中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

個人は会社と違い、株式や社債の発行による資金調達ができない。個人が限られた条件で資金調達するには、1つでも多くの方法を知っておく必要がある。今回は、個人事業主が検討できる資金調達の方法をご紹介する。開業時に役立つ方法にも触れているので参考にしてほしい。

個人の資金調達方法1.融資

資金調達
(画像=Artur Szczybylo/Shutterstock.com)

個人が検討できる資金調達の方法として融資が挙げられる。融資にも複数のパターンがあるので、シチュエーションによって使い分けたい。

日本政策金融公庫

日本政策金融公庫とは、日本の政策金融機関の1つだ。個人事業主などの資金調達を支援し、経済発展に資する役割を担っている。一般の金融機関よりも融資の間口が広い。

もちろん審査をクリアしなければならないが、個人の創業融資や業績悪化時の支援など、通常では借りにくい場面を想定した融資もある。

銀行融資

銀行融資も個人が資金調達する際の選択肢だ。

個人だと金融機関の審査を通過しづらいというイメージがあるかもしれない。しかし、信用保証協会の信用保証付き融資であれば、比較的受けやすい。

ただし、審査は通常の銀行と変わらず、資金使途と財源をチェックされる。申込書に業績推移を明示し、融資の合理性を伝えることが大切だ。

制度融資

制度融資とは、自治体が地元の金融機関と連携して、個人事業主などを支援する融資である。地元の地方銀行や信用金庫が融資するが、利子や信用保証協会に払う保証料の一部を自治体が補助する。

まずはホームページなどで融資の種類を確認し、自治体や金融機関に相談するとよいだろう。

ビジネスローン

スピーディな融資が必要なときには、ビジネスローンという選択肢もある。

ビジネスローンとは、クレジット会社などが行う審査の速いローンだ。中には即日融資や無担保・無保証を掲げるものも多い。

ただし、金利が割高なので非常時の手段として検討したい。

親族や知人からの借り入れ

親族や知人から借り入れる方法もある。返済期限などを緩やかに設定できるが、みなし贈与にならないよう注意が必要だ。

たとえば、親族などから債務免除をしてもらったとき、その免除額がみなし贈与となり、金額によっては贈与税の課税対象となる。

利子を支払っていない場合も、みなし贈与にあたる可能性があるが、少額な場合や課税上弊害がない場合は除く。

個人の資金調達方法2.補助金・助成金

補助金や助成金も、個人の資金調達として有効な方法だ。利用する際に最低限知っておきたい知識を共有しておこう。

国と自治体による補助金・助成金

国の補助金は、創業や事業拡大、IT導入などを含め、事業の開始を支えるものが多い。経済産業省や環境省などが主管となる。

一方で国の助成金は、新たな雇用の創出や労働環境の改善などを支える制度で、厚生労働省が主管となる。

補助金・助成金は、どちらも原則として返済が不要だ。受け取った金銭を国に返す必要はないため、融資よりもお得である。

また、補助金や助成金には自治体が実施する制度もある。返済が不要な点は共通しているが、おもに地域活性化を目的とした事業が対象となる。

たとえば、東京都では2019年度に「TOKYOイチオシ応援事業」が実施されている。これは、東京都の地域資源を活用した新製品や新サービスの開発などを支援する助成事業であった。

補助金の「中小企業者」とは?

補助金の対象者として中小企業者という言葉がよく出てくるが、個人は含まれるのだろうか?

結論からいうと、中小企業者は個人を含むと考えてよい。中小企業者とは、中小企業基本法という法律で定義されている。もし、補助金がこの定義を用いている場合は、個人も中小企業者に含まれる。

たとえば、中小企業庁が主体となる補助金であれば、この定義が用いられるため、個人も対象になる。

ただし、これは中小企業政策における基本的な政策対象の範囲を定めた原則だ。他の法律や制度は必ずしもこの法律に基づくわけではないため、対象者を確認する必要がある。

補助金・助成金の注意点

補助金や助成金は原則として返済不要だが、使いにくい面もある。

注意点1.申請準備が面倒

補助金などの募集は不定期で、募集が始まっても短期間のものが多い。そのため、目当ての補助金などを申請する場合は、常にアンテナを張っておかなければならない。

運よく公募情報をキャッチしても、募集要項の内容は複雑なものが多い。申請の注意事項や加点事項などを把握するまでにかなりの時間を費やすことになる。

注意点2.後払いが基本

補助金・助成金は基本的に後払いとなる。200万円かかる補助事業について考えてみよう。

補助率が2分の1だとすれば、いったん200万円を自身で調達した後に100万円が交付される。したがって、急を要する資金調達には向かない。

注意点3.競争率が高い

補助金の予算は限られているので、競争率が高い。申請後に採択されなければ、それまでの準備も無駄になる。より魅力的な活動や加点要素の多い申請が採択されるため、準備に手を抜けない。

補助金などの申請については、士業による専門のサポートもある。必要に応じて活用していただきたい。

注意点4.所得税の課税対象

国や自治体から個人に交付された補助金や助成金は、所得税の課税対象になる。

ただし、固定資産の取得や改良を目的に交付を受けた補助金・助成金については別だ。確定申告書への記載や明細添付などの要件を満たせば、その年の総収入金額に算入しないで済む。

個人の資金調達方法3.クラウドファンディング

近年、クラウドファンディングという資金調達方法も主流になりつつある。クラウドファンディングの概要や種類、成功させる方法などを説明しよう。

クラウドファンディングの概要

クラウドファンディングとは、インターネット上で事業をアピールして、不特定多数から資金を集める方法だ。

クラウドファンディングでは、支援者に共感してもらえば資金を調達でき、知名度を必要としない。個人事業主をはじめ若い実業家や社会貢献者など、幅広い層が利用している。

専用のプラットフォームを利用する場合、事業者は運営会社の審査を受けて、自身のプロジェクトをサイトに掲載し、閲覧者から資金を調達する。

クラウドファンディングの種類

クラウドファンディングの種類は3つある。

  • 寄付型
  • 購入型
  • 投資型

主な違いは出資者へのリターンにある。寄付型は、出資者にリターンする必要がなく、募金と似ている。

購入型は、集めた資金で商品などを開発する。市場に出回っていないサービスや権利など、金銭以外でリターンするのが特徴だ。

投資型は、金銭や株式などで出資者にリターンを行う。タイプや事業内容によっては、金融商品取引法などの法規制を受けるので、利用する場合は注意したい。

クラウドファンディングを成功させる方法

クラウドファンディングを成功させるには、多くの人に事業を知ってもらう必要がある。
専用のプラットフォームを利用するほか、SNSやホームページなどで自分から情報を発信しなくてはならない。

しかし、情報発信に慣れているのであれば、気軽に活用できる資金調達方法といえる。

クラウドファンディングに関する課税

個人事業主がクラウドファンディングで得た資金は、基本的には所得税(事業所得)の課税対象になる。

ただし、寄付型のクラウドファンディングは、出資者から個人事業主への贈与にあたる。

個人の出資者から受け取った寄付は贈与税、法人の出資者から受け取った寄付は所得税(一時所得)の課税対象になる。

個人の開業に役立つ資金調達方法

個人事業では開業資金が必要となる。開業時に役立つ資金調達方法も確認しておこう。

日本政策金融公庫

個人の開業時に役立つ融資は、日本政策金融公庫の融資である。開業時や開業したての事業主を対象とする融資があるからだ。

たとえば、「新規開業資金」や「女性、若者/シニア起業家支援資金」などがある。

いずれも融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)である。利息は担保の有無などで変わるが、おおむね年1%~2%ほどだ。

「新規開業資金」は 、雇用の創出をともなう事業を開始する方や、現在勤めている企業と同じ業種の事業を始める方などが対象となる。

一方、「女性、若者/シニア起業家支援資金」は新たに事業を始める方や、事業開始後おおむね7年以内の方のうち、一定の要件を満たす事業主が対象となる。

自治体の創業補助金

補助金・助成金であれば、自治体による創業補助金がおすすめだ。

たとえば、東京都の創業助成事業では、最大300万円の助成金が受け取れる。都内で創業を予定している方や創業後5年未満の方のうち、一定要件を満たす事業主が対象だ。

自治体の補助金・助成金は、「自治体名」と「創業支援」などの検索ワードで探せる。開業時の資金調達方法を検討する際は、各自治体の補助金・助成金も検索してみよう。

個人の資金調達方法も多様化

個人の資金調達方法には、融資、補助金・助成金、クラウドファンディングなどがある。個人が資金調達する方法は法人に比べて限られているが、選択肢がないわけではない。それぞれにあった資金調達の方法を検討していただきたい。(提供:THE OWNER

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)