(本記事は、柴田励司氏の著書「上司の「当たり前」をやめなさい」クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

対応
(画像=PIXTA)

自分を売り込もうとしてしまう

先日、私よりも一回り年長で、経験豊富な方々と会食をしました。おいしい食事と身になる会話。これぞ会食の醍醐味です。あのように年を重ねたいと思いました。

彼らは成功も失敗もスケールが違います。会食で出てきた言葉のうち印象的だったものを紹介します。

  • 自分で汗をかきなさい
  • 手柄は誰かにあげなさい
  • そして、そのことを忘れなさい

この手の格言は巷にあふれていますが、人生経験豊富な方から聞くと、感じる重みが違います。

まず、自分で汗をかくについて。組織の中でポジションが上がるにつれて、自分で汗をかく機会が減っていきます。

自分でやるのではなく、やらせる方に役割が変わるからです。

これは組織運営上、人材育成上、極めて大事なことです。いつまでも現場で上司が仕事をしていると部下が育ちません

私もマネジャーになりたての人には、「組織力ではなく個人の力量が大事」と伝えています。

実際、自分でやるのは楽しいし、そちらの方が生産性が上がるように思えるでしょう。

しかし、長い目で見るとこれではダメです。本来のマネジャーの仕事は、チームメンバーが動きたくなるような環境をつくることだと私は思います。

とはいえ、だからと言って自分で汗をかかなくなると、仕事に対する反射神経や成長する力が衰えていきます。そしてある時、唖然とします。「自分は何もできないじゃないか」、と。

どんな偉くなっても、必死にやらないといけない環境下に自分を置き続けなければならないと思います。

また、「手柄を誰かにあげる」については、頭でわかっていてもなかなかできない人が多いのではないでしょうか。

人は周囲からよく思われたいと思っているので、つい自分を売り込もうとしてしまいます。

普段は頑張って周囲を立てていますが、ここぞという時に自分を出してしまうのです。私もまだそういうところがあります。

そして、「手柄を誰かにあげたことを忘れなさい」が最も難しいでしょう。

誰かが自分にしてくれた恩義は忘れてはいけませんが、自分が相手にしたことは忘れる。これはなかなかできることではありません。

相手に恩着せがましく言うことはしなくても、いつまでも心に秘めている人も多いのではないでしょうか。

与えた恩はすぐ忘れる─。この境地に達することができれば、上司としてひと皮むけることは間違いないでしょう。

〈部下マネジメントのあり方を変える!〉
⇒与えた恩のことはすぐ忘れなさい

部下へのダメ出しが主な仕事になっている

お代官上司─。

大企業に勤める優秀なアラフォーの人によく見られる傾向です。

もちろん褒めているわけではありません。このままではダメなので改めてください、という話です。彼らには共通する特徴があります。

  • 分析が得意
  • 人の話を傾聴できる
  • 資料にまとめるのがうまい

ふつうに考えれば優秀な人材と言えるでしょう。しかし、一方でこんな共通点があります。

  • 自分はこうしたい、と強く主張することはない
  • 反対意見があると引き下がる

どうでしょうか。きっとこういう人は、組織の中で力を持つ人に可愛がられ、使いやすい人材として重宝されてきたはずです。

言われたことはきちんとこなす一方、面倒なことは言わないのですから、上司にとってこれ以上使いやすい人材はいないでしょう。

彼らは、力を持つ人からの評価が高いので、人より早く昇進・昇格します。

しかし、上位職になってもやっていることは変わらず、引き続き優秀なスタッフとして上司に仕えます。

問題は、この状態で長く仕事をしていると、どんどん自分の意見がなくなっていくことです。ある課題に対して、解決の選択肢をたくさん出すことはできますが、自分はどうしたいか、という部分は考えもしなくなっていきます。

結果、彼らが力を持つポジションに就くと、“お代官上司”になります。

お代官上司とは、自分は座したまま動かず、すべて部下に意見や改善案を提出させ、それに対して、ダメ出しをする人たちのことです。

彼らには「自分はどうしたいか」という考えはなく、「この状況ではどうするのが最善か」という判断の経験もないので、部下の意見のダメな部分を見つけ、指摘することしかできないのです。

部下にどんどん意見を求めるのは一見、悪くないように見えますが、会社全体から考えると害の方が大きい。なぜなら、上のポジションにいるからこそ持てる目線からの課題発見や、その立場やネットワークを活かした提案が出てこないからです。

結果として会社全体の“目線”も下がってしまいます

会社は、優秀な人材には早いうちからリーダーシップが必要な仕事を与えるべきでしょう。でないと、次世代のリーダーが育ちませんし、会社も衰退していきます。

一方、当事者の方も上司に言われたことを完璧にこなすことだけに注力するのではなく、早いうちから自分ならこうすると考え、小さい仕事なら任せてもらえるよう上司に掛け合ってみることです。

くれぐれもお代官上司にならないよう注意してください。

〈部下マネジメントのあり方を変える!〉
⇒自分ならどうするかを考えて仕事をする
上司の「当たり前」をやめなさい
柴田励司
1962年東京都生まれ。上智大学文学部英文学科卒業後、京王プラザホテル入社。同社在籍中に、在オランダ大使館出向。その後京王プラザホテルに戻り、同社の人事改革に取り組む。1995年、組織・人材コンサルティングを専門とするマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング(現マーサージャパン)に入社。2000年、38歳で日本法人代表取締役社長に就任。2007年、社長職を辞任し、キャドセンター代表取締役社長、デジタルスケープ(現イマジカデジタルスケープ)取締役会長、デジタルハリウッド代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任。2010年7月より「働く時間」「学ぶ時間」をかけがえのないものにしたいという思いのもと、経営コンサルティング事業と人材育成事業を柱とする株式会社Indigo Blueを本格稼働。2015年11月より代表取締役会長に就任。著書に『優秀なプレーヤーは、なぜ優秀なマネージャーなれないのか?』『組織を伸ばす人、潰す人』など多数。

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