(本記事は、柴田励司氏の著書『上司の「当たり前」をやめなさい』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

評価
(画像=PIXTA)

上司に従順な部下を評価してしまう

私は日本の大企業を応援しています。日本の大企業が世界中から「エクセレント・カンパニー」と認知され、世界中から優れた人材が集まってくるようになったら素晴らしいと思っています。

かつてCEOを務めた会社で大企業からの出向を受け入れていたのも、大企業の人材の質的強化のためです。

だからこそ苦言を呈します。大企業は虎の威を借る社員を何とかすべきでしょう。

自分の実力と会社のネームバリューを混同して、外部に対して上から目線で接し、時には相手を卑下するようなことを言い、無理難題をふっかける。

もちろん、皆が皆、そうだと言うわけではありません。しかし、結構な割合で大企業の名刺を持ったこういう人に遭遇します。

実に不遜です。さらに問題なのは、意識して不遜な行動をとっているわけではないことです。自分がやっていることが悪いと思っていない。自覚がないのです。

彼らは、その不遜さを自分の上司に対しては絶対に出しません。忠実な部下として振る舞っているため、上にはバレていません。

しかし、周辺の人たちはわかっています。取引先や自分たちへの態度がよくないからです。

この状態を放置しておくと、若い人に悪影響を及ぼします。彼らが上司の不遜な仕草を標準形として真似するようになるでしょう。

不遜さは増殖します。有意な若者は呆れて会社を去っていきますから、企業にとっていいことは1つもないはずです。

さらに悪いことに、不遜な部課長が役職定年などで一線を退くと、彼らは社外に対して「虎の威」が使えなくなるので社内に不機嫌をまき散らします。しかも実務能力が低いので不稼働人材になります。

そうなると、この人たちを受け入れた組織のリーダーは大変です。まともに働かず、不機嫌で文句ばかり言う元部課長に対し、他のメンバーは「あの人を何とかしてくれ」と不満たらたらでしょう。

その間をとりもつのがリーダーの最大の仕事になり、業績を高めるどころではなくなります。

その立場にふさわしい人であるかどうかを、定期的に問う仕組みがあった方がいいでしょう。

最もわかりやすいやり方は「多面フィードバック」です。

社内外の人たちからどう見えているか、を各人に伝える機会を設けるのです。フィードバックはあくまでも自身の身の振り方へのヒントとしてもらい、昇給や昇進・昇格とは無関係にします。

これを継続していくと、最初は他人からの評価を腹立たしく受け取っていたとしても、次第に自分についてフィードバックしてくれることに感謝するようになります。

その気持ちが当人を謙虚にします。

自分の立ち振る舞いがどう映っているかを知る機会を設けましょう。それだけで8割方の人の不遜さを修正できるはずです。

〈評価のあり方を変える!〉
⇒上司にふさわしいかどうか定期的にチェックを!

部下の忖度に気づいていない

少し前に「忖度」という言葉がよく使われました。企業のトップは役員・社員から過度の忖度をされやすい存在なので注意が必要です。

忖度そのものは悪いことではありません。

忖度とは相手の考えを推し量ることです。それを丁寧にやってくれる部下は上にしてみるとありがたい存在です。

上司の期待を察知して動いてくれる部下には、いろいろな仕事を任せようと思います。

質問に対し的確かつタイムリーに回答してくれる部下もそうです。頼もしいと思います。

これらは部下が上司の目線に立ってあらかじめ課題を整理しているからこそできること。「良い忖度」の典型例です。

一方、上司の「意向」を錦の御旗にし、実質的に組織をコントロールしようとするのは「悪い忖度」です。

「上司のため」として、汚れ仕事を進んでやり、上にとって自分が特別な存在になることを意図するのも悪い忖度です。

これらは自分の立場の強化のためで、組織のためにはなりません。いわゆる茶坊主の忖度です。私の経験上、オーナー企業にはこうした茶坊主がいることが多いです。

くり返しになりますが、忖度そのものは悪いことではありません。問題は、それをガバナンスする意識や仕組みがないことです。

まずはトップ自身が澄んだ目と耳を持つことが基本です。茶坊主の存在に気づいていないのは自分だけということも少なくありません。

自分が思いつきで発言したことが決定事項になっているようであれば要注意です。

自分に対して耳障りのよいことばかりを言う側近にはとくに注意しましょう。

側近が自分の名前を使って、社内外に威圧的な態度をとっていたら茶坊主確定。側近から外した方がいいです。

自分の態度も反省した方がいいでしょう。

自分に意見をする人間に対し威圧的な表情をしたり、押さえつけるような言葉を発していませんか。そういう態度の経営者の近くには茶坊主が生まれやすいです。

「会社の常識は社会の非常識」という言葉があるように、忖度した内容が世の中から見ると説明不能なこともあります。ここで社外役員や顧問の客観的な目があるといいです。

大きな意思決定する時には、これらの外部の人間に意見を求め、真摯に耳を傾けてみるとよいでしょう。

過度の忖度は、社員が上を見て仕事をする風土を生みます。これは組織のスピードを減速させ、世の中の動きからかい離する原因となります。

長くトップの座にいると誰よりも会社を巡る環境変化に敏感になり、危機感を強く覚えるようになります。

それが自分以外の人間を信用しない言動を生み、結果として社員が経営者の顔色を見て動く過度の忖度風土を生んでしまうのです。

トップを長くやるのはよくありません。どこかのタイミングでその座を退いた方がいいでしょう。私の持論では7年が目安です。

〈評価のあり方を変える!〉
⇒「悪い忖度」を受け入れてはいけない
上司の「当たり前」をやめなさい
柴田励司
1962年東京都生まれ。上智大学文学部英文学科卒業後、京王プラザホテル入社。同社在籍中に、在オランダ大使館出向。その後京王プラザホテルに戻り、同社の人事改革に取り組む。1995年、組織・人材コンサルティングを専門とするマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング(現マーサージャパン)に入社。2000年、38歳で日本法人代表取締役社長に就任。2007年、社長職を辞任し、キャドセンター代表取締役社長、デジタルスケープ(現イマジカデジタルスケープ)取締役会長、デジタルハリウッド代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任。2010年7月より「働く時間」「学ぶ時間」をかけがえのないものにしたいという思いのもと、経営コンサルティング事業と人材育成事業を柱とする株式会社Indigo Blueを本格稼働。2015年11月より代表取締役会長に就任。著書に『優秀なプレーヤーは、なぜ優秀なマネージャーなれないのか?』『組織を伸ばす人、潰す人』など多数。

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