前回、エンジェル投資家の世界について屈託なく話してくれた有安伸宏氏。今回は「リーマンショック超え」との声もある世界的危機の「コロナショック」に対する実直な思いとエンジェル投資の醍醐味について伺った。(聞き手・師田賢人/写真・森口新太郎)

有安伸宏(ありやす・のぶひろ)氏
慶應義塾大SFC卒業後、ユニリーバ・ジャパンを経て、2007年にコーチ・ユナイテッドを創業。2013年に同社の全株式をクックパッドへ売却。その後、エンジェル投資家として活動を始める。2015年にTokyo Founders Fund、2018年にJapan Angel Fundを設立。マネーフォワード(東証マザーズ上場)、キャディ、レンティオをはじめ、約90社に投資。

コロナショックがスタートアップに与える影響は?

エンジェル投資家
(写真=森口新太郎撮影、ZUU online編集部)

ーー日本のスタートアップ界の長所として、アメリカと比べたときに、上場しやすい点があるかと思います。ただ、2022年に予定されている東証改革で上場基準が厳しくなり、スタートアップにとってはIPOでイグジットがしにくくなるという影響が考えられます。東証改革がスタートアップに与える影響についてお伺いできますか?

パチンコ台のチューリップに開くときと閉じるときがあるように、「上場しやすい」「しづらい」という状況は将来的にそれがずっと続くというよりも、どちらかというと振り子のように循環するものだと思います。上場の窓が開いてる時期と、閉じ気味な時期が一定期間ごとに訪れる、というのが過去のファクトから観察できます。

それよりも今の、世界経済におけるリーマンショック級、いや、それ以上のショックがくることのほうが、はるかに大きいと思います。

ーー「コロナショック」ですね……。これから、市場にどのような影響があるでしょうか?

まず、世界的に上場株式が下落しています。GAFAですら売られまくって株価が下がっているわけです。世界中で、リスクマネーが株式から現金へ逃げているんですよね。当然、上場株が下がると未上場の企業は資金調達環境にも影響があります。コロナショックの数ヵ月前あたりから、ベンチャーのシードラウンドのバブルは沈静化が見られましたが、新型コロナの影響で一気に加速したという印象です。バブルは終わった。

さらに今回は、リーマンショックの時とは違って、実需から先にダイレクトに影響が出ている。オフィス街の丸の内や銀座は以前とはうってかわって、夜はしーんとしていて客引きもいないし、飲食店も空いていました。統計データを見るまでもなく、明らかに消費が落ち込んでいます。

サンフランシスコでも、月末の家賃が払えずにつぶれる小売店や飲食店が多いという話を聞きました。失業者が増えることから犯罪率が上がることが警戒され、銃と弾丸が飛ぶように売れているとか。大変なことになっています。だから経済全体として、すごくヤバいなと。「こんなことがあるんだな……」という思いです。

ーーコロナショックはどれくらい続くと思いますか?

そうですね……。僕は、経済や金融の専門家ではないので強い仮説はもたないようにしてますが、1年で済むということはないのではないでしょうか。おそらく数年は影響が出るのではないかなと。

さらに日本の場合、人口がどんどん減っている。一方のアメリカは、大きな救いは人口が増えていること。未来の経済の強さを測るにはさまざまな指標がありますが、僕ら実務家が見るべき一番分かりやすいポイントは「人口の増加率」だと考えています。就労人口が増えるかどうか、内需が拡大するかどうか、は強い変数です。いつかは必ず終焉するコロナショックの後に訪れる、人口急減ショックこそ日本人一人一人が備えなければならない大きな事実だと思ってます。

やっぱり、ブラックスワンは起きる

エンジェル投資家
(写真=森口新太郎撮影)

ーーZUU onlineの読者は、働きながら投資をしている人が多いです。有安さん自身、投資家として今の状況をどのように見ていますか?

「ブラックスワンって起きるんだな」ということですね。リーマンショックが起きた後、米国金融機関に対する規制が進み、このような経済危機は今後起きないだろうと予測する専門家はかなりいました。

しかし今回、ふたを開けてみると、もっとすごいことになっています。「リーマン級。いや、リーマンを超える」と。経済の複雑性は指数関数的に大きくなっているし、その規模もどんどん大きくなっていく。想定をたやすく超えることが実際に起きるんです。

コロナショックという大きな波紋によって、いくつかの大きなドミノが倒れだすと、ここまで経済が大きく痛むという事実に、正直、僕は驚いています。「ブラックスワンは必ず起きる」ということを前提に、投資をしなくてはなりません。

投資の本質は心のありよう

ーー今の投資家がとるべき具体的アクションについてどのようにお考えでしょうか?

本当に自信があるなら逆張りの勝負をしてもいいかもしれません。ただ、このような出来事は歴史上、珍しいことですので、自分自身と向き合い、「心」の動きを学ぶ機会にもなります。

例えば、上場株式に投資をしていたとして、損失が30パーセントでたときに、自分の心がどうなるのか。それを観察することは、とても良いケーススタディです。自分の心を観察できると、次の機会に自分の得意な戦い方ができる。

ーー有安さんは、自分の心を振り返るために行っていることはありますか?

僕は、忘れないようにたくさんメモをとります。スタートアップの人がピッチをするとき、いろいろなことを話しますが、話の内容についての記録はピッチ資料もあるので最小限です。それよりも、自分が話を聞いているときに何を思ったかをEvernoteにひたすらメモします。「情熱がすごいな、家業の影響かな?」「チャーンレートも粗利率も十分低いが、営業コストが高く付きそうだ」というように、自分の主観をメモするようにしています。

あとからそのスタートアップに関して何か話題になったとき、当時の記録を見返すと、驚くほどピントのずれた意思決定をしていることに気付くこともあります。「やばいっ、こんな材料を元にして投資してる!」とかですね。シード出資を見送った会社が、その次のラウンドで大型の資金調達に成功していると、「当時、自分はどういう判断をしていたのかな?」と、確認しますね。

上場株の投資家の人の場合にあてはめるなら、株を買ったときに「なぜ買ったのか」「決断にどのくらい時間をかけたか」「どのような分析をしたか」のように、全部記録しておくことをおすすめします。じゃないと、忘れてしまいます。

ーー投資家にとって一番の教科書というのは、自分が記録した、その時々の心の動きのメモなのかもしれませんね。

そうですね。投資をしていて分かるのは、みんな意思決定の理由をよく忘れるんですよね。失敗したときは「どうして失敗したんだろう?」と思い返すことも多いんですが、成功したときは「やったー!」って喜ぶだけで、成功した理由を言語化しないんですよ。でも、よく振り返ってみると「あそこで踏ん張ってこういうふうに考えたからだ」とか「こういう誘惑に負けなかったからだ」とか、何かしら理由があるんですよね。

ーー表に出ないところで、心のメモをとるとか、地道な習慣を続けていくことが、確かな力になる。投資家としてのレベルが上がる。

そうですね。「投資はギャンブルじゃない」ので誰がやっても上達します。場数さえあれば、必ず成長できる。これはベンチャー投資でも同じです。ただベンチャー投資は、成功するまでに6年〜8年くらいかかるので、資金が枯渇して撤退するか、飽きてやめてしまう人が多い。打席にさえ立てば絶対に上達するけど、打席に立ち続けにくいことが、ベンチャー投資の特徴の一つです。

エンジェル投資をするなら「愛」を持て

エンジェル投資家
(写真=森口新太郎撮影)

ーー有安さんの考えるエンジェル投資の「醍醐味」は何ですか?

すごくいっぱいありますよ。事業がガッと伸びるときは、ものすごく興奮します。背筋が伸びるし、自分の目線も上がる。事業も変わるし、経営陣の顔つきも変わる。すごく「ドラマティック」ですよね。経済小説を読むよりも、100倍ドラマティックです。

ーー今まであった、一番ドラマティックな瞬間は、何ですか?

企業の売掛債権を買い取るOLTAというスタートアップの資金調達を手伝って、資金調達に成功したのが思い出に残っています。このときは、創業5ヵ月の段階で経営陣と膝を突き合わせて資本政策を考え、VCを一緒にまわりました。チームからの当初のドラフトは「2億円調達できれば御の字」という感じだったのですが、「それだと、また10ヵ月後に資金調達することになるから、やるなら大きく、4億円集めよう」と僕が提案し、結果的には5億円集めたんですよ。

「いくら集めるか」という根本的な議論からコミットして、僕の提案で計画が進んで、成功して着金したときは、すごろくでいえば一度に「6」が2つ出た感覚。会社を成長するために資本が必要なビジネスモデルだったので、この金額をエクイティで調達できると、成長は一気に加速できる。すごくうれしかったです。お金を出して成功するよりも、情熱や時間を投資して打ち手がうまくいったときが、一番うれしいです。

ーーエンジェル投資とその他の投資との違いは何ですか?

より「エモーショナル」なことだと思います。お金を預かる人と、人間関係があるので。「ふざけんなよ!」と憤ることもあるだろうし、逆にリスペクトが大きくなることもあるだろうし。だからエンジェル投資には、IQよりも「EQ(心の知能指数)」の要素がとても大事だと思います。

究極的には「愛」が大事ですね。スタートアップに対する「愛」だったり、事業に対する「愛」だったり。会ったことはないですけど、不動産投資やアート投資の一流の人も「愛」がすごいはずですよね。

愛があるって、すごく強いんですよ。だから、この記事の読者も「すべてのスタートアップを好きになる」ことは難しいと思いますが、自分が純粋な情熱を持てる事業や創業者、産業領域を見つけることが、一番いいはずです。愛があれば学習も進むし、学習が進めば勝率も上がる。

日本のスタートアップのエコシステムは、まだまだ小さい「ムラ社会」です。10年単位で見てみると、スタートアップへの愛がない人は、しばらくするといなくなっている。「気持ち」がすごく大事です。最後にお伝えするメッセージは、「エンジェル投資をするなら『愛』を持て!」ということですね。

前編はこちら