中国経済の概況
新型コロナ禍で経済活動をほぼ全面停止していた20年1-3月期、中国の国内総生産(GDP)は実質で前年比6.8%減と、四半期毎の実質成長率を遡れる1992年以来で初めてマイナス成長を記録した。リーマンショック後にも急減速したが、今回はそれを超える大打撃となった(図表-1)。
産業別の実質成長率を見ると、宿泊飲食業が前年比35.3%減と大きく落ち込んだのを始め、卸小売業は同17.8%減、建築業は同17.5%減、交通運輸倉庫郵便業は同14.0%減、製造業は同10.2%減と幅広い産業で大幅な前年割れとなった。他方、新型コロナ禍でテレワークや電子商取引が新常態となる中で、追い風が吹いた情報通信・ソフトウェア・ITは前年比13.2%増と2桁成長を遂げ、中小零細企業の支援に奔走した金融業も同6.0%増とプラス成長を維持した。
その後、中国では新型コロナ禍はほぼ収束し現存感染者数は100人を下回ってきた(図表-2)。これを背景に習近平国家主席は4月8日、防疫対策を常態化する中で生産・生活秩序の全面回復を加速する必要があるとして、中国政府は「防疫対策を常態化する」という条件付きながらも、経済活動の本格再開に舵を切った。そして、実質GDP成長率との連動性が高い工業生産(実質付加価値ベース)は、1-2月期の前年比13.5%減をボトムに持ち直し、4月には同3.9%増と前年水準を回復、特にハイテク製造業は同10.5%増と2桁の高い伸びを示した(図表-3)。
一方、インフレ動向をみると、4月の消費者物価は前年比3.3%上昇と、1月の同5.4%上昇をピークに3ヵ月連続で低下してきた。アフリカ豚熱(ASF)で豚肉が前年の約2倍と高止まりしているものの、食品・エネルギーを除くコア部分は前年比1.1%上昇と低位で安定している(図表-4)。
景気指標の動き
●需要面
個人消費の代表指標である小売売上高を見ると、20年1-2月期に前年比20.5%減と19年通期の同8.0%増から大幅な前年割れとなった後、3月には同15.8%減、4月には同7.5%減と緩やかに持ち直してきている(図表-5)。内訳が公表される一定規模以上の小売統計を見ると(図表-6)、1-3月期には飲食が前年比41.9%減、衣類が同32.2%減、自動車が同30.3%減、家電類が同29.9%減、家具類が同29.3%減と大きく落ち込んだが、4月には飲食、衣類、家電類、家具類がマイナス幅を縮め、自動車は前年水準を回復し、化粧品、日用品類は前年の水準を上回った(図表-6)。なお、新型コロナ禍による行動変容が追い風となっているネット販売(商品とサービス)は、1-4月期に前年比1.7%増と1-3月期の同0.8%減からプラスに転じた。
また、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、1-4月期は前年比10.3%減と1-3月期の同16.1%減からマイナス幅を縮めており、筆者が推計した4月単月の伸び率は前年比7.3%増と前年水準を上回った模様だ。内訳を見ると、製造業は1-3月期の前年比25.2%減から1-4月期には同18.8%減にマイナス幅を縮小して4月単月の推計値は同0.6%増、不動産開発投資は同7.7%減から同3.3%減にマイナス幅を縮小して4月単月の推計値は同10.0%増、インフラ投資は同19.7%減から同11.8%減にマイナス幅を縮小して4月単月の推計値は同12.2%増と、製造業は伸び悩んだものの不動産開発とインフラ投資が持ち直した模様である(図表-7)。
他方、輸出(ドルベース)の動きを見ると、1-2月期が前年比17.1%減、3月が同6.6%減、4月が同3.5%増と持ち直している。しかし、新型コロナ禍が猛威を振るう欧米で輸入需要が落ち込み、新規輸出受注が50%割れで低迷しているため、輸出の先行きは暗いと言わざるを得ない(図表-8)。
●その他の注目指標
その他の注目指標として、まず“李克強指数”にも採用されている電力消費量の動きを見ると、1-3月期には前年比6.5%減に落ち込んだが、4月単月では同0.8%増と僅かながらも前年水準を上回ってきた。第3次産業では4月も同7.5%減と目立った回復は見られないが、第2次産業では1-3月期の同8.8%減から4月には同2.1%増へとプラス転換を果たした(図表-9)。
また、物流面の動きを表す貨物輸送量を見ると、1-3月期には前年比18.4%減に落ち込んだが、1-4月期には同13.7%減までマイナス幅を縮めており、筆者が推定した4月単月では同0.6%増と前年水準を回復した模様である。航空貨物はマイナス幅がむしろ拡大したが、水路貨物はマイナス幅が大きく縮小しており、道路貨物は前年水準を上回ってきた(図表-10)。
また、新型コロナ禍とそれに伴う経済活動停止を受けて、失業率がじわじわと上昇してきた。31大都市の調査失業率を見ると3月には5.8%まで上昇してきた(図表-11)。失業率が上昇すると、個人消費が鈍るとともに、社会不安に結び付く恐れもでてくるだけに、注視する必要がある。
なお、「月次の景気指標を実質成長率に換算するとどの程度か」を見るために、工業生産、サービス業生産、製造業PMIを合成加工した「景気インデックス」を見ると、1-2月期の前年比7.7%減をボトムに、3月は同5.0%減、4月は同1.8%減と徐々に前年水準に近付いている(図表-12)。