シンカー:財政収支は、成長通貨供給、景気循環的財政収支、そして構造的財政収支に分解することができることになる。国債市場の需給の動きにとって最も重要なのは構造的財政収支である。なぜなら、成長通貨供給には日銀の買いオペが、景気循環要因には企業の貯蓄が、国債をファイナンスする力となり、国債市場の需給を大きく傾ける要因とはならないからだ。構造的財政収支が徐々に国債市場の需給に影響を与えることを織り込むためにその2年移動平均と、グローバルなイールドカーブの動きを織り込むために米国の国債10-30年金利スプレッドで、日本の国債10-20年金利スプレッドを推計すると良好な結果が得られることが分かった。フラットすぎるイールドカーブで金融機関の収益構造に下押しを掛けているのは、日銀の金融政策よりも、政府の緊縮財政の影響の方が大きいようだ。構造的財政収支は、2014年以降の消費税率や社会保険料引き上げなどの緊縮財政で、2015年から6年連続で黒字となり、その幅は拡大してしまっている。政府・日銀の共同目標としての2%の物価上昇を含めデフレ完全脱却を目指している過程で、これほどの緊縮財政を行うことは理に適っておらず、日銀と金融機関に過度の負担をかけてしまったようだ。今後は、新型コロナウィルス問題などによる経済対策などで財政政策がしばらくは緩和的となり、構造的財政収支が赤字に転じていくとみられる。4月の経済対策は、国民一律給付金の実施などにより、新たな財政措置の規模が+5.5%程度(GDP比)から+7.5%程度まで拡大した。その財源として、前倒債のバッファーは財投などに貸し付けられる前の待機資金分しかなく限界があるため(43兆円程度の残高に対して3兆円程度だけ取り崩された)、カレンダーベースの国債市中発行額は128.8兆円から152.8兆円へ増額された。日銀の現行の金融緩和政策が継続しても、国債10-20年金利スプレッドは拡大していく可能性がある。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

税収などを通じた財政の景気自動安定化機能により、企業活動と景気の強さを表す代理変数である企業貯蓄率(マイナスが強い)と財政収支は逆相関の関係にあることが確認できる(資金循環統計ベース、金融危機後の1999年からのデータ)。

財政収支(GDP比%)=-0.82-0.83企業貯蓄率(GDP比%)+残差、R2=0.60

企業のデレバレッジが完全に止まり、総需要を破壊する力がなくなり、デフレ完全脱却となる企業貯蓄率は0%であると考えられる。

企業貯蓄率のプラスの幅に対して、その総需要を破壊する力を財政支出でオフセットするため、最低限として同程度は財政収支は赤字でなければならないと考えられる。

企業貯蓄率が0%の時、景気循環要因の財政収支は0%であるとする。

そのように仮定すると、景気循環要因の財政収支(GDP比%)は企業貯蓄率に-0.83を掛けたものとなる。

そして、日銀が経済活動の拡大にともなう成長通貨を一定量供給する必要があるとする。

かつて日銀は国債買い切りオペをそのような名目で行っていた。

その分の国債発行、すなわち財政赤字が常時必要であり、推計の定数の分である-0.82%とする。

この二つ、景気循環要因と成長通貨供給で説明できない残差が、構造的財政収支ということになる。

構造的財政収支には、消費税を含む社会保障関連など、景気要因以外の政策が含まれると考えられる。

財政収支は、成長通貨供給、景気循環的財政収支、そして構造的財政収支に分解することができることになる。

財政収支=成長通貨供給+景気循環的財政収支+構造的財政収支

国債市場の需給の動きにとって最も重要なのは構造的財政収支である。

なぜなら、成長通貨供給には日銀の買いオペが、景気循環要因には企業の貯蓄が、国債をファイナンスする力となり、国債市場の需給を大きく傾ける要因とはならないからだ。

構造的財政収支が、赤字であれば国債の追加的な供給の増加で金利上昇要因、そして黒字であれば供給の減少で金利低下要因となる。

国債10年金利までは日銀の金融政策の影響を強く受けている。

一方、構造的財政収支が国債市場の需給を大きく傾ける要因となるのであれば、国債10-20年金利スプレッドに影響がみられるはずである。

構造的財政収支が徐々に国債市場の需給に影響を与えることを織り込むためにその2年移動平均と、グローバルなイールドカーブの動きを織り込むために米国の国債10-30年金利スプレッドで、日本の国債10-20年金利スプレッドを推計すると良好な結果が得られることが分かった(2000年からのデータ)。

日本国債10-20年金利スプレッド(%)=0.49-0.059構造的財政収支(2年移動平均、GDP比%)+0.068米国国債10-30年金利スプレッド、R2=0.78

構造的財政収支が黒字になればフラットニング、赤字になればスティープニングとなる。

フラットすぎるイールドカーブで金融機関の収益構造に下押しを掛けているのは、日銀の金融政策よりも、政府の緊縮財政の影響の方が大きいようだ。

構造的財政収支は、2014年以降の消費税率や社会保険料引き上げなどの緊縮財政で、2015年から6年連続で黒字となり、2019年には+1.1%(GDP比%)まで拡大してしまっている。

政府・日銀の共同目標としての2%の物価上昇を含めデフレ完全脱却を目指している過程で、これほどの緊縮財政を行うことは理に適っておらず、日銀と金融機関に過度の負担をかけてしまったようだ。

黒田日銀総裁は1月の決定会合後の記者会見で「超長期の金利はもう少し上がってもおかしくはないと思っています」と言及しているが、超長期金利のファンダメンタルズであるべきところからの乖離は、緊縮財政が原因だろう。

今後は、新型コロナウィルス問題などによる経済対策などで財政政策がしばらくは緩和的となり、構造的財政収支が赤字に転じていくとみられる。

米国でも財政拡大が顕著になってきている。

日本では、4月の経済対策は、国民一律給付金の実施などにより、新たな財政措置の規模が+5.5%程度(GDP比)から+7.5%程度まで拡大した。

その財源として、前倒債のバッファーは財投などに貸し付けられる前の待機資金分しかなく限界があるため(43兆円程度の残高に対して3兆円程度だけ取り崩された)、カレンダーベースの国債市中発行額は128.8兆円から152.8兆円へ増額された。

日銀の現行の金融緩和政策が継続しても、国債10-20年金利スプレッドは拡大(スティープ化)していく可能性がある。

図)企業貯蓄率と財政収支のカウンターシクリカル(年データ、1999年から)

企業貯蓄率と財政収支のカウンターシクリカル(年データ、1999年から)
(画像=日銀、内閣府、SG)

図)財政収支の分解

財政収支の分解
(画像=日銀、内閣府、SG)

図)日本の国債10-20年金利スプレッドと推計値

日本の国債10−20年金利スプレッドと推計値
(画像=ブルームバーグ、日銀、内閣府、SG)

表)カレンダーベースの国債市中発行額(兆円)

カレンダーベースの国債市中発行額(兆円)
(画像=財務省、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司