(本記事は、柴田励司氏の著書『上司の「当たり前」をやめなさい』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

ジェスチャー
(画像=PIXTA)

説得しようと試みる

自分が所属するチームや会社を悪くしたいと思う人はいないはずです。ところが、チームメンバーや会社の悪口・陰口を言う人は少なくありません。

特定の人に対して、わざと情報を伝えない、または無視をする人もいます。これらの言動が自分のチームの状態を悪くすることはわかっているはずなのに、こうした行動をとってしまう。人間の集団とはそういうものなのかもしれません。

しかし、当然この状態は組織としては不健全です。短期的にはともかく、長い目で見てパフォーマンスが上がるわけがありません。

Aさんの悪口を言うBさん、Bさんの悪口を言うAさん。上司は2人の話を聞き、双方から溜まっているガスを抜き、Aさん、Bさんが相手の批判をしても何もいいことはないと悟ってもらうようにすることが仕事です。

仮に、今回はAさんの方が悪いと思ったとしても、単純にBさんの肩を持つ発言をしてはいけません。どちらかが100%悪いということはないからです。

周りに悪い影響を及ぼしている時点で両者ともに悪いのです。

Aさんに対してBさんがいかに頑張っているか、またはBさんに対してAさんがいかに優れているか、この手のことを説明しても状況は改善しません。

上司がやりがちなこのアプローチが効かないのは、AさんとBさん両名の感情を棚上げしているからです。

感情が乱れている人に、合理的な説明をしても通じません。まずは相手の感情を受け止めることが大事であり、それ以前にチームメンバー1人ひとりのことに精通することが大事です。

管理職になったからには、個人的な仕事の能力よりも、この「人間関係への対処」を厭わないことが求められていると再認識しましょう。

メンバーのガス抜きだけではなく、ガスが溜まらないような環境をつくること。

また、ガスを溜めやすい人のキャパシティが広がるような気づきを与えることに、力を注ぐのです。

組織には、ガスを溜めやすい人がいるものです。いわゆる不満分子です。こういう人のキャパシティを広げてあげるのも上司の仕事です。

しかし、現実的には広げるまで面倒を見るのはなかなか難しいです。

本人が自分のキャパシティを広げられるような気づきの機会を与えるまでが、上司の仕事と心得ましょう。

人を預かる上司の腕の見せ所です。

上司ができるのは自分を捨てて、メンバーのために働く姿を見せること。私はこれしかないと思っています。

しかしながら、いくら上司が汗を流しても変わらない人はいます。自分のことだけを考えて不平不満をまき散らす、傍若無人な態度をする……。こういう人は残念ながら「アウト」です。

他のメンバーの精神衛生を守るためにも、チームから外れてもらうしかありません。これも管理職たる上司の仕事です。

上司とは、つくづく「人間力」が問われる仕事なのです。

〈トラブル対処のあり方を変える!〉
⇒まずは部下の気持ちを受け止める

ネガティブな意見を拒絶してしまう

フィードバックはありがたいものです。それが、自分に対するネガティブなフィードバックであればなおさら貴重です。

ところが、なかにはフィードバックを受け入れられない人がいます。反発してしまうのです。

フィードバックとは「鏡」です。

自分には見えない自分のことを、「鏡」に映して指摘してくれるわけですから、反発するなんて本当はもったいないはずです。

そもそも上司が部下に、または同僚にフィードバックをするのは、その人によりよくなってもらいたいからです。そうでなければ、言いにくいことをあえて言うわけがありません。

仕事の仲間を傷つけたり、否定しても何も生まれません。よかれと思ってフィードバックしているわけです。

ところが、「こう改善したらどうだろうか」という指摘に対し、余計なお世話だと言わんばかりに反抗したり、明らかに不服という目をしながら「すみませんでした」と言う人がいます。

こういう人たちは自分を否定されることが耐えられないのでしょう。だからついこんな言い訳をします。

「自分は一生懸命やっている」「うまくいっていないのは何々のせいです」と。

以前、某企業の新卒採用の一環で体験型ケーススタディをやりました。

その中に気になる学生がいました。

とても頭の回転が早く、しかも尖っていました。議論があちらこちらに飛んでも全部吸収。見ていて気持ちの良い優秀さでした。

ただし、相手からの攻めに対して、正面から対決する姿勢をとるのが欠点でした。

とくに「君は〇〇がダメだね」といったフィードバックに対する反発オーラが半端ではなかったのです。

彼の態度はすべてを跳ね返す勢いで、ついにはフィードバックをした人が腹を立てて席を立つ始末。

終了後、私はその彼に対し、細部にわたってフィードバックしました。

テンションが上がったら、鼻から呼吸して自分を落ち着かせること、喉を開けること(耳障りな声を出さない)……。

この時の彼は、体験型ケーススタディ中に見せた反発姿勢はまったくありませんでした。個室でマンツーマンの環境下で伝えたことで、彼は冷静さを取り戻したのです。

ただし、フィードバックする側に問題があることもあります。

そもそも周りからの信頼がない人─「こいつには言われたくないよ」と思う相手から、ああだこうだと言われても聞く耳は持ちにくいでしょう。

とはいえ、仮にそうであったとしても、相手のフィードバックを素直に受け止める度量をもちたいものですが。

〈トラブル対処のあり方を変える!〉
⇒部下が意見を受け入れやすい環境をつくってあげる
上司の「当たり前」をやめなさい
柴田励司
1962年東京都生まれ。上智大学文学部英文学科卒業後、京王プラザホテル入社。同社在籍中に、在オランダ大使館出向。その後京王プラザホテルに戻り、同社の人事改革に取り組む。1995年、組織・人材コンサルティングを専門とするマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング(現マーサージャパン)に入社。2000年、38歳で日本法人代表取締役社長に就任。2007年、社長職を辞任し、キャドセンター代表取締役社長、デジタルスケープ(現イマジカデジタルスケープ)取締役会長、デジタルハリウッド代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任。2010年7月より「働く時間」「学ぶ時間」をかけがえのないものにしたいという思いのもと、経営コンサルティング事業と人材育成事業を柱とする株式会社Indigo Blueを本格稼働。2015年11月より代表取締役会長に就任。著書に『優秀なプレーヤーは、なぜ優秀なマネージャーなれないのか?』『組織を伸ばす人、潰す人』など多数。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)