(本記事は、遠藤 誉・田原 総一朗の著書『激突! 遠藤vs田原 日中と習近平国賓』実業之日本社の中から一部を抜粋・編集しています)
習近平の基本は反日
田原: 習近平の来日に関しては、すでに安倍首相や政府関係者が「桜の咲くころに来日する。国賓待遇である」と明らかにしています。遠藤さんは習近平が国賓として来日することに強力に反対していますが、今になって反対しても、国益にかないません。
遠藤: 私は早くから反対しています。ただ、私ごときが一人で反対しても、なかなか世論は動かなかった。しかし最近になって自民党議員の中にも反対の声を唱える人が出てきました。こうして田原さんと対談する機会にも恵まれましたので、これまでずっと主張してきた反対論を、まるで賛成論の震源地であるような田原さんにぶつけているわけです。
田原: 私は何度も言いましたように、習近平が国賓として来日することには賛成です。何が悪いと言いたい。その理由も述べてきました。そもそも、いま中国では対日感情がよくなっている。そのチャンスを逃すのは良くないでしょう。
遠藤: そこからして、そもそも大きな勘違いだと思います。
中国共産党にとって、思想統制や世論誘導こそは最大の武器なのです。中国共産党という党が誕生した1921年のとき、中国の政権を握っていたのは国民党でした。中華民国という国家でしたね。中国共産党は野党にさえなれなかった。国民党を率いる蒋介石は中国共産党を野党として認めることはしませんでした。したがって中国共産党にはお金がなかった。
だから毛沢東は「言葉」によって人心を引き寄せることに力を注いだのです。以来、「プロパガンダ」こそが権力を握る最も強烈な武器になりました。いま習近平は日本を必要とするので、その方向に世論誘導をしているのです。そのようなことは中国共産党にとっては朝飯前です。
私は何十年にもわたって、毎日CCTVを観察してきていますので、世論誘導の方向が分かります。
田原: 私はそうは思わないなぁ。
遠藤: そうですか。しかし例えば、自国のメディアを客観的で公平だと思う人が、日本ではわずか10%であるのに対して、中国では80%にも上るというデータがありますが、これは中国政府が望む方向性が世論に反映されやすいことを表しています。おまけに、中共中央の宣伝機関としてのCCTVは、全部で47チャンネルもあり、地方のテレビ局も含めると中国全体では1000以上のテレビ局があり、それが中共中央の命令一つで動きます。
最近では若者はテレビを観ないので、すべてがネット配信できるような仕組みにしてあり、若者はスマホで「雰囲気」を感知しています。
田原: そういう仕組みになっているんですか。
遠藤: はい、そうです。そもそも、習近平政権になってから、何が起きたかを申しましょう。
習近平が国家主席に就任したのは2013年3月ですが、2014年になると、立て続けに反日的な国家記念日を制定しています。いずれも全人代常務委員会が2014年2月27日に採択しました。
●9月3日「中国人民抗日戦争勝利記念日」
日中戦争において中国(中華民国)が勝利した記念日。日本は8月15日に降伏宣言をしているが、日本政府が中華民国に対して降伏文書に調印したのは1945年9月2日で、当時の蒋介石率いる国民党政権は翌日の9月3日に全国的に祝賀行事を挙行した。そのため中国では「9月3日」を抗日戦争勝利記念日としている。もっとも、この日に関しては1999年に江沢民が発布した「全国年節および記念日休日弁法」の中で「九三抗戦勝利記念日」と定めている(但し休日ではない)。それを改めて正式な「国家記念日」と定めた。
●12月13日「国家哀悼日」
中国で言う、いわゆる「南京大虐殺」の日。1937年12月13日に旧日本軍が南京を占領した日で、中国側では「約40日にわたる大虐殺が始まった日で、30万人以上の中国人が殺された」と主張している。この人数は江沢民の一声で決まった。
〝中華人民共和国〞は日本と戦っていない
田原: 日本が侵略戦争を行ったわけだし、戦勝記念日はどこの国にもあるものです。
遠藤: 前にも申しあげましたが(49ページ)、ではなぜ、毛沢東時代では「抗日戦争勝利記念日」も「南京大虐殺」に関する記念日もなかったのでしょうか?
田原: 改めて教えてください。
遠藤: 日中戦争時代、日本と戦った国家は中華民国であり、それを祝賀するということは、最大の政敵であった国民党の蒋介石を讃えることにつながるからです。ただ、ソ連のスターリンに対しては第二次世界大戦勝利記念日として祝賀の電報を送らなければならないので、蒋介石が決めた記念日を踏襲して、9月3日に祝電を送っています。「中華人民共和国」は1949年10月に誕生したのですから、日本と戦った国家は「中華人民共和国」ではないということを、毛沢東は正確に認識していました。
田原: ほう。そうなんですか?でも「南京大虐殺」には、哀悼の意を表しているでしょう?
遠藤: いいえ、一度もありません。なぜなら、この事件も蒋介石側がやられた話であり、毛沢東はこの事件を知って大喜び。日本軍は最大の政敵にダメージを与えてくれたのですから、日本軍に感謝するという構図です。祝杯を上げたとさえ言われています。それが真実です。
田原: そうですか。
遠藤: はい。毛沢東の近くにいて、意見が合わず逃げ延びた人が、のちに語っています。蒋介石は重慶に国都を移して、これを克服し結局は勝利した結果になるので、「南京」に関しても言及するのさえ許さなかった。これは年配の中国人なら誰でも知っていることです。毛沢東の生涯を、毎日記録した『毛沢東年譜』という、全部で9巻、約7000ページに及ぶ、中国共産党側が出した本があるのですが、そこにも「南京大虐殺」に関しては、1937年12月13日のところに「南京陥落」という四つの文字があるだけで、死ぬまでただの一度も、この事件に関して提起したことがない。それどころか、「南京大虐殺」を研究することも、それに言及することも許さなかった。そういう人は知らないうちに消えていたりしましたので、この研究が盛んになったのは1980年代に入ってからでした。
田原: そうだったのですね。
遠藤: 少なからぬ知識人、特に田原さんのような年代の方は、ソ連や中国などの社会主義国家は素晴らしいと思って、若いころに憧れを抱いて思想形成をしてきたという流れがあるでしょうから、にわかには信じられないかもしれませんね。
中国共産党が隠さねばならない真実
田原: しかし、今こんなに日本に友好的な習近平が、なぜそのような反日を強化するような行動を取ったのかが理解できませんが、では中国が反日になったのはいつからなんですか?
遠藤: 江沢民政権になってからです。彼の父親は日中戦争時代の日本の傀儡政権であった、南京にあった汪兆銘政府の官吏でした。だから江沢民は若いころ日本軍が管轄する南京中央大学に通っていました。そのため彼は少しだけ日本語が話せ、ピアノもダンスも覚えたわけです。日中戦争時代にそのようなことができたのは、父親が日本側か国民党側の幹部でなければ、あり得ない話です。日本の敗色が濃くなると、彼は慌てて中国共産党側に寝返り、自分の出自を隠そうとさまざまな工夫をするのですが、天安門事件で突然、鄧小平に中国共産党中央総書記に任命されましたので、自分が「売国奴」の家系であることを覆い隠すために、極端な「反日行動」をとり始めるのです。
田原: だから愛国主義教育とか、反日教育を強化したということですか。
遠藤: はい、そうです。そもそも中国共産党が極端な言論統制をするのは、日中戦争時代、毛沢東が日本軍と結託していたからで、中国共産党は、どんなことがあっても、その事実だけは覆い隠したいんです。
田原: 毛沢東が日本軍と結託していたと。
遠藤: 第一章でも触れましたが、私は『毛沢東 日本軍と共謀した男』でその事実を詳細に考察しました。毛沢東の行動は理に適っており、毛沢東にとっての最大の敵は国民党の蒋介石ですね。その蒋介石が率いる「中華民国」と日本が戦争をしているということは、日本が蒋介石をやっつけてくれることに相当します。敵の敵は最大の味方です。毛沢東は上海の岩井公館(47ページ)を最大限に利用して、国共合作を通して入手した蒋介石の極秘軍事情報を、事細かに日本側に渡しました。ときには蒋介石は中国共産党軍と日本軍の挟み撃ちに遭いますので、蒋介石は「毛沢東は日本軍と通じ合っている」と直感し、そのことを毛筆で直筆した日記に記しています。その日記はスタンフォード大学のフーバー研究所に行けば見ることができます。
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941(昭和16)年、中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した長春食糧封鎖「卡子(チャーズ)」を経験し、1953年に帰国。中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。
著書に『中国がシリコンバレーとつながるとき』(日経BP社)、『ネット大国中国言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『卡子中国建国の残火』(朝日新聞出版)、『毛沢東日本軍と共謀した男』(新潮新書)、『「中国製造2025」の衝撃』(PHP 研究所)、『米中貿易戦争の裏側』(毎日新聞出版)など多数。
ジャーナリスト
1934(昭和9)年、滋賀県生まれ。1960年、早稲田大学を卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年、フリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、「大隈塾」塾頭を務めながら、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日) など、テレビ・ラジオの出演多数。
著書、共著多数あり、最新刊に『令和の日本革命 2030年の日本はこうなる』(講談社)がある。
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