結果の概要:失業保険申請件数は引き続き高水準

英国雇用関連統計
(画像=PIXTA)

6月16日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。

【5月】
・失業保険申請件数(1)は52.89万件増の280.17万件、前月の227.28万件から増加した(図表1)。
・申請件数の雇用者数に対する割合は7.8%となり、前月(同6.3%)から上昇した。

【4月(2-4月の3か月平均)】
・失業率は3.9%で前月(3.9%)から変わらず、市場予想(2)(4.7%)を下回った(図表2)。
・就業者は3299.1万人で3か月前の3298.5万人から0.6万人の増加となった。
増加数は前月(+21.0万人)から減少したものの、市場予想(▲11.0万人)は上回った。
・週平均賃金は、前年同期比+1.0%で前月(+2.3%)から減速、市場予想(+1.3%)も下回った。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)求職者手当(JSA:Jobseeker's Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。別途、雇用年金省(DWS)がUCの新規申請者数を公表しており3月1日から6月9日までの申請件数は323.8万件だった。
(2)bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

結果の詳細:雇用維持制度が失業率上昇の抑制に貢献している

5月の失業保険申請件数は、4月ほどではなかったが引き続き大きく増えて申請者数の割合は7.8%まで上昇した。一方、失業保険申請者は4月から増加していたにもかかわらず、2-4月の失業率は3.9%と1-3月から変わらなかった。この点についてONSは新型コロナ対策で拡充されたUC(ユニバーサルクレジット)の受給水準となった雇用者が増えている可能性を指摘している(3)。

次に、5月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認する。

3-5月の平均求人数(図表3)は47.6万件となり、3か月前との差は▲34.2万件と急減した(4)。産業別に見ると、製造業が▲2.4万件、サービス業が▲30.1万件、その他産業が▲1.7万件となり、ほとんどがサービス業での落ち込みとなっている(5)。

給与所得者データ(6)では5月の給与所得者は2840.0万人で前月差▲16.3万人となった(図表4)。4月の44.9万人の減少に続いて5月も雇用者が大きく減った(7)。また、月あたり給与額(中間値)も前年同月比▲1.8%と4月(同▲0.7%)から一段と落ち込んだ。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

続いて4月までのデータを確認する。

2-4月の失業率は低水準を維持する結果となったが、ONSは雇用維持制度への申請が5月末までに870万件なされていることに言及しており、この制度が失業率の急上昇を抑制している面が相当大きいと見られる。実際、週次データ(実験統計)では、雇用者のうち一時休業者が4月末にかけて839.5万人(未季調値は791.7万)に急増している(図表5)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、賃金関係では、2-4月の平均賃金は前年同期比+1.0%(実質は▲0.4%)となり、実質賃金伸び率がマイナスに転じた。労働時間も29.1時間(前年同期差▲3.1時間)、フルタイム労働者で33.9時間(同▲3.5時間)と、大きく落ち込んでいる。失業率は変化しなかったが、賃金・労働時間はコロナ禍の影響を受けて大きく悪化している。一方、非労働力人口は3か月前から7.2万人の微増で、労働参加率も64.2%(1-3月64.5%)と若干悪化したにとどまった。

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(3)つまり、雇用者だが失業保険申請数にカウントされている人が相当数いる可能性がある。ONSはUCを含む失業保険申請者のうち、失業者や雇用者の変化に対する影響については特定できないとも述べているが、上記脚注2に述べた通り、3月以降のUC申請(失業等以外の理由も含む)は300万件以上あり、雇用者で失業保険申請数にカウントされた人が多数存在していると思われる。
(4)未季節調整の原系列(実験統計)では、3月単月で75.4万件(3月6日集計)、4月35.8万件(4月3日集計)、5月31.8万件(5月7日集計)となり5月も減少が続いている。なお、ONSが公表するオンライン広告件数(実験統計)では、5月29日から6月5日にかけて若干の増加となり、6月にかけては底打ちの兆しがある。
(5)サービス業の中では卸・小売り(自動車販売含む)が▲6.6万件、飲食・宿泊が▲6.3万件と落ち込みが大きかった。
(6)歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した実験統計。直近データは利用可能な情報の85%ほどを集計して算出。
(7)雇用維持制度により一時帰休している従業員は給与所得者としてカウントされるため、雇用維持制度の恩恵を受けられなかった人が一定いると見られるが、2-4月の労働力調査(雇用統計)では就業者減少の明確な裏付けは得られていない。ただし、週次データ(未季調値)は3月最終週から4月4週目までに就業者が▲59.4万人、失業者+9.1万人、非労働力+34.0万人となり悪化の兆候はある。


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高山武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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