(本記事は、遠藤 誉・田原 総一朗の著書『激突! 遠藤vs田原 日中と習近平国賓』実業之日本社の中から一部を抜粋・編集しています)

日本のホワイト国除去が、韓国のGSOMIA破棄の口実に

日韓
(画像=Getty Images)

田原: さて、東アジアの香港、台湾の問題をここまで話し合いましたが、ここで朝鮮半島に目を向けてみたいと思います。2019年の初頭までは米朝国交回復や南北の融和が一気に進むかと思われたのに、2月のハノイ米朝首脳会談の失敗で一気に雪解けムードがしぼんでしまった。その後、今度は日韓関係が急激に悪化しています。

日本と韓国の徴用工問題に端を発した日本のホワイト国(輸出優遇国)除去、それに対抗する韓国のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄問題が出てきました。GSOMIA継続を強く求めるアメリカと、警戒心を強める中国、北朝鮮の思惑や、影響力をめぐるパワーバランスが揺れ動き、東アジア全体を巻き込んで火花を散らしています。結局、失効直前に韓国から破棄の停止(=延期)が発表されました。

遠藤: ご指摘のように韓国のGSOMIA破棄問題で、東アジア情勢が一時期かなり緊迫しました。GSOMIAは中国の軍事情報あるいは北朝鮮の軍事動向を、韓国がこっそりキャッチして、それを日本に教えるものです。さらに、アメリカと情報を共有する。中国にしてみれば、そんなものを締結するのだったら、対中貿易に頼っている韓国に、「中韓国交を断交するぞ」、といわんばかりの勢いで、2016年の締結当初から、水面下でものすごく怒っていました。

田原: 日本が韓国をホワイト国(輸出優遇国)から外したので、それに激怒して破棄した経緯ばかりが情報として入ってきていました。中国や北朝鮮は当然、反対の立場ですが、韓国の条約継続に対する両国側の厳しい反応はあまり伝わってきませんでした。

遠藤: 北朝鮮にとっても、軍事情報を韓国が日本やアメリカに「密告」するのですから、「そんなことをして何が南北統一だ」と怒っています。

韓国の文在寅大統領は、南北の平和統一を掲げて北朝鮮に呼び掛けたというのが唯一の手柄ではないですか。そして北朝鮮の非核化問題で、トランプ大統領との仲介をしてあげた、というのが彼の唯一の政治業績です。それ以外何もない。したがって、GSOMIAを継続すれば、北朝鮮からも、中国からも非常に邪険にされ、威嚇を受けるだろうことは容易に想像がつきますね。

一方、中国にしてみれば、日米韓が安全保障上の連携をしているということは、言うならば対中包囲網を形成していることに等しいので、何とか日韓あるいは米韓を離間させたかった。だというのに、なんと日韓が勝手に仲たがいしてくれたので、習近平としては「笑いが止まらなかった」わけですよ。結果は肩すかしに終わりましたけどね。

田原: 関係悪化の契機は、2018年10月、韓国大法院(最高裁)が出した第二次大戦時の朝鮮半島統治時代の朝鮮人徴用工に対する賠償判決です。日本は1965年の日韓請求権協定で賠償問題は解決済みとの立場ですが、韓国側は、雇用していた日本企業の資産差し押さえに動きました。

そして日本側は半導体素材3種類の輸出制限やホワイト国から除去しました。韓国側はそれに対してGSOMIAの破棄で応じています。日本は一連の問題に関連性はなく、ホワイト国からの除去は貿易問題だとしていますが、報復合戦と捉えられているのが現実です。ここには中国、北朝鮮との関係も影響していたのですね。

「徴用工」問題は明らかに韓国側に非がある

破綻
(画像=MIND AND I/Shutterstock.com)

遠藤: 発端が徴用工問題だったというのは間違いないでしょう。それに対して日本政府側は真正面から戦った方が良かったと思います。なぜなら日韓国交正常化の1965年の請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」と明記されただけでなく、2005年の廬武鉉政権下で、賠償を含めた道義的責任は韓国政府が持つべきだとの政府見解もまとめられているからです。当時、大統領の首席秘書官だったのは、なんと現在の文在寅大統領ですよ。

しかし、あのとき突然、国際情勢が変わった。当時の小泉純一郎首相の靖国参拝などで反日デモがアジアを席巻したことで、韓国も反日に代わったのです。

それでも文在寅大統領に「、あなたが仕えた廬武鉉大統領は韓国政府の責任だと言ったでしょう」と言いたい。それに関わったのだから、きちんと対応すべきなのです。少なくとも日本が支払った支援金は韓国政府が受け取っているのですから、韓国政府が責任をもって被害者個々人に支払えばいいのです。

にもかかわらず、文在寅は司法の判決に自分は関わることはできないなどと言い逃れをし続けた。だから日本から何らかの懲罰を受けなければなりません。

田原: さらに1998年、金大中大統領と、小渕恵三首相が韓国への植民地支配への反省を明記した「日韓パートナーシップ宣言」が交わされているのです。

ところで、日本はなぜ徴用工問題に関して真正面から戦わなかったと思いますか?贖罪意識だと思いますか?

遠藤: いえ、違うと思います。韓国が国際法違反をしているのは明らかですから、ここで贖罪意識などを持ち込むべきではないし、その余地はありません。

それよりもアメリカとの関係です。第二次世界大戦中のことに対象を絞ると、日本はアメリカにとって最大の敵でした。したがってアメリカでは、戦時中の日本の行動に関して日本側に立って発言すると、在米コリアンや在米の華人華僑たちから非難を受けます。彼ら彼女らは市民権を持ち、選挙権を持っている。ときには議員の当落を左右するほどの力を持っています。

また米議会自身も日本の戦時中に起きたことに対する反省が足りないとして声明を出したりすることもあります。たとえばオバマ政権の時にCRS(米議会調査局)が安倍首相の慰安婦問題に関する態度が悪いとして、2回にもわたってCRSリポートを出したことがあります。

それくらい、どんなに日米関係が蜜月だといっても、ここは線引きがあります。だから日本は半導体材料やホワイト国除外などによって韓国に懲罰を加えたものと思いますね。日本は「次元の違う話だ」と言ってはいますが、半導体材料やホワイト国除外などが唐突過ぎて、少々整合性に欠けるようにも思います。

田原: なんで日本は韓国をホワイト国から外したか。官邸とべったりの経済産業省が関係している。外務省は関係ない。貿易制限をすれば、韓国は徴用工の問題を撤回すると思った。

遠藤: それよりも、なぜあの時期だったか、ではないんですか?7月初旬。7月10日には参院選がありました。そして日本国民の嫌韓感情が沸き上がっていた。選挙民を惹きつけるには、見事なタイミングだと思いますが。日本の半導体業界の方たちの困窮には配慮してないですね。韓国に懲罰を与えるには、もっと他の方法があったのではないかと思いますが、手っ取り早かったのでしょうか。民主主義の脆弱性の一面と言えます。

日本の半導体素材輸出規制とホワイト国除外は失敗

半導体
(画像=Getty Images)

田原: なぜいまこのタイミングで、韓国は徴用工の賠償問題を持ち出したのか。

遠藤: それは韓国の政権と裁判所が癒着しているからでしょう。

田原: 三権分立していない。

遠藤: 三権分立を全くしていなくて、前政権の朴槿恵大統領が裁判所とコネを持っていて、徴用工の賠償問題が提訴されていたのに、審理しないで、5年間もたなざらしにしていたんです。その朴槿恵が弾劾されて牢屋に入った。最高裁付属機関の前次長も逮捕されました。それで突然、徴用工判決が出されました。朴槿恵時代は日本との関係を良好にしておこうと、審理されていなかった。ところがそれをひっくり返して、文在寅は判決を出させたわけです。

田原: 最大の原因は韓国の経済の悪化ですよ。失業率がドーンと高い。経済が悪化したら、どこの国の政権も、前政権を批判するのです。

遠藤: 確かに経済の低調さはありますが、韓国は常に前の政権の大統領を逮捕して投獄しているではないですか。

田原: 文在寅の側近、曺国法相を強行任命しましたが、娘の不正入学問題と、それに加担したとされる妻など家族の疑惑に関連して辞任させられました。2020年の総選挙で率いる「ともに民主党」が負けると文在寅も危ないですね。

遠藤: 大統領を辞めたら文在寅もまた監獄行きでしょう。

田原: 問題は韓国の経済なので、二階俊博自民党幹事長には、経済援助など含めて、韓国と話し合う必要があると私は提案している。安倍晋三首相は2019年11月、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議でバンコクを訪問中の文在寅と11分間、歓談したと発表されました。徴用工問題で正式な首脳会談がまだできないでいるが、党は内閣とは別なので、関係の改善に努力したいと二階さんは言っています。

韓国としては、今日まで日米韓で安全保障上の連携を保ってきました。わざわざ日韓のGSOMIAを最近になって結ぶというところまでしたのに、日本が韓国の最も痛いところをついて半導体素材の3つの種類を輸出規制した。

あれは失敗だった。韓国の経済を悪くするようなことをしたら、韓国がGSOMIAを破棄して来るのは当たり前じゃないか、と言いたい。

遠藤: そうですか?しかし、それならなぜ、GSOMIA破棄が実行されるギリギリの数時間前になって、韓国はいきなりGSOMIA破棄を撤回するなどという、とても考えられない唐突の決定をしたのか。これでは韓国のこと、ますます誰も信じなくなるでしょう。

田原: 遠藤さんは韓国がギリギリでGSOMIA破棄を撤回したのは、なぜだと思っているんですか?

遠藤: 韓国軍とアメリカ軍の蜜月関係です。韓国軍の制服組エリートたちの、米軍との関係の良さというのは想像を絶するほどですね。

私は1990年代、筑波大学で教鞭をとっていたときに、「中国人留学生の米国留学組と日本留学組の帰国後の留学効果に関する日米比較追跡調査」というのをやったことがあります。韓国に関しても予備調査の段階までやったのですが、そのときにアメリカ留学組の韓国人留学生が、どれほど多く韓国軍の制服組エリートになっているかを知りました。彼らはアメリカを尊敬し、アメリカ軍に対して、まるで義兄弟のような深い緊密感を持っています。

今般も、ギリギリになって、どれだけ多くのアメリカの国防関係者が韓国に通い詰めたか。あのときの韓国側国防関係者の、あの爽やかな、誇らしげな笑顔......。「あれ?これは、ひょっとして......」と思いましたね。そうしたら失効直前になって、いきなり破棄を撤回した。

つまり、一連の動きを通してはっきり見えてきたのは、文在寅政権は「軍を掌握していない」という事実ですね。軍に詰め寄られて、屈服したとしか思えません。

田原: ほうーー!これは初めて聞いた論理ですね!これは驚きました。

遠藤: 教育現場にいて、人材を養成する業務に携わってきた者から見えた、小さな事実です。

それよりも私が言いたいのは、日韓の仲が悪くなって喜ぶのは誰かということです。

日韓が離反すると日米韓の連携が崩れ、習近平がほくそ笑む。当然、アメリカと対立しているロシアのプーチンも喜びます。日韓の離反は中国の思う壺なのです。そのことを主張したい。それにしても田原さんは中国に関してだけでなく、韓国に関しても「仲良くしろ」と二階さんにアドバイスしておられるんですね。私は何よりもそのことに驚いています。

激突! 遠藤vs田原 日中と習近平国賓
遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941(昭和16)年、中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した長春食糧封鎖「卡子(チャーズ)」を経験し、1953年に帰国。中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。
著書に『中国がシリコンバレーとつながるとき』(日経BP社)、『ネット大国中国言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『卡子中国建国の残火』(朝日新聞出版)、『毛沢東日本軍と共謀した男』(新潮新書)、『「中国製造2025」の衝撃』(PHP研究所)、『米中貿易戦争の裏側』(毎日新聞出版)など多数。
田原 総一朗(たはら・そういちろう)

ジャーナリスト
1934(昭和9)年、滋賀県生まれ。1960年、早稲田大学を卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年、フリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、「大隈塾」塾頭を務めながら、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日) など、テレビ・ラジオの出演多数。
著書、共著多数あり、最新刊に『令和の日本革命 2030年の日本はこうなる』(講談社)がある。

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