(本記事は、遠藤 誉・田原 総一朗の著書『激突! 遠藤vs田原 日中と習近平国賓』実業之日本社の中から一部を抜粋・編集しています)

ペンス副大統領演説で中国が「攻撃的、攪乱的」と非難

中国,アメリカ,富裕層
(画像=Aritra Deb/Shutterstock.com)

田原: アメリカ・トランプ大統領の側近であるペンス副大統領が2019年10月に、ワシントンにあるシンクタンクの一つ、ウイルソンセンターで「米中関係の将来」というテーマで演説をしましたね。

1年前に、やはりワシントンのハドソン研究所で演説しています。その時はアメリカvs.中国の「新冷戦」宣言をしました。

1年後になる今度の演説で、「中国は経済関係改善のための意味のある行動をとっていない、その他の多くの問題では、中国はさらに攻撃的で、攪乱的な行動になった」などと、より強い調子になりましたね。この演説を遠藤さんはどう見ていますか。

〈ペンス副大統領演説の概要〉

1.20年間にも至らない短い期間の間に、「世界史上最大規模の富が移動した」。過去17年間の間に中国のGDPは9倍にも膨れ上がっている。これはアメリカの投資が可能ならしめたものだ。

2.北京はアメリカに4000億ドルにも及ぶ貿易赤字をもたらしたが、これは全世界の貿易赤字の半分に至る。われわれは25年間を使って、中国を再建したのだ。これ以上に現実を表している言葉はないが、失ったものは戻らない。

3.しかし「失ったものは戻らない」という言葉は、ドナルド・トランプ大統領により覆されるだろう。アメリカは二度と「経済的接触(という手段)のみに頼って共産主義国家・中国を自由な西側諸国の価値観に基づく国家に転換する」という望みを持つことはない。それどころか逆に、トランプ大統領が2017年の国家安全戦略で述べたように、今やアメリカは中国を安全戦略と経済上の競争相手とみなしている。多くの専門家が、中国が短期間内にアメリカ経済を凌駕するだろうと予測しているが、トランプ大統領の大胆な経済政策により全ては変化していくだろう。

4.知財権と我が国の国民のプライバシーおよび国家の安全を守るために、アメリカはファーウェイやZTEなどの違法行為を阻止するために世界各国の盟友たちに北京の5Gネットワークを使うなと警告してきた。

5.中国政府は中国人民の宗教の自由を圧迫し、100万人のウィグル・ムスリム(イスラム教徒)たちを監禁・迫害している。そのため先月、トランプ大統領は中国の監視等に関わる公安部門と企業計組織団体制裁を加えた。

6.台湾は中華文化における民主と自由の灯台の一つだ。アメリカは、より多くの武器売却等によって台湾を支える。香港も数百万の民衆が自由と民主を求めてデモを行っている。香港民衆の権利は1984年の「中英共同声明」によって明らかにされている。アメリカは香港市民のためにメッセージを発し続ける。

7.それでもなお、トランプ大統領は、米中貿易協議が合意を見ることを希望している。われわれは、新しい段階において、中国がアメリカの農業に関して支持し、かつ今週チリで行われるAPECで両首脳が協議書に署名できることを希望している。

遠藤: 非常に興味深いので、いくつかピックアップして感想を述べたいと思います。

まず、「1」に挙げている中国の経済成長に関してですが、面白いのは「これはアメリカの投資が可能ならしめたものだ」と位置づけていることです。2018年10月の第一回ペンス演説のときには「アメリカは過去25年間にわたって、中国を再建したのである」と言っています。今回も前述の「2」で示した通り、同じ言葉を使っていますね。

25年間というのが「2018-1993=25」で、1992年10月の「天皇陛下訪中以来」を指しているのは明らかですが、アメリカは「中国の経済成長はアメリカが可能ならしめた」とみなしているのは非常に興味深い。天安門事件に対する対中経済封鎖を解除したのは日本ですが、全世界が中国に投資する「きっかけ」を日本がつくったことによって、いかに世界全体を動かしてしまったかを如実に物語っているという意味で、ペンス演説に毎回出てくるこのフレーズは非常に重要です。

田原: 天安門事件後の日本の対応が世界を大きく変えたのは確かですが、それは悪いことではなく、結構なことです。それくらい、日本は大きな役割を果たしているということですよ。

遠藤: だからこそ危険なのです。このような国際情勢の中、習近平国家主席を国賓として招聘するのが、いかに再び世界に影響を与えてしまい、アメリカの主張と利益にも反するかを、日本国民は深く考えなければなりません。今なら、まだ間に合います。

図表3-1をご覧いただくと分かりますが、1993年以降に中国のGDP規模が徐々に大きくなり始め、2010年には日本を追い抜いて、今ではアメリカにキャッチアップしそうな勢いです。それを何としても防ごうとしているのがペンス演説の「3」です。日本はアメリカに協力すべきだと思うのです。困っている中国に日本だけ手を差し伸べるというようなことは、すべきではない。

また図表3-2をご覧ください。これは中国の商務部が2016年に発布した統計です。1990年以降の国別・地域別の対中投資推移を示したデータです。

図表3-2
(画像=激突! 遠藤vs田原 日中と習近平国賓)

アメリカは1993年以降、たしかに急激に対中投資を伸ばしましたが、香港で最初の大規模デモがあった2003年から抑え気味で、それ以降はひたすら下降線をたどっている。ペンスさんが言うほど「アメリカが再建させた」というのではなく、全世界が1992年10月から一気に対中投資に邁進していったというのが現実です。特に日本の貢献度が大きい。日本はアジア金融危機とリーマンショックのとき以外はひたすら投資を伸ばしています。2012年の反日暴動で下がりましたが、中国としては「アメリカがだめならば日本」という、いつものパターンを繰り返している。その手に乗るのは賢明ではありません。

国防総省が次世代通信規格「5G」で、「中国に負けている」と報告

5G
(画像=Getty Images)

田原: では、ペンス演説の「4」に関しては、どうお考えですか?

遠藤: はい、これは明らかに2019年4月3日にアメリカ国防総省の諮問委員会(国防イノベーション委員会)が出した報告書「5Gエコシステム:国防総省に対するリスクとチャンス」に大きな影響を受けていると思います。なんと驚くべきことに、国防総省はこの報告書でスマホなどの移動通信に使われる第5世代移動通信システム5Gにおいて「アメリカは中国に負けている」と認めてしまったのです。

2020年から5Gの時代に突入し、世界のデジタル界は5G一色に染まっていくことでしょう。ですから5Gを制する者が、世界を制することになるのです。

この5G問題は大変重要ですので、この対談でも、後半改めてさらに議論をしたいのですが、そこでアメリカは、中国の通信技術の脅威に対して、ファーウェイを商務省産業安全保障局の制裁対象リスト(エンティティ・リスト)に入れるなど一連の激しい行動をとり始めました。

アメリカ政府の許可なく、アメリカ企業から部品などを購入することを禁止するものです。

田原: 5月15日にエンティティ・リストに入れていますから、たしかに4月3日の報告書の影響が大きかったのかもしれません。

遠藤: はい、この報告書が与えた衝撃は、計り知れなく大きいです。ペンス演説の前半の激しい対中強硬姿勢は、ここにも原因があると言っていいでしょうね。

ペンス演説後半は、なぜ腰砕けになったのか

田原: ペンス演説の「5」と「6」に関しては、類似のことを既に第二章で述べていますので、最後の「7」に関して掘り下げたいと思います。

2020年11月の大統領選再選を意識してか、香港法案に署名するまでのトランプ発言は、中国への輸入品高関税制裁の緩和や、追加関税を先延ばしするなど、ちょっとこれまでの強気一辺倒と違って、なにやらおかしい。このペンス演説からそれを読み解きたいと思うのですが、これはどう思われますか。

遠藤: そうですね、ペンス演説の後半、つまりご指摘の「7」ですが、突如おかしいですね。せっかく期待していたのに、腰砕けになっていて残念です。

田原: トランプが弱腰になったと思ったら、ペンスは今度の演説で、こう言っている。

「米中の経済関係で長年の懸案であった構造改革実現のために、中国と誠意を持って交渉を続ける。トランプ大統領は引き続き米中合意に楽観的だ。さらに習近平国家主席と強い個人的関係を築いてきた。それを基盤に我々は両国の国民に恩恵を与える関係強化の道を追及する」と。

遠藤: それはまさに中国が言っているウィン・ウィンの政策で、それにアメリカが乗っかってしまった。

田原: それでいいのですか。

遠藤: いいわけがありません。

田原: ペンスはこうも言っている。

「我々は米国と中国が繁栄の未来を共有するために、協力しなければならないと熱烈に信じている」

遠藤: そうですよ。前半の4分の3ぐらいは、ひたすら攻撃的で、「いいぞ、いいぞ」と思ったのですが、最後の部分を読んで「えっ、どうしたの?」と。

田原: 何のためにこんな演説をしたのですか。

遠藤: そうですね。そこに米中攻防に対するトランプさんの多くが詰まっているので、それを解明しなければなりません。

実は、2018年の「新冷戦」演説から続いて、2回目の演説を2019年6月4日にすると前から決まっていました。しかしトランプと金正恩北朝鮮最高指導者(朝鮮労働党委員長)とのハノイ会談、さらに6月29日、大阪サミットで米中首脳会談があり、トランプからは「あまり刺激的なことを言うな」と言われていたものと思います。だからペンスは演説を延ばしてきた。だけど、やらないと、世界から「なんだ、やらないのか」と言われると困るので、前回の演説からちょうど1年後のこの時期を選んだのだと思います。

田原: 確かに「新冷戦」を打ち出した前回と、内容が全然違う。

遠藤: どうして、そんなことになったのか。一番大きい原因は「7」にもストレートに書いてある「チリで開催されることになっていたAPEC」にあると思います。そこで米中首脳会談が行われる予定でした。この会談で、トランプは習近平にアメリカの大豆や畜産など農畜産物を「買ってくれ」と持ち掛け、習近平は「買います」と応える手はずだったのです。中国では豚コレラが流行っていて、本当は豚肉や飼料が不足して困っていますから、トランプの希望通り、習近平は、「大豆も、豚肉も大量に買います」と言う手はずになっていた。そうすればあたかもトランプに「負けました」「屈服しました」と見せかけることができる。

トランプとしては、アメリカ国内向けに米中貿易戦争で成果を誇れるような仕掛けを、習近平に作って欲しかった。だから、この点だけは「譲歩してくれ」というメッセージを中国に送りたかったために、突然ペンス演説は「7」のようなことになってしまったものと考えます。

田原: その後、チリでは社会情勢が不穏であることからAPEC開催が見送られてしまい、その後は香港法案にトランプがサインしてしまいましたから、今となってはペンス演説の「7」の部分は無駄になりました。

しかしそういう理由から硬軟取り混ぜてのペンス演説が出て来たのですね。

遠藤: そう分析する以外にないですね。

激突! 遠藤vs田原 日中と習近平国賓
遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941(昭和16)年、中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した長春食糧封鎖「卡子(チャーズ)」を経験し、1953年に帰国。中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。
著書に『中国がシリコンバレーとつながるとき』(日経BP社)、『ネット大国中国言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『卡子中国建国の残火』(朝日新聞出版)、『毛沢東日本軍と共謀した男』(新潮新書)、『「中国製造2025」の衝撃』(PHP研究所)、『米中貿易戦争の裏側』(毎日新聞出版)など多数。
田原 総一朗(たはら・そういちろう)

ジャーナリスト
1934(昭和9)年、滋賀県生まれ。1960年、早稲田大学を卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年、フリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、「大隈塾」塾頭を務めながら、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日) など、テレビ・ラジオの出演多数。
著書、共著多数あり、最新刊に『令和の日本革命 2030年の日本はこうなる』(講談社)がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)