B5サイズの特大名刺が商談のフリとオチになる

「ロジカルシンキング」という思考法があるように、笑いも一つの思考法です。

すべての笑いは、緊張と緩和、芸人の言葉で言うなら「フリ」と「オチ」というメカニズムによって生まれます。

フリとは、自分が発する印象や話題から生まれる共通認識、オチとはそれに対する裏切りです。

例えば、「お坊さんが屁をこいた」が笑いになるのは、「お坊さんとはこういうものだ」という共通認識がフリになり、それを裏切る「屁をこいた」がオチになるからです。

僕は、商談もフリとオチの繰り返しで構成しています。

まず、「元芸人の人事コンサルタント」という肩書きがインパクトのあるフリになっています。これを事前情報として知っている相手の頭の中には、「本当にビジネスのことがわかっているのか?」という不安が生まれているはずです。そこで僕は、必ず白いシャツに紺のネクタイという真面目な恰好をしてお会いします。これが、事前のイメージを裏切るオチになるわけです。

ここで「意外にきちんとした人なんだな」と思われれば、それがまた次のフリになります。このフリに対するオチは、B5サイズの特大の名刺。受け取った相手は、「ああ、やっぱり元芸人なんだな」となりますね。

さらに、ここで終わりではありません。この名刺をフリにして、「実は、この名刺はマーケティングの一環なんです」という真面目な説明をオチにします。このふざけた名刺に表情一つ動かさなければ、僕の会社が提案している「笑いを通したコミュニケーション改革」はフィットしないだろうと予測できるんです、という説明です。

これを聞いた相手は、「コンサルタントとして信頼が置けそうだ」という印象を抱きつつ、「さっきの自分の反応はどうだったろう?」とも思うでしょう。そこで、「今日は素晴らしいリアクションしていただけて、良い商談になりそうです!」と、ポジティブなひと言を投げかけます。

このプロセスを定番にして以来、受注率が2.5倍になりました。

つまり、自分の印象を自己プロデュースすることでフリを作り、それに対してオチをつける。それを連続させて「場をデザインする」ことで笑いが生まれ、信頼関係も生まれるのです。

印象というと、一般的には相手に持たれる受け身のものだとのだと思われがちですが、実は自分で作り出せます。「ウケる」技術とは、主体的に相手に印象づける技術なのです。

フィードバックで「盲点の窓」を開けよう

では、自分の印象の自己プロデュースは、どのようにすればできるのか。

第1段階は、自分がどんな印象を持たれているか=どんなフリを発しているかを確認することです。

自分が自分に対して抱いているイメージと、他人が自分に対して抱いている印象が一致していないことは多くあります。ズレがあれば、適切なオチを作ることができず、スベることになります。

心理学で有名な「ジョハリの窓」(図1)で説明すると、重要なのは、「盲点の窓」を開けることです。他人は知っているけれども、自分は気づいていない一面を知ることで、自分が周囲に対してどんなフリを発しているのかが自覚でき、それにふさわしいオチを考えられるようになります。

ウケる技術,中北朋宏
(画像=THE21オンライン)

「盲点の窓」を開けるには、友人や家族、上司や部下など、周囲の人からフィードバックをもらうのが一番。ストレートに「自分はどう見えている?」と聞きましょう。

このとき、良いことばかりを言ってもらえるとしたら、必ずしも喜ぶべきではありません。信頼関係が築けていない場合、「良い人ですよね」「接しやすいです」など、無難な言葉でお茶を濁すものだからです。もし部下にそう言われたら、「気詰まりな印象を与えているのかも」と自分を振り返ってみるのがいいでしょう。

また、笑いにつなげやすいという意味では、「秘密の窓」も重要です。自分は知っているけれども他人は気づいていない話、例えば過去の失敗談なども、笑いになります。