(本記事は、スティーブ・シムズ氏の著書『なぜ私は「不可能な依頼」をパーフェクトに実現できるのか?』大和書房の中から一部を抜粋・編集しています)

「何でも自分でやる病」を治す

指揮者
(画像=Viorel Sima/Shutterstock.com)

仕事が軌道に乗り、自信がついてできることも増えていくと、誰もが陥る罠が1つある。ほんの少しでも成功を味わうと、すぐにもっと上に行きたくなるのだ。

もっと成功したい、もっと賞が欲しい、もっと認められたいと貪欲になる。その結果、何に対しても「ノー」と言えなくなり、すべてを自分で抱え込む。すでに見たように、「ノー」と言えないのはビジネスでも私生活でも大きな問題であり、特に起業家にとっては致命的だ。しかも彼らには、何でも自分でやりたがるという厄介な性癖がある。

成功者や起業家といった人たちは、すべてのプロジェクトを自分で仕切らないと気がすまないところがある。しかし、それはどだい無理な話であり、たいていは自爆して終わりだ(私もそういうところがあるが、なぜそうなってしまうのか自分でもよくわからない。自分の仕事に真剣すぎるからだろうか?何でも自分の思い通りにしないと気がすまないコントロールフリークだからだろうか?それともなまじ仕事ができてしまうからだろうか?)

プロジェクトを独り占めして、誰にも触らせない。完全に自分だけで抱え込む。その結果、プロジェクトが完全に窒息してしまうのだ。もちろん、そんなことになったのはすべて自分の責任であり、他の誰のせいでもない。

オーケストラの指揮者になる

何でも自分でやりたがる人が、学ばなければならないことがある。それは、「すべてをできることと、すべてを実際にやることは違う」ということだ。

どんな人でも、自分の中に「人とは違う、自分だけのもの」が5パーセントはあると私は信じている。その5パーセントが、あなたにしかできないものであり、他の人に任せることはできない。

ここで大切なのは、自分の5パーセントを正確に知ることだ。これはつまり、自分のいちばんの長所を知るということでもある。それがわかったら、プロジェクトに必要な作業の中で、自分の5パーセントを使う必要がある部分だけを抽出する。残りの部分は他の人に任せればいい。

それが、オーケストラを指揮するということだ。指揮者はすべての音を把握しているが、自分で演奏するわけではない。演奏はそれぞれの担当者に任せ、自分はその演奏を1つにまとめる働きをする。それができるようになれば、ビジネスのスケールを大きくすることができる。人生のあらゆる面で、壁を壊してさらに大きくなることができる。

たとえば、あなたの下で働く人が15人いるとしよう。あなたのビジネスが成長するかどうかは、次の質問への答えで決まる。

「私はどの程度まで部下の裁量に任せているか?どの程度まで手綱を引いているか?どの程度まで監督しているか?どの程度までミスを許しているか?」

まず確認したいのは、あなたはすべてを監督しなければならないということだ。ボールから目を離してはいけない。絶対にだ。たとえ仕事の95パーセントを他の人に任せていても、プロジェクト全体の管理はあなたの仕事だ。人に任せるのは、自分が怠けるためではない。自分がもっとも得意な仕事に集中するためだ

他の人の5パーセントを活かす方法

ビジネスを大きくしたい、成長させたいという気持ちがあるのなら、責任を分担する必要がある。すべて自分でやろうとすると、ビジネスは成長しないし、あなた自身も成長しない。前にも言ったように、すべてを窒息させてしまうだけだ。覚えておこう。成長しないのは、死に向かっているのと同じことだ。

次に行うのは、プロジェクトでもっとも重要な部分を見きわめること。プロジェクトの成否に関わること、成功しても失敗してもいちばん影響が大きい部分は、自分にもっとも近い人に任せなければならない。いちばん信頼している人物、ふだんからいちばんよく会話している人物、その人の「5パーセント」をすでにあなたが把握している人物だ。

私の場合は、プロジェクトでもっとも大切な部分を、2人の人間に任せることがある。その2人で分担するのではなく、2人にまったく同じ仕事をしてもらうのだ。そうすれば、彼らにしかできない「5パーセント」をより深く知ることができ、さらに仕事が成功する確率を2倍にすることができる。

ここでの目標は、他の誰にもない「5パーセント」を持った人たちを集めることだ。これが、唯一無二のドリームチームを作る秘訣である。

プロジェクトのいちばん大切な部分を正しい人物に任せたら、次の仕事は再びプロジェクトの全体像を見わたして、こう自分に尋ねることだ。「このプロジェクトには10本の脚がある。その中で、切ってしまってもビジネス全体に影響が出ない脚はどれだろう?」

切っても問題ない脚とは、もっともリスクが小さいものだ。その作業を、それぞれもっとも適した人材に割り当てる。彼らに自分の「5パーセント」を存分に生かしてもらう。部下に任せてもいいし、アウトソーシングしてもいい。何でも自分でやろうとしてはいけない。

私はアウトソーシングをよく活用している。2500ドルかかることもあれば、10ドルですむこともある。たとえば、いつも動画の編集を頼んでいる人がいる。イラストやテキストを入れたり、音を直したり、私のロゴを入れたりして、しめて10ドルだ。

もちろん、彼のような適任がすぐに見つかったわけではない。それまで6人の違う人に依頼し、お金もかなり使っていた。しかし今では、ビデオが必要になったときはすぐに素材を彼に送る。彼の拠点はイギリスだ。彼は受け取るとすぐに編集をすませ、翌日には完成版を送ってくれる。

他の人に責任を与えなければ、自分も成長できない

人は成長しなければならない。そして成長するには、他の人に責任を与えなければならない。

もちろん他人は失敗するし、あなたを失望させるだろう。それは間違いない。しかしその過程を経験してこそ、周りの人たちの強みと弱みを知ることができる。弱みを発見したら、そのまま放置しないこと。弱点克服のために努力してもらうか、またはその分野では責任のある仕事を任せないようにする。つまり、内気な数学の天才に、ナイトクラブで顧客を接待する仕事を任せるなということだ。

そして、誰かに何かの仕事を任せ、その人に必要な「5パーセント」がないとわかった場合、またはたとえ「5パーセント」があっても、それ以外の欠点がありすぎて5パーセントでは補えない場合は(そして言うまでもなく、その人が時間泥棒だった場合は)、誰か他の人を見つけよう。

仕事を任せるときは、十分な長さのロープをわたす

成功者だけが知っている秘密がある。それは、すべてをコントロールするのはとても孤独だということ、そして失敗したときにすべてが自分の責任になるのは、とてもつらいということだ。

周りの人の能力を的確に知り、正しい人材に自分のプロジェクトを任せることができれば、自分の周りに強力なチームを築くことができる。チームといっても、自分の会社の社員である必要はない。それぞれの分野で一流の仕事をしている人たち、いざというときは頼れる人たちを、社外に確保しておくという方法もある。彼らがいれば、あなたは自分ですべての楽器を演奏しようとしてパニックになることなく、指揮者の仕事に専念できるだろう。

そのような人脈があれば、ビジネスだけでなく、あなた自身も大きく成長できる。その恩恵は計り知れない。優秀な人たちに仕事を片づけてもらえるだけでなく、もう孤独ではなくなるからだ。

自分に「いいこと」をするための時間を手に入れる

人に任せる技術と、任せることによって手に入る自由について、別の角度からも見てみよう。

前にも言ったように、私にとって最悪の恐怖は、先週や先月とまったく同じ場所にとどまっていることだ。とにかく停滞するのが耐えられない。そのため、つねに新しいものを取り入れようと努力している。新しいものは、私だけでなく、周りの人にとっても刺激になる。

新しく取り入れたものは、はたしてうまくいったのか?自分はそれを好きか?周りの人たちはそれを好きか?

もちろん、最初からすべてがうまくいくことはない。正直なところ、最初は失敗するほうがずっと多い。しかし、これはスタートアップ企業に投資するのと同じで、投資が当たったときの見返りは莫大だ。これが「自分への投資」のいいところだろう。

以前、新しい挑戦の1つとして、パーソナルシェフを雇ったことがある。「なんだ、金持ち自慢か」と思った人もいるかもしれないが、そんなことはない。これも立派な自分への投資であり、見返りはかなり大きかった。

詳しく話そう。知り合いに、地元の家庭のために食事を作る商売をしている人がいた。そこで彼と話をして、月曜から金曜の毎日、夕食を自宅まで届けてもらうことにした。

ときには忙しすぎて、健康的な家庭料理を作る時間がないこともある。そんなとき、「お腹が空いたな。中華の出前でも取るか!ピザでもいいぞ!」では困るのだ。人はえてして、急いでいるときほど不健康なものを食べてしまう。ファストフードはたしかに手軽で便利だが、腹回りには嬉しくない。

手軽に健康的な食事を取る方法はないかと考えていた私は、彼にこう言った。「健康になりたいんだ。パレオダイエットに興味を持っている。チキン、野菜、ライスを中心にしたい。私のために料理をしてもらえないか?」

私たちは契約を交わした。シェフは夕食とデザートを作り、私の健康作りに協力する。とりあえず1ヵ月やってみたところ、予想もしていなかった見返りがあることがわかった。1日の時間が増えたのだ。毎日、2時間から4時間は増えている。

人の力を借りれば、スリムになれるかもしれない。健康になる、おもしろい人間になる、お金持ちになることもできるかもしれない。しかし時間だけは、人から与えてもらうことはできない。

ところがパーソナルシェフを雇うことで、1日の時間が2時間から4時間も増えたのだ。時間が増えたことは、この実験の副産物だった。こんなおまけがあるとは、まったく予想していなかった。

うちは妻も私の会社で働いている。料理を自分たちでしていると、大事な仕事の最中でもどちらかがスーパーへ買い物に行き、家族のために夕食を用意しなければならない。妻の場合は、いつも朝の10時にはもう夕食の心配が始まり、「今日の夕飯はどうしよう」と言い出す。その会話が始まると、好むと好まざるとにかかわらず、ボールから目を離すことになってしまう。

やるべき仕事から目を離すと、効率は確実に落ちる。その瞬間に何かを失うことになる。そしてまた元のペースに戻るまでに、30分から40分はかかるだろう。

シェフを雇ってからは、もう朝10時に「夕飯はどうしよう」と話すことはなくなった。午後5時の電話で「子供たちの夕飯を作らないと」と話すこともなくなった。家に帰ってから「早く夕飯にしないと」という会話もなくなった。

ただのちょっとした会話ではないかと思うかもしれないが、こういうものが積もり積もると影響はかなり大きい。それがシェフを雇うと、ぴたりとなくなったのだ。午後5時半になると、完璧にできあがった夕食が届けられる。温める方法も教えてもらえる。その教えの通りに温めると、20分後にはもう食事を始めることができる。それに加えて、食器を洗う手間もなくなった。

夕食作りをアウトソーシングしたおかげで、妻も私もかなりの時間を節約できた。増えた時間を使って、子供と一緒に遊ぶこともできる。午後5時に家に帰り、バタバタと食事の支度をしなくてすむのは本当にいいことだ。

代わりにじっくりと子供と向き合い、宿題を見てあげたり、おしゃべりをしたり、ゲームをしたりできる。アウトソーシングがうまくいくと、いいことをする時間が手に入るのだ。

なぜ私は「不可能な依頼」をパーフェクトに実現できるのか?
スティーブ・シムズ(Steve Sims)
ロンドンのレンガ職人の家に生まれ、レンガを積み続ける10代を過ごす。19歳の時に仕事を辞め、朝はケーキ配達、午後は保険の営業、夜はクラブのドアマンと3つの仕事を掛け持ちする生活に。数年後、香港で銀行の仕事を得るが2日で解雇され、やむを得ずドアマンの仕事をしたところ頭角を現し、富裕層からパーティの企画を依頼されるようになる。その後、顧客の生涯の夢を叶える高級コンシェルジュ・サービス「ブルーフィッシュ」を創設し、20年にわたって経営している。顧客のリストには世界の名だたるセレブが名を連ねる。ブルーフィッシュは世界各地にオフィスを構え、「フォーブス」誌、「ニューヨーク・タイムズ」紙、「アントレプレナー」誌など数多くのメディアに取り上げられてきた。また、ハーバード大学や国防総省などで基調講演を行った経験を持つ。

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