兆円と、7-9月期の3.1兆円をやや上回り、堅調を維持している(3)(図表12)。また、対外証券投資も引き続きプラスを維持しており、企業の海外投資に対する積極姿勢に変化は見られない。

ただし、今年に入ってからは、新型コロナウィルスの拡大によって世界経済が急激に悪化しているため、企業の海外投資姿勢に変化が現れるかが注目される。

国庫短期証券を含む国債の12月末残高は1132兆円で、9月末から8兆円減少した。主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、預金取扱機関(銀行ほか)の保有高が151兆円(9月末比1兆円増、シェアは13.3%)、海外部門の保有高が145兆円(同0.2兆円増、シェアは12.8%)と、それぞれほぼ横ばいに留まった。海外投資家は円を調達する際に上乗せ金利を得られる状況が続いてきたため、マイナス金利の日本国債へ投資してもトータルでプラス利回りが確保できていた。このことが、従来、海外勢による積極的な日本国債投資を促してきたわけだが、10-12月期にはこの上乗せ金利が縮小したことが海外勢による日本国債投資を抑制したと考えられる。

なお、日銀の国債保有高(495兆円)は9月末から6兆円減少し、全体に占めるシェアも43.7%(9月末は43.9%)へと低下した。保有高の減少は異次元緩和が開始された2013年以降では初となる。日銀は国債の買い増しを続けているが、資金循環統計における国債は一部を除いて時価評価される。9月末から12月末にかけては金利が上昇(=債券価格が下落)し、保有国債に7.3兆円の評価減が発生したことが保有高の目減りに繋がった(図表14)。

日銀の会計上、国債は時価評価されていないため、時価の変動が損益に直接影響することはないが、昨年9月末時点で21兆円の含み益があることが公表されている。また、日銀は将来の損失発生に備えて債券取引損失引当金を9月末時点で4.6兆円積むなどの対応も取っている。しかしながら、将来、金融政策が正常化に向かう際などには、金利が大きく上昇(=債券価格が大きく下落)する可能性がある。10-12月期のまとまった額の評価減発生は、日銀の財務に将来多額の含み損が発生する可能性の存在を示唆している。

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(3)2019年1-3月期の対外直接投資額は10.2兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。

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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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