日本の大企業の多くが、イノベーションのジレンマから抜け出せず、ドラスティックな成長戦略を描けずにいる昨今。

これとは対照的に、アメリカや中国では、AIやIoT、ブロックチェーンをはじめ新しい技術や分野のスタートアップが興隆し、日々しのぎを削っている。しかし、日本にも世界で活躍できる「芽」は必ずあるはず。hey代表の佐藤裕介氏は、2012年ごろから「テクノロジー」領域に狙いを定めてエンジェル投資を続けてきた。

「エンジェル投資家」の実態に迫るエンジェル投資家インタビュー。前編ではエンジェル投資のリアルや佐藤氏のエンジェル投資の哲学を、後編では国内スタートアップ市場の課題やアフターコロナの世界について伺った。(聞き手・師田賢人)

佐藤裕介(さとう・ゆうすけ)
2008年にGoogle入社後、広告製品開発を担当。2010年10月、フリークアウトの創業に取締役として参画。2014年6月、東証マザーズに上場。2017年1月、フリークアウト・ホルディングス共同代表に就任した後、2018年2月にはヘイの代表取締役社長になる。エンジェル投資家としても活動し、累計100社以上に投資実績あり。

※編注:本インタビューは2020年3月末、オンラインにて行われました

100社にエンジェル投資。1社のIPOで大きなリターン

エンジェル投資家に聞く#4
(画像=hey提供、ZUU online編集部)

――エンジェル投資を始めたのはいつごろですか?

2012年に、シェアオフィスを運営していた友達に初めて投資をしました。理由は特になく、彼が資金を必要としていて、僕がその資金を拠出できる資金を持っていたからでした。当時は、エンジェル投資家という言葉自体も一般化されていませんでしたが、DeNA共同創業者の川田尚吾さんや連続起業家の家入一真さんのような人たちが、そうした活動をしていることは知っていました。

――今までに何社くらいエンジェル投資をしてきましたか?

約100社です。そのうちイグジットした案件がIPOで4件、M&Aは10件以上あると思います。ただ、僕が一番投資をしていた時期は2016年から2018年ですので、一般的なスタートアップのイグジットに5〜7年かかることを考えると、およそ40%以上の案件は元本を上回る見込みです。

――すごい打率の高さですね。

ただし僕の場合、特定の投資先企業の上場 1 回分で、全投資額に対して数倍のリターンを回収しているので、打率はさほど気にしていません。

――エンジェル投資をするにはおおよそいくらの資金が必要ですか?

1件当たり約300万〜1000万円ではないでしょうか。ただ、エンジェル投資はリスクが高い投資ですので、一般的には総資産のうち約1割に投資金額は抑えるべきです。50万、100万円くらいで投資をしている人も一定数いると思いますが、イケてるスタートアップは基本的に、小口投資は受け取りません。

――イケてるスタートアップが小口投資を受け取らない理由は何ですか?

創業初期のスタートアップにとって、株主数が多くなると、負担も大きくなるからです。例えば、株主数がある一定のラインを超えると、有価証券報告書を提出する義務が課せられます。さらに、小口投資家も大口投資家もコミュニケーションにかかるコストはさほど変わりありません。

注目分野は「オペレーションのデジタル化」

――投資先はどのように決めていますか?

創業初期で、テクノロジーを競争力の源泉にするスタートアップに投資することが多いです。僕は、デジタル領域を強みにしていますが、最近は「デジタルトラフィックをどうやって獲得するか?」よりも「オペレーションをどうやってデジタル化するか?」というビジネスが主流になってきています。

つまり、バリューチェーンの右端、「オンライン上で人を集めること」に位置していたデジタルの役割が、バリューチェーンの中心部に軸足を移してきています。このあたりの文脈は、投資を決めるときの前提条件だと考えています。

――具体的に注目している企業はありますか?

皆さんがご存知の企業を挙げるなら、東証マザーズに上場しているクラウド会計ソフトの「フリー(freee)」。あるいは、先ほどのオペレーションDXという文脈でいうなら未上場ですが「Smart HR」が、分かりやすくトレンドを反映している企業だと思います。

――今までのご経験の中で、失敗談やそこから学んだ教訓はありますか?

当然、大きなリターンを狙いにいけば、リスクも大きくなるので、その前提の上で明らかに投資に失敗したということは、それほど無いと思います。ただ、コミュニケーションがうまくいかなかったとか、新しい知見を得ることができなかったとか、そういった意味の失敗はありますね。

教訓としては、強いアルファが見られる企業に関しては、追いかけ続けたほうがいいと考えるようになりました。要するに、30社がイグジットしたとしてもある1社のリターンが残り29社のリターンを上回るケースも多いということですね。

これは、ベンチャーキャピタルの世界でもよく言われていることですし、真理だと思います。ですので、追加投資をすることが増えましたね。例えば、特定の会社に1000万円を投資したあともフォロー投資を続け、イグジットまでの累計を見たら1億円になるとかです。

お金に価値を与えるようなエンジェル投資を

――テクノロジー領域に投資することが多いようですが、その理由は何ですか?

僕の資金は、自社株売却のリターンに由来します。そのお金はどこからきたのか、というと企業がファンドに投じたお金だったり年金運用だったり、個人投資家の資産だったりします。

そう考えると、そのお金を再び世の中に巡らせるときに、そのような方々が評価することが難しい領域、また取りづらいリスクに対してお金の矛先を向けることが、よいのではないかと考えました。

これが「テクノロジー」領域に属する創業初期の企業に投資することが多い理由の一つですね。

――ご自身を通すことで、新しい価値が生まれていく、ということですね。

そのとおりです。僕がこれまでに培ってきた知識や経験、専門性でフィルタして、そこにお金が流れる。そのような社会的役割を担いながら、エンジェル投資をしていきたいですね。

友人と仕事をする「マイメン文化」を大切にする2つの理由

――友人と仕事をする「マイメン文化」を大切にしているとお聞きしましたが、そう思うに至った背景を教えていただけますか?

「マイメン文化」を大事にする理由は2つあります。

僕は家族が比較的お堅いとされる職業に就いていて、彼らの極めて真面目な価値観の中で育てられました。

しかし中学生のとき「裏原宿カルチャー」のムーブメントで成功していたアパレルブランドの人が「もともとは同級生同士で古着屋を始めたんだよね」という話をしていて、それを聞いた僕は幼ながらに衝撃を受けました。

「友達同士で事業を始めて、さらに結果を出せる」ことにカルチャー・ショックを受けた僕は、こちら側の世界でビジネスをしたいと考えるようになりました。

――なるほど……。2つ目の理由は何ですか?

あとは、僕がかかわってイグジットする投資先の人たちのほとんどは、元々友達だということです。つまり、自分だから投資させてもらえたという案件から超過リターンは生まれるということに気づきました。

「PKSHA Technology」の上野山勝也も昔からの友達ですし、「IGNIS」の代表を務めている銭錕とも元々、友達だからかかわったのがきっかけです。

もちろん「100パーセント友達に投資するべき」とは言いませんが、「自分だからこそ、入り込める」というのは強みになると思います。このような成功体験もあって「マイメン文化」に対する想いはより強くなってきています。

(後編につづく)