(本記事は、スティーブ・シムズ氏の著書『なぜ私は「不可能な依頼」をパーフェクトに実現できるのか?』大和書房の中から一部を抜粋・編集しています)

「自分ではない誰か」になるためにムダなエネルギーを消費しない

ブランディング
(画像=Natasa Adzic/Shutterstock.com)

近ごろでは、誰もが自分の「ブランディング」に夢中になっている。学校でイケてると思われるためにがんばっている少年もそうだ。16歳の少女が大人びた格好をして、実際よりも年上に見せようとするのも一種のブランディングだ。フード付きパーカー、ジーンズ、スニーカーという出で立ちのソフトウェア・エンジニアも、自分をブランディングしている。ロックスターの革ジャン、長髪、腕のタトゥーもブランディングだ。

私にはこの現象がどうにも理解できない。ブランディングする人たちは、自分を特別な存在に見せたいと思っている。個人でも、企業でもそれは同じだ。自分だけの「売り」を前面に押し出し、独自の存在として認められたいと思っている。

しかし、それを達成する方法についてはどうだろう。独自性を打ち出すのではなく、むしろ型にはまった自己アピールに終始している。頭の中にある「あるべき姿」に自分を合わせ、結局他の人と同じようになってしまっているのだ。

こうやって誰かのふりをする前は、すべての人が自分らしさを持っていた。人は生まれながらに独自の存在だからだ。

ブランディングとは、何を着るかとか、どういう人とつきあうかということではない。世間のイメージに合わせて自分を変えることではない。真のブランディングとは、「自分は誰か」という問いと正面から向き合い、本当の自分を表現することだ

私が「本当のスティーブ・シムズ」を見つけるまで

今の私は、「スティーブ・シムズ」でいることに何の違和感も持っていない。いつでも完全に自然体でいられる。ビジネスの場でも、プライベートの夕食でも、私はただのスティーブ・シムズ、すなわちガタイのいいイギリス男だ。

私にとって、自然体でいること以外の選択肢など考えられない。自分ではない誰かになるために、ムダなエネルギーを消費したくないからだ。

しかし、昔からそうだったわけではない。貧しいレンガ職人の息子であることや、ロンドンのイースト・エンドで生まれ育ったことを、必死になって隠していた時期もあった。周りのお金持ちたちに合わせて、自分を偽っていたのだ。

商売が軌道に乗り、生まれて初めてかなりの大金を手にした私は、お金を自分のアイデンティティにするようになった。「お金を持っている人間はこうあるべきだ」という思い込みにとらわれ、本当の自分を否定するようになった。ただのスティーブ・シムズであるのはやめて、「成長」しなければならないと感じていた。

そうやって私は、自分を隠す鎧を何重にも身につけるようになった。高級スーツを着て、高級な革靴を履いた。自分がそうしたいからではなく、周りに合わせるためだ。

しかし、そうやって自分を偽っていると、周囲との間にかえって溝を作ってしまう。いかにも金持ちそうな格好をしていても、実際に話してみると、見た目のイメージとは違うことが相手にはわかってしまう。

相手は違和感を持ち、「この人はどこかおかしい。信用できない」と考える。こういった小さな違和感は、ビジネスをするうえで致命的だ。信用できない相手とビジネスをしたいと思う人などいないだろう。

たとえば、家の水道管が詰まったので、配管工に来てもらったとしよう。玄関のチャイムが鳴りドアを開けると、そこには高そうな三つ揃いのスーツを着たスタイリッシュな男性が立っていた。自分では配管工だと言っているが、どこからどう見てもそうは見えない。あなたは強い違和感を覚え、おそらくその人を家に入れるのをためらうだろう。

私もまた、周りのお金持ちに合わせて自分らしさを失ってから、何もかもがうまくいかなくなった。お金の問題もそうだが、まず打撃を受けたのは人間関係だ。

人間関係の悪化は、何かがおかしいと気づく重要なバロメーターになる。「仲のよかった人たちから電話が返ってこなくなっている。これはいったいどういうことだろう?なぜコミュニケーションがうまくいかなくなったのだろう?友人たちと以前のようなつきあいができなくなったのはなぜだろう?」

そこで私はやっと気がついた。高いスーツを着るのも、高級品を身につけるのもやめた。黒のTシャツとジーンズという以前のスタイルに戻った。ミーティングやパーティもその格好だ。

自慢や見せびらかしはもうやめた。私はただ、私であればいい。すると突然、人々がまた私の周りに集まるようになった。高級スーツを着ていた私は、本物の私ではなかった。かなり無理をしていた。自分が背伸びしていると、周りの人も居心地が悪くなる。自信のある人は、自信のある人の周りに集まるものだ

今の私は、自分以外の誰かになることにエネルギーを使っていない。そのため、すべてのエネルギーを本当に大切なものに使うことができる。大切なものとは、仕事と、自分自身であることだ。

本当の私は、粗野で、洗練されていない。しかし紛れもない本物だ。不格好な私が、本当の私だ。不格好なスティーブ・シムズであることに誇りを持っている。

人生最悪の写真

自分を見失っていたときのエピソードを紹介しよう。いかに最悪の状態だったかわかってもらえるはずだ。

私の手もとに、1997年に撮った写真がある。率直に言って、これは見るにたえないほどひどい写真だ。そのとき私はモナコにいた。フェラーリの創立50周年記念行事に参加するためだ。

モナコグランプリの会場で盛大なパーティが開かれた。当時の私は、72年型のフェラーリ・ディーノを所有していた。美しい車だ。それに加えて、今回のイベントのためにヨットも借りていた。海からのほうがイベントの会場に行きやすいからだ。

そこまですれば、モナコでばっちり決めている自分の写真が欲しいと思うのも当然だろう。私は最高のスーツを着て、愛車のフェラーリで借りたヨットの前に乗りつけた。そのときふと後ろを見ると、私が借りたヨットの隣に、さらに2メートルほど大きなヨットが停泊している。そこで私はフェラーリを移動し、その大きなヨットの前で写真を撮った(私が借りたヨットもかなり大型だった)。

人生で最悪の写真はそうやって生まれた。高級スーツに身を包んだ私が、フェラーリに寄りかかってニヤニヤ笑い、完全なアホヅラをさらしている。背後にあるのは、他の誰かのものであるバカでかいヨットだ。

その写真は今でも持っている。自戒のためだ。写真を見るたびに、「大きなヨットを借り、自分の所有物であるフェラーリに乗り、フェラーリから個人的に招待されてイベントに参加しているというのに、それでも私は、自分より大きなヨットを持っている人に劣等感を持っている」ということを、痛烈に思い知らされる。

この写真はいい教訓だ。「いいか、シムズ。本当の自分に満足しろ。くれぐれも他の誰かになろうとしてはいけない。他の誰かのふりをしたほうが信頼される、モテる、好かれると思っているのかもしれないが、それは間違いだ。そうやってチヤホヤしてくる人たちが、住宅ローンを払ってくれるわけではない。子育てをしてくれるわけでもなければ、夫婦円満を後押ししてくれるわけでも、生きる喜びを届けてくれるわけでもない」。そう自分に言い聞かせている。

私のように証拠としての写真が残っていなくても、自分以外の誰かになろうとした苦い思い出がある人はたくさんいるだろう。むしろそうでない人などいないはずだ。自分にとってどうでもいい人たちにチヤホヤしてもらうために、自分を実際以上に見せようと躍起になるのだ。

「豊かさ」を再定義する

今から10年ほど前、私はフロリダ州のパームビーチで仕事をしていた。あそこはまさに金持ちの街だ。仕事でつきあいのある人たちは、1人残らず1000万ドルかそれ以上もする豪邸に住んでいた。500万ドルの家では下流扱いだ。

彼らはみな、いちばん目立つ場所に家を買う。自分や家族にとっての暮らしやすさは二の次だ。「自分は1000万ドルの家を買える」ということを、すべての人に見せびらかすことを最優先にしている。

パームビーチでは、一事が万事その調子だった。腕時計、車、ガールフレンド、ヨット、「豊かさ」を再定義するカントリークラブの会員権などなど、すべてにおいて人に見せびらかすことを前提にしている。最初のうちは、私も違和感の正体をうまく言葉にすることができなかったが、それでも何かが違うとは思っていた。

パームビーチのお金持ちは、つねに何かを探している。彼らは幸せではない。今の自分に満足していない。

しかし、近所に住んでいたある男性は違った。結婚10年になる妻は親友のような存在で、ローンの残っていない車に乗り、子供たちはいい学校に通い、毎日危ない目にあうこともなく家に帰ってくる。食べ物は十分にあり、暖かく快適な家もある。家庭は円満だ。

その男性を見て、私は気がついた。これが本当の豊かさだ。

仕事でつきあっていたお金持ちたちは、たしかに大金を持っていたが、豊かではない。

それまでの私は、ずっと自分の生い立ちを隠していた。貧しい労働者の息子だという事実を、周りに知られたくなかった。裸一貫から成功した起業家の多くも、私と同じ経験をしているだろう。ビジネスで認められるには、生まれたときからロレックスの腕時計をしているような人間のふりをしなければならないと思い込んでいた。

しかし、そんな私も、お金と豊かさの違いに気づくことができた。これもすべてパームビーチのおかげだ。

私にとって、豊かさの基準は、高級腕時計を何個持っているかということではない。子供たちがお腹いっぱい食べられ、妻が幸せで、雨風をしのげる家があれば、私は安心して眠りにつくことができる。それが私にとっての豊かさだ。

もちろん今の私は、お金で買えるおもちゃも持っている。しかしそういったものは、真の豊かさとはまったく関係がない。私の豊かさとは、ただ自分自身であることだ。大切な人たちを守ること、彼らを愛し、彼らから愛されること、お互いに信頼し、支え合うことが、私にとっての豊かさだ。

自分の「本心」と「原則」を知り、ブランドを作る

ここであなた自身の自己評価をしてもらおう。もしかしたらあなたは、自分はとんでもなく性格が悪い、または頭が悪いと思っているかもしれない。しかし、この本を読んでいるということは、もっと向上したいという気持ちがあるのは間違いないだろう。だから、少なくともそこまでひどいわけではない。それは忘れないでおこう。

さて、ここからが自己評価の本番だ。自分に次の質問をしてみよう。

「私は何が好きか?何が嫌いか?どんな人が好きか?どんな人が嫌いか?」

紙を1枚用意して、真ん中に線を引き、「好き」を書く欄と、「嫌い」を書く欄に分ける。好きなものだけを並べたリストは役に立たない。ここで大切なのは、自分の本心を知ることだ。だから嫌いなものとも向き合う必要がある。リストは簡潔に、そしてどこまでも正直に書くこと。ここでは真実を直視しなければならない。

次に、もう1つ別のリストを作ってもらいたい。

あなたが大切にしている「原則」は何か?あなたが得意なことは何か?苦手なことは何か?

大切にしている原則が、あなたという人間を決めている。それがあなたのブランドだ。

「私は周りの人を失望させるか?」「私はやると言ったことは何があってもやるタイプか?」「広告コピーを書くのが得意か?」「本を書く能力があるか?」「メールの返信は遅いほうか?」「旅行は好きか?」「自分をよく見せるためにウソをつくか?」「カレーは好きか?」……。

このように質問を重ねて、自分を掘り下げていく。ここでは自分に対して完全に正直になること。答えを見るのは自分だけなので、何の心配もいらない。

できあがったリストをじっくり見てみよう。自分の嫌いなところがたくさん見つかるはずだ。しかし、事実なのだから仕方がない。リストを見て、直すところを決める。欠点が魔法のように消えることはないので、自分で努力しなければならない。

オートバイの整備では、いちばん弱い箇所に注目する。ブレーキはきちんと効くか?タイヤの空気圧は?チェーンはゆるんでいないか?チェック項目は、そういった単純なことだ。カムシャフトのバランスや、バルブの調整といったことは気にしない。多少の問題があっても、死ぬような事故になることはないからだ。しかし、ブレーキが効かないのは大問題だ。

ここで大切なのは、致命傷につながる小さな問題に注目すること。人生をふり返れば、いつも自分の足を引っ張る小さな欠点が見つかるだろう。これを見つけて改善することが、自分のブランドを強化する第一歩になる。

自分をブランディングするという考え方は大切だ。あなた自身がブランドであり、会社である。人々が、あなたという会社から買いたいと思う理由は何だろう?あなたというブランドを信用する理由は何か?このブランド、この会社に人々が参加したいと思う理由は何か?

これは恋人探しとも同じだ。恋人を探している誰かが、あなたとつきあいたいと思う理由は何か?最初は「すてき」と思うかもしれないが、何回かデートするうちに、気持ちが冷めてくるかもしれない。「なんでまたデートするのかわからなくなってきた。時間のムダではないだろうか」と考えるようになるかもしれない。

自分を正直に見つめ、そこから学ぼう。「絶対に譲れない点はこれだ。自分と一緒にいる人たちには、こういう気分になってもらいたい。人からこういうふうに扱われたい」。そして、自分の核がわかったら、今度はそこから自分という人格を築いていく。自分の理想や原則を確立する。それがパーソナルブランディングだ。

とはいえ、あなたはすでに、そのブランドを体現している。ありのままのあなたが独自の存在だ。このプロセスは、その核となる自分を明確にするためにある。本当の自分をはっきり自覚したら、そこに肉付けして、自分というブランドを確立していく。これがウソのない、本物のブランドだ。

なぜ私は「不可能な依頼」をパーフェクトに実現できるのか?
スティーブ・シムズ(Steve Sims)
ロンドンのレンガ職人の家に生まれ、レンガを積み続ける10代を過ごす。19歳の時に仕事を辞め、朝はケーキ配達、午後は保険の営業、夜はクラブのドアマンと3つの仕事を掛け持ちする生活に。数年後、香港で銀行の仕事を得るが2日で解雇され、やむを得ずドアマンの仕事をしたところ頭角を現し、富裕層からパーティの企画を依頼されるようになる。その後、顧客の生涯の夢を叶える高級コンシェルジュ・サービス「ブルーフィッシュ」を創設し、20年にわたって経営している。顧客のリストには世界の名だたるセレブが名を連ねる。ブルーフィッシュは世界各地にオフィスを構え、「フォーブス」誌、「ニューヨーク・タイムズ」紙、「アントレプレナー」誌など数多くのメディアに取り上げられてきた。また、ハーバード大学や国防総省などで基調講演を行った経験を持つ。

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