知っておきたい「パワハラの定義」

そして、もう一つのポイントが、「何がパワハラかの大臣指針が示された」ことです。

「何がパワハラに当たるのか」に関しては、それを解説するような書籍も数多く発刊されています。ただ、実はこれまで、法律の条文による明確な定義はなかったのです。

では、何をもって問題になるかを判定していたかというと、過去の裁判例(判例)がその役割の一部を果たしていました。

たとえば、かつてある保険会社で、「やる気がないなら、会社を辞めるべき」「あなたの給料で人がどれくらい雇えると思っているのか」といった侮辱的なメールを上司が部下へ、そして他のメンバーにも送信し、それに対して部下から損害賠償を求める裁判が起こされました。

この判決では上司に対し不法行為による損害賠償責任を認めたのですが、これにより、「叱咤激励のためとはいえ、侮辱的な文面を社内の周りの人にまで送るのは法律的にルール違反となるのだな」と判断できるわけです。

パワハラの「6つの類型」とは?

しかし、そもそも裁判になるようなケースは、パワハラによって自殺に追い込まれてしまったりといった、極めて深刻かつ悪質なケースがほとんどです。それを判断基準にしたところで、パワハラ全般についての根本的な防止にならないことは明らかです。

そこで今回、パワハラとは何かを法律の規定により定義するとともに、厚生労働大臣による「指針」という形で、「具体的に何がパワハラに該当するのか」が明確化されることになったのです。

法律の条文では、以下の要素をすべて満たすものが、職場におけるパワーハラスメントであると定義されました。

職場において行われる、1優越的な関係を背景とした言動であって、2業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、3労働者の就業環境が害されるものであり、1から3までの要素を全て満たすもの。

それに加えて、厚生労働大臣指針(告示)によってパワハラの「6つの類型」がより詳しく定義されました。

・身体的な攻撃(暴行・傷害)

・精神的な攻撃(脅迫・名誉棄・侮辱・ひどい暴言)

・人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

・過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

・過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

・個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)