ネット起業家のバイブルと言われた『ITビジネスの原理』(NHK出版)の刊行から6年。ネットビジネスの過去25年の歴史を振り返り、今後の10年を見通すための新たなバイブル『ネットビジネス進化論: 何が「成功」をもたらすのか』(NHK出版)の刊行を記念して、著者の尾原和啓さんが、コーポレイトディレクション(CDI)時代の上司でもある経営共創基盤(IGPI)CEOの冨山和彦さんとオンラインで緊急対談。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、『コロナショック・サバイバル』と『コーポレート・トランスフォーメーション』(いずれも文藝春秋)を立て続けに上梓した冨山さんと、アフターコロナ時代のネットビジネスの行方やこれからの個人の働き方について語り合った。
ビッグブラザーはもういない。オープンソースは使ったもの勝ち
冨山和彦(以下、冨山): 今回のコロナショックで、ネット空間はよりグローバルな空間になりました。人や物の移動が止まって、物理的にはグローバリゼーションにブレーキがかかっているけれど、ネット空間ではグローバリゼーションが猛烈に加速している。実際、リモートになってからのほうが、海外とのコミュニケーションが明らかに増えています。
尾原和啓(以下、尾原): ネットでグローバルにつながっているからこそ、僕はシンガポールで起きていることを紹介できるし、ローカルの強みも生かしやすい。そのバランスですよね。
冨山: むしろ、ローカリゼーションとグローバリゼーションが同時に進行する感じです。
尾原: その二つの進化をかけ算していけばいい。
冨山: いままではG(グローバル)かL(ローカル)かというのはトレードオフの関係だったけれど、今回、ネットビジネスは両方を加速することがわかった。ビジネスモデル的には、従来はG方向のものしかあまり果実を手にしてこなかったので、ここから先はL方向に進んでいく部分が、どれだけ果実を手にできるかが、政策的にも大事です。そのバランスがとれてくると、変なポピュリズムにはならないんです。
尾原: ウーバーをずっと競争させておけば、みたいな極端な話もありましたけど、シェアリングエコノミーやブロックチェーン、IoTという分散化、つまりLの方向を加速させるテクノロジーがこれからものすごく花開いてくるので、そこをレバレッジできるかが大事になってきます。
冨山: これはメディアの責任もあると思うけど、AI化が進むと、グローバルプレイヤーが搾取するみたいなことを煽る人がいるでしょ。それは間違いだと思っていて、その意味でも啓蒙は大事です。スモールビジネスをやっている人も、フリーでやっている人も、尾原本を読めば、いまのシステムを上手に使い、色々なつながり方を活用することで、生活も豊かになるし、ビジネスとしてももっと生産性を上げることができるし、可能性が広がることがわかる。別に全員がグーグルに就職する必要はないわけです。
尾原: グーグルに就職しなくたって、それと同じ知識レベルがYouTubeやUdemyで得られるし、GitHubを使えばオープンソースでみんなで開発を進めることもできます。
冨山: どちらかというと、ネット空間もAIのテクノロジーも、流れがオープンソースに向かっています。みんなオープンソースで使えるようになっているわけだから。ただ、やっぱり古い人の頭の中は、昔のIBMの独占モデルなんです。クローズドな帝国の中に、データもAIも、すべて秘匿されていて、目に見えないビッグブラザーに自分たちは支配されてしまうのではないかという。そんなものは、ほとんどの国では、じつはすべて公開されていて誰でも使えるということを知らないわけです。