企業が海外へ進出する理由としては、国内市場の飽和による新たなビジネスエリアの拡大や、海外での新規事業の立ち上げ、国内での労働力不足などが考えられる。

それぞれの海外進出の目的に合わせて、企業にはどのような選択肢があるのだろうか? 海外進出を成功させるためには、計画段階でリスクを把握し、さまざまな選択肢を比較検討することが重要である。

この記事では、海外進出の際の現地法人と支店の違いに加え、各々のメリット・デメリットについて解説する。

海外進出の3つの形態

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(画像=Sergey Nivens/Shutterstock.com)

企業が海外進出する際に取り得る主な形態は、現地法人、支店、駐在員事務所の3つである。

駐在員事務所とは、日本の企業に所属する社員を海外へ派遣し、海外進出の前段階として現地調査や現地分析を行うために設けられる事務所のことだ。駐在員事務所を置くことによって、慣れない海外で事業を行うための重要なパートナーとなる、会計事務所や法律事務所ともコンタクトを取ることができる。

駐在員事務所の場合、企業としての利益は海外で発生しないため、現地での納税義務も発生せず、海外進出の足掛かりとしてはリスクが最小限に抑えられる。しかし、駐在員事務所はあくまでも情報収集が目的であり、現地での営業行為は禁止されている。

よって、駐在員事務所は海外進出のための準備を進めるためだけに置くのが現実的であり、利益を生み出すことを目的とする場合には、現地法人か支店を選択することになる。

支店と現地法人の違いとは?

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(画像=Monster Ztudio/Shutterstock.com)

では、現地法人と支店の違いは何だろうか? まずは支店の特徴について解説し、その後現地法人との相違点を見ていこう。

支店とは?

海外に支店を設けることは、日本国内で新たに支店を設ける時と同じと考えればいいだろう。支店は、海外に置かれたとしても本社と同一の事業を行い、投資やそれによって生じるリスクも本社が責任を負うことになる。

支店は本社と同一経営のため、現地で定款や社内規定を新たに設ける必要はない。本社で用いているものをそのまま用いることができる。

また、日本国内の本社から原材料などを取り寄せた場合も、社内取引として処理されることになり、経費として本社で申告することができる。支店は駐在員事務所とは異なり現地での営業活動ができるが、利益に関しては経費同様本社に属するため、本社の所得として日本国内で申告することになる。

その利益は海外で発生したものなので、支店の場合は現地での所得の申告も併せて必要となる。このように二重課税された所得については、日本国内の外国税額控除措置によって一部控除の対象とすることができる。

このように、支店は駐在員事務所よりも現地での自由度が高く、営業活動を行うことができる。本社の一部として機能するため、保護される面と足かせとなる面が混在することになる。

現地法人とは?

次に、現地法人について見ていこう。

現地法人は、あくまでも本社から独立した別の会社である。つまり、本社とは独立して投資を行い、それによって生じる利益を自らの所得として申告する必要がある。会社としてのすべての機能を持つ、本社のミニチュア版を海外に設けると考えるとわかりやすいだろう。

現地法人は海外に置かれ、利益も海外で発生するため、日本での所得税の申告は必要ない。また、現地法人で負債が生じたとしても別の会社なので、それを本社が負担する必要もない。

新しい会社設立のために、現地で定款、税務、労務、登記などの準備や手続きを行う必要が生じる点も、支店とは異なる。

では、支店と現地法人にはそれぞれどのようなメリット・デメリットがあるのだろうか?

支店のメリット

支店を設けることの最大のメリットは、設立までの手続きを比較的簡単に進められ、海外拠点立ち上げの負担を減らせることだ。本社と同一の定款や社内規定を流用できるため、支店設立の際はそれらを現地の言語に翻訳するだけで済む。

また支店は本社と同一経営なので、海外支店で負債を抱えてしまった場合は本社で発生した利益で損益を相殺することができる。これは、初めての海外進出に伴って膨らみがちな負債を抱えなくても済む点でメリットがある。同時に、本社の所得で海外支店の負債を補えば、本社の経費として処理することができ、本社の課税対象額を圧縮できるというメリットがある。

このように、本社で生み出された利益を単に課税対象とするのではなく、海外市場を開発するための投資として用いることができ、同時に課税対象額を減らすことができるのは企業にとって大きなメリットと言えるだろう。

また、本社と海外支店との資金のやりとりについても同一の企業間で行っている資金調達として処理できるため、海外においても国内支店と同じような簡便な会計処理で済むというメリットもある。

支店のデメリット

海外進出における支店のデメリットは、支店の活動によって得た利益に海外よりも高い日本の税率が適用されてしまうことである。

海外支店で発生した利益については現地法が適用され、税金の申告も現地で行わなくてはならない。同時に支店は日本国内の本社に属するため、日本でも申告しなければならないのだ。

このように海外支店で発生した利益に対しては二重課税となるわけだが、救済処置として日本では外国税額控除制度が設けられている。

これは、海外で発生し、すでに外国で課税された所得については日本国内では控除対象とするというものだが、支店は日本国内の本社と同一経営なので、支店で得たすべての所得が控除対象となるわけではない。ほとんどの場合、結局は日本の税率が適用されることになるのだ。

日本の法人税率が諸外国と比較して高いことを考えると、海外の低い税率が適用されないことは大きなデメリットと言える。

現地法人のメリット

現地法人では、日本国内の本社とは切り離して事業を行うため、発生した利益に関して日本での申告は原則必要ない。そのため、海外の低い法人税率が適用されるというメリットがある。

香港で16.5%、シンガポールでも17%と、アジア諸国などでは法人税率が日本に比べて低く設定されており、それらの地域に現地法人を設立すれば特に大きなメリットが得られる。

また、現地法人は現地で法人登記をすることで現地法が適用されるため、支店に比べて事業に制限を受けることが少なく、認可や不動産取得などもスムーズに進むことが多い。

さらに、現地法下での賃金体系を採用できるため、人件費を低く抑えられるというメリットもある。支店には、赤字が出ても本社の利益と相殺できるというメリットがあったが、それは現地従業員の採算意識の低下を招くおそれがある。

現地法人では利益がそのまま現地法人の所得になるため、現地従業員の採算意識やモチベーションの向上が期待できる。

現地法人のデメリット

現地法人は一企業としての自由度が高い代わりに、支店と比べると登記などの事務手続きが煩雑になり、ある程度の初期投資も見込まなくてはならないというデメリットがある。また、現地での法的手続きを進めるための重要なパートナーとなる信頼できる法律事務所や会計事務所を選ぶことも現地法人設立の重要なプロセスだが、非常に手間と時間がかかる作業でもある。

タイや中国など一部の国では、外資の出資比率に制限が設けられていることがある。外資は50%未満までしか株式を保有することが許されておらず、50%以上保有する場合は現地資本である必要があるといった具合だ。

この場合、もし信頼できるパートナーと事業を始めることができなければ、新たに設立した現地法人の経営権を失ってしまうというリスクがあることも忘れてはならない。

また、本社とは会計処理も切り離されているため、日本の本社と現地法人間の資金調達が難しくなる。現地法人を設立する場合は、本社との資金の移動についても、あらかじめ出資や貸付、借入などそれぞれの項目について会計処理方法を検討しておく必要がある。

このように、現地法人設立のためには現地法の下で事務処理や会計処理を行う必要があるため、駐在員事務所を設けて現地調査から始めるなど、時間と予算に余裕を持たせた計画が欠かせない。

支店と現地法人-選択のポイントとは?

ここまで、海外進出のための主な手段となる支店と現地法人の特徴を見てきた。支店と現地法人にはそれぞれメリット・デメリットがあるが、どちらを選択すべきなのだろうか?

海外進出を検討する際は、その進出の目的を常に念頭に置いておく必要がある。海外進出の理由は、大きく2つに分けられる。これまで本社で行ってきた事業を継続して海外へ販路を拡大する「市場規模拡大」と、新たな事業を海外で始めるための「新規事業立ち上げ」である。

本社事業を継続するための「市場規模拡大」を目的とするならば、本社の支店としてリスクを抑えながら海外展開し、そのノウハウを海外で生かすという選択肢が有効だろう。

「新規事業立ち上げ」を目的として海外に進出するのであれば、本社とは独立した現地法人を設立し、新たに定款や社内規定を設定することも検討したい。現地法人設立の際は、いずれにしてもそれらを本社とは別に設けなければならないからだ。また新規事業立ち上げの場合は、海外の低い法人税率が適用されることも大きなメリットと言える。

どちらを選択するにしても、海外進出の目的を意識し、駐在員を派遣して現地調査・情報収集に時間と予算をかけるべきだろう。リスクを伴う海外進出は、くれぐれも慎重に行うことをおすすめする。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER 編集部