要旨
- 欧州は新型コロナウィルスの急激な感染拡大による新たな危機に直面している。コロナ・ショックは、経済の落ち込み幅だけでなく、生産や雇用の水準の回復に要する時間でも、リーマン・ショックを超えるおそれがある。
- ユーロやEUの持続可能性が危ぶまれる事態を回避する鍵は危機対応での「連帯」と「協調」にある。
- リーマン・ショックやユーロ圏の債務危機で大きな役割を果たしたECBの初動には問題があったが、臨時理事会での追加措置で修正された。ECBは、今回も、流動性の危機が生じないよう、資金供給に万全を尽くす重大な役割を担うが、行動制限による経済活動の委縮や公衆衛生上の危機に果たせる役割は限定される。
- 欧州各国の緊急経済対策の当初の動きは「連帯」や「協調」という面で問題が大きかったが、「協調」を演出するようになってはいる。EUは、コロナ危機対応の財政支出は、財政ルールの適用外とすることを決めたが、信用力の問題からは逃れられない。直面している経済や雇用の危機に十分な対応を講じられないリスクが気掛かりだ。
- EUには、本来、国力の格差を調整する役割が期待されるが、これまでは受け身の立場に留まっている。EUのGDPの0.3%相当と小粒な「コロナ対策投資イニシアチブ」、ESMの活用に留まらず、コロナ危機対応の財源をEU加盟国が共同で調達する「ユーロ圏共通債」あるいは「コロナ債」発行といった展開になれば、EUの結束の象徴となり、復興のペースも速まる。しかし、「戦時下」と表現されるコロナ危機との戦いでも、今のところ、共通債発行を巡る南北間の見解の対立の構図は変わっていないようだ。
- EUは、果たしてコロナ危機に「連帯」と「協調」で対応できるのか。岐路に立つEUは世界経済の縮図でもある。