(本記事は、遠藤 誉・田原 総一朗の著書『激突! 遠藤vs田原 日中と習近平国賓』実業之日本社の中から一部を抜粋・編集しています)

日本のホワイト国除去が、韓国のGSOMIA破棄の口実に

田原: なぜいまこのタイミングで、韓国は徴用工の賠償問題を持ち出したのか。

遠藤: それは韓国の政権と裁判所が癒着しているからでしょう。

田原: 三権分立していない。

遠藤: 三権分立を全くしていなくて、前政権の朴槿恵大統領が裁判所とコネを持っていて、徴用工の賠償問題が提訴されていたのに、審理しないで、5年間もたなざらしにしていたんです。その朴槿恵が弾劾されて牢屋に入った。最高裁付属機関の前次長も逮捕されました。それで突然、徴用工判決が出されました。朴槿恵時代は日本との関係を良好にしておこうと、審理されていなかった。ところがそれをひっくり返して、文在寅は判決を出させたわけです。

田原: 最大の原因は韓国の経済の悪化ですよ。失業率がドーンと高い。経済が悪化したら、どこの国の政権も、前政権を批判するのです。

遠藤: 確かに経済の低調さはありますが、韓国は常に前の政権の大統領を逮捕して投獄しているではないですか。

田原: 文在寅の側近、曺国法相を強行任命しましたが、娘の不正入学問題と、それに加担したとされる妻など家族の疑惑に関連して辞任させられました。2020年の総選挙で率いる「ともに民主党」が負けると文在寅も危ないですね。

遠藤: 大統領を辞めたら文在寅もまた監獄行きでしょう。

田原: 問題は韓国の経済なので、二階俊博自民党幹事長には、経済援助など含めて、韓国と話し合う必要があると私は提案している。安倍晋三首相は2019年11月、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議でバンコクを訪問中の文在寅と11分間、歓談したと発表されました。徴用工問題で正式な首脳会談がまだできないでいるが、党は内閣とは別なので、関係の改善に努力したいと二階さんは言っています。

韓国としては、今日まで日米韓で安全保障上の連携を保ってきました。わざわざ日韓のGSOMIAを最近になって結ぶというところまでしたのに、日本が韓国の最も痛いところをついて半導体素材の3つの種類を輸出規制した。

あれは失敗だった。韓国の経済を悪くするようなことをしたら、韓国がGSOMIAを破棄して来るのは当たり前じゃないか、と言いたい。

遠藤: そうですか?しかし、それならなぜ、GSOMIA破棄が実行されるギリギリの数時間前になって、韓国はいきなりGSOMIA破棄を撤回するなどという、とても考えられない唐突の決定をしたのか。これでは韓国のこと、ますます誰も信じなくなるでしょう。

田原: 遠藤さんは韓国がギリギリでGSOMIA破棄を撤回したのは、なぜだと思っているんですか?

遠藤: 韓国軍とアメリカ軍の蜜月関係です。韓国軍の制服組エリートたちの、米軍との関係の良さというのは想像を絶するほどですね。

私は1990年代、筑波大学で教鞭をとっていたときに、「中国人留学生の米国留学組と日本留学組の帰国後の留学効果に関する日米比較追跡調査」というのをやったことがあります。韓国に関しても予備調査の段階までやったのですが、そのときにアメリカ留学組の韓国人留学生が、どれほど多く韓国軍の制服組エリートになっているかを知りました。彼らはアメリカを尊敬し、アメリカ軍に対して、まるで義兄弟のような深い緊密感を持っています。

今般も、ギリギリになって、どれだけ多くのアメリカの国防関係者が韓国に通い詰めたか。あのときの韓国側国防関係者の、あの爽やかな、誇らしげな笑顔......。「あれ?これは、ひょっとして......」と思いましたね。そうしたら失効直前になって、いきなり破棄を撤回した。

つまり、一連の動きを通してはっきり見えてきたのは、文在寅政権は「軍を掌握していない」という事実ですね。軍に詰め寄られて、屈服したとしか思えません。

田原: ほうーー!これは初めて聞いた論理ですね!これは驚きました。

遠藤: 教育現場にいて、人材を養成する業務に携わってきた者から見えた、小さな事実です。

それよりも私が言いたいのは、日韓の仲が悪くなって喜ぶのは誰かということです。

日韓が離反すると日米韓の連携が崩れ、習近平がほくそ笑む。当然、アメリカと対立しているロシアのプーチンも喜びます。日韓の離反は中国の思う壺なのです。そのことを主張したい。それにしても田原さんは中国に関してだけでなく、韓国に関しても「仲良くしろ」と二階さんにアドバイスしておられるんですね。私は何よりもそのことに驚いています。

激突! 遠藤vs田原 日中と習近平国賓
遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941(昭和16)年、中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した長春食糧封鎖「卡子(チャーズ)」を経験し、1953年に帰国。中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。
著書に『中国がシリコンバレーとつながるとき』(日経BP社)、『ネット大国中国言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『卡子中国建国の残火』(朝日新聞出版)、『毛沢東日本軍と共謀した男』(新潮新書)、『「中国製造2025」の衝撃』(PHP研究所)、『米中貿易戦争の裏側』(毎日新聞出版)など多数。
田原 総一朗(たはら・そういちろう)

ジャーナリスト
1934(昭和9)年、滋賀県生まれ。1960年、早稲田大学を卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年、フリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、「大隈塾」塾頭を務めながら、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日) など、テレビ・ラジオの出演多数。
著書、共著多数あり、最新刊に『令和の日本革命 2030年の日本はこうなる』(講談社)がある。

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