(本記事は、カレン・ウィッカー氏の著書『つきあいが苦手な人のためのネットワーク術』CCCメディアハウスの中から一部を抜粋・編集しています)

内向型人間の秘めた力を解き放つ

つきあいが苦手な人のためのネットワーク術
(画像=Webサイトより※クリックするとAmazonに飛びます)

人生の秘訣は、自分に合った光のもとに身を置くことだ。ブロードウェイのスポットライトがふさわしい人もいれば、デスクランプがふさわしい人もいる。 ──スーザン・ケイン(『内向型人間のすごい力静かな人が世界を変える』著者)

ネットワークづくり──いろいろな人と知り合って、(たとえ一瞬でも)相手の心をつかむこと──といえば外向型人間の得意技であり、内向型の人はあまりうまくないと思われがちだ。しかし、人とのつながりを築くことにかけては、じつは後者のほうが一枚上手といえる。内向型であっても、人と楽につきあえる自分を装ったり、噓で塗り固めた仮面をかぶったりしなくていい。

さて、まずは「内向型」の本当の意味を確認しておこう。1920年代、スイスの心理学者カール・ユングは、心理学的類型論を展開し、「人は外の世界から活力を得るタイプ(外向的)か、自分の内面と向き合うことで活力を得るタイプ(内向的)のいずれかである」と述べた。

さらに最近では、「アーバン・ディクショナリー」(誰でも言葉の定義や意味を登録できるオンライン辞書)がその概念をさらに発展させた。「一般に信じられている説とは異なり、内向型の人がみな内気なわけではない。充実した社会生活を送り、友人との会話を好む人もいる。ただし彼らには、そのあとひとりになって『充電』するための時間が必要だ」

この「充電」というのが重要なのだ。ユングが観察したように、外向型の人はふつう、パーティやスポーツの試合やコンサートなど、大勢の人が集まるところを飛び回ってエネルギーを回復させる。一方、その対極にある私たちのようなタイプは、自分らしさを取り戻し、考え、計画を立て、夢想するための静かな時間を必要とする。

集団のなかにいるとき、あとどれくらいでそこから離れられるかを心のなかで数えているのは、私だけではないだろう。どんなにイベントを楽しんでいても、いつも家に帰るのが待ち遠しいのだ。

内向型人間のもうひとつの特性は、沈黙が苦にならないことだが、この点は誤解を受けることが多い。考えるのが好きで内省的だった10代のころ、私はよく、大人の様子を観察して会話に聞き耳を立てていた。家に来客があると、お客さんが帰ったあとに始まる両親のひそひそ話に興味を引かれた。2人の話題は、友人が抱えている(だが口には出さない)トラブル。

もちろん、お客さんとそんな話をしていたわけではない。やがて私は、人間の経験は礼儀正しい客たちの話に表れるよりもはるかに深いのだと理解できるようになった。私はしだいに、人類学者、すなわち冷静な目で人間を観察し、決して完全な当事者にならない部外者のような気分になっていった。

部外者の目線で周囲をよく観察し、他人の話や状況に関心をもつといった、内向型の人に共通するこれらの特性には、私のこれまでの生き方が表れているといってもいい(ある研究では次のように指摘されている。「内向型の人は、集団のなかで黙っていても、その実、きわめて積極的に関与していると考えられる。

彼らは話の内容を理解し、考察し、話す順番が来るのを待っている」)。こうした観察と分析の能力は、私の最大の長所だと思う。きっとあなたも同じだろう。内気で、謙虚で、出しゃばらず、臆病だろうと、あるいは単にステレオタイプのネットワークづくりが嫌いだろうと、あなた独自のスタイルを最大限に生かして自分だけのブレーンをもとう。いまいる場所から始めてみよう。

昔から私は、内向型人間(つまり控えめな人々)は次のような共通の際立った特性をもち、人と強いつながりを構築するのに向いていると考えてきた。

・人の話を聞くのがうまい

はじめて人に会うとき、私はちょっとした手を使って、相手が先に話しはじめ、こちらよりも多くの情報をさらけ出すように仕向ける。冷たい人間だと思われるかもしれないが、それによって相手の人となりを見きわめ、信じられる人物かを判断する時間を確保するのだ。

好感をもったら、(少し)心を開く。鍵となるのが、“最初に質問する”こと。相手と(あるいは相手が一方的に)話しているあいだに、その人にどの程度かかわるかを決めなければならない。だから、質問をした後は、自分から話しはじめるよりも、聞き上手の長所を活かすほうがずっといい。まず相手の話を聞くようにすれば、自分が何をどこまで話せばいいかがわかる。

・観察能力が鋭い

部外者というと孤立していると思われそうだが、(外向型の人々とちがって)人が集まる場を支配していない私たちの前では、受け入れられるという安心感からか、人々は素の自分を出しやすい。私は長いこと人間観察を習慣としてきた。目の前の人や地下鉄で向かい側に座っている人を見ながら、この人はどんな人だろう。どんなことにワクワクし、自信があり、怒り、落ち込むのだろう。

そしてそれはなぜなのだろうと想像する。誰かに会うといつも、その人の興味や故郷、個人のスタイルや出身校などの印象的な特徴を覚えておいて、相手にアプローチする。このスキルは人とのつながりをつくるうえでじつに都合がいい。他人のマインドセットに自分を置いてみることで、彼らの緊張を解き、有意義な出会いにすることができる。

・好奇心が旺盛

部外者の目線で見ると、他人が人生の達人に思えてくる。自分にはできないやり方で人とつながり、選択し、目的に向かって進んでいるように見える。鋭い観察眼をもつ人は自分が見聞きしたことをうまく活かせるものだ。無口な子どもだった私はいつも、ほかの人が世のなかをどう渡っているのか、どうやってうまくやっているのかを知りたくてたまらなかった。

そして、自分にはとうていできそうにないとも思った(ある意味大人になってよかったのは、実際に「自分はうまくやっている」と感じている人がほとんどいないとわかったことだ)。

こうした能力(人の話を聞く、観察する、好奇心をもつ)は、人とのつながりをつくるための効果的なツールだ。そして重要なのは、それらのどれを実行するときも、人の注目を集める必要がないということ。それはもちろん、キャリアで成功できないという意味ではない。

ジュディ・ウェートは、ニューヨークで20年以上、クリエイティブ担当幹部を探している企業を対象とした、エグゼクティブ専門のリクルート会社を経営している。人材コンサルタントとして成功するには「超」がつくほど社交的でないといけないようだが、ジュディによると彼女自身は内向型だ。本人いわく、自分は仕事上の必要に迫られて長期戦を戦う「やさしい秘密エージェント」だという。

ヘッドハンターやリクルーターはつねに知らない人と会わなければならないし、将来のクライアントのニーズを頭に入れておく必要がある。ジュディはあえて会社の規模を広げようとはしないが、それはグローバル・ネットワーク全体に人間関係を重視した“心の触れ合いアプローチ”を取り入れているからだ。

ビジュアル・デザイナーだったジュディは、デザインツールをアレンジして、新たに「人々をつなぐ媒体」をつくった。それが「人のストーリーと会話」を大切にするウェート・アンド・カンパニーだ。彼女はカスタムデザインされた独自のデータベースを使って、現在進行中のやりとりを追跡管理している。

リンクトインやセールスフォースなどの採用や顧客管理についてのツールの登場より、はるか以前に構築されたそのデータベースには、これまで出会った数千もの人たちの情報が格納されている。一度しか会っていない人に数年後にコンタクトをとることもめずらしくない。

ジュディは、先述の好奇心、観察力、聞き上手の特性を仕事に活かしている。彼女は、人とポジションのマッチング・プロセスを支えるのは一種の「戦略的直感」──キャリブレーション(人の外面に表れる表情や声のトーンなどを観察するスキル)によって相手の心理状態を読み取る感性──であり、それは内向型の人が得意とするところだという。

その考えにいささかバイアスがかかっているのは認めるが、たしかに内向型人間は、大半の人がいつも抱いているニーズや欲求や秘密や心配に敏感だ。そして、その感性が他人に対する深い理解につながっている。

そうした理解が、欠員の出たポジションにうってつけの人材について徹底的に(かつ的確に)考えるうえで役に立つのだ。もっと広い意味でいうなら、あなたの履歴書を批評し、あなたの意志を実行するのにふさわしい人は誰か。最新のアクション映画をいっしょに見に行ったり、場末の酒場で飲んだりするのにうってつけな友人は誰か。

フードトラックのアイデアのブレインストーミングに最適なのは誰か。ほかにも山ほどあげることができる。友達の推薦や過去の経験があれば、そんなとき誰に頼んだらいいかは、すぐに決められる。同じスキルを、キャリアの、そしてまさに人生のいたるところで遭遇する選択の場面で一役買ってくれる数多くの知人のネットワークにあてはめてみれば、きっとうまくいく。

内向性と観察力の組み合わせによってすばらしい能力が生まれる。それは人を判断する力だ。内向型の人は相手の人間性をすぐさま察知することができる。困っているか、とまどっているか、自慢したがりか、神経質か。落ち着いた人か、好奇心が強いか、気立てはいいか。そうした性質を感じ取れれば、人に何を頼めるか、期待できるかを正しく知ることができる。それはネットワークを構築しつづけていくうえで重宝するスキルだ。

【POINT】
人の話に耳を傾ける、よく観察する、好奇心をもつ。これらはすべて、人とのつながりを築くのに効果的なツールだ。そして大切なのは、それらのどれを実行するときも人の注目を集める必要がないということ。

内向的人間の力を伸ばす

あなたの能力を活かしてネットワークを拡大するためのウォーミングアップ・エクササイズを3つ紹介したい。挑戦してみよう!きっと自分の頑張りによって人々が幸せになれることに気づくだろう。そして、学んだことをこの先多くの人のために役立てられるはずだ。

●先に質問する

今度、あまりよく知らない誰か(あるいはまったく知らない人、たとえば同僚、友人の友人、同じ会議の出席者)とコーヒーを飲むときは、まず彼らが自分の話をするように促そう。このやり方は電話でも効果的だ。

出だしはシンプルに。

「その点についてはあとで話すとして、まず、なぜ『X社での仕事』が好きか、またはどのようにして『X分野、専門分野、達成したこと』で成功したかをぜひ聞かせてください」

あるいは、

「あの会議や講演者のことが頭から離れません。あなたにとっていちばん印象的だった話は何ですか?」

とくに、あなたが仕事を見つけようとしている企業や業界の人が相手なら、さらにこんなふうに質問してみよう。

「どういう経緯でX社に入ったのですか?」

「Yの仕事に就いてどれくらいですか?」
「Zという職は楽しいですか?」

●好奇心を働かせる

好奇心は、人に会っているときも会っていないときもオンにできるメンタル・スキルだ。興味のある企業または分野の人と、情報収集のためのミーティング(電話やビデオチャットを含む)を開くなら、お互いの時間を有効に使うために、会う前に準備をしておき、すぐにいちばん聞きたい話に入るようにしよう。たとえば、最初のあいさつに続く言葉を糸口にして、あなたが求める話題につなげていくのだ。

「教えてください、どうやって猫を煙突から追い出したのですか⁉」(相手のインスタグラムの投稿に触れ、その人の関心事にあなたが注目していることを伝えてなごませる)

「以前のグーグルはどんな雰囲気でしたか?」(リンクトインからの情報をもとに) 「ライティングの仕事は楽しいですか?」(相手のサイト、ニュースレター、ブログを読んで)

●鋭い観察力を発揮する

好奇心がおおむねメンタル・スキルなら、観察はフィジカル・スキルだ。人に直接会うときに最もうまく機能し、初対面の人に会うときに大きな効果をもたらす。すぐれた観察者の条件は、はじめて会う人の気持ちを落ち着かせられること(多くの場合、強い結びつきをたしかなものにするよりも重要)、そして相手がどんな人かを自分なりに感じ取れることである。

観察力を会話で活かす方法はいくつかある。

「その眼鏡とてもすてきですね。集めていらっしゃるんですか?」(服の話題だと立ち入りすぎになるので最初のミーティングにはふさわしくないが、眼鏡や靴ならほめても差し支えない)

「スマホのケース/バッテリー/メモ帳/ペンの使い心地はどうですか?」(身近に置いてある小物から相手のことが少しわかる)

会話中に考えるべきことは以下の項目がある。

・相手はそわそわして落ち着きがないか、それともゆったりとリラックスしているか?
・あくまでも事務的か、それとも自分のことや好み、変わった癖について話しているか?
・観察力はグループ・ミーティングにおいてもおおいに役立つ。
・始終反対ばかりする、あるいは妨害ばかりする人はいるか?
・終わってからでなければ意見をいわない、「ミーティング後のミーティング」が必要な人はいるか?
・いつも気さくで個人的な話をするのは誰で、しないのは誰か?

観察から得られた情報は、他人についての理解をさらに深め、人間関係をより円滑に機能させてくれる。その基本はあくまでもあなたの目に映る彼らの姿だ。

つきあいが苦手な人のためのネットワーク術
カレン・ウィッカー(Karen Wickre)
グーグル社に10年近く在籍したのち、ツイッター社で編集ディレクターを務めたグローバル・コミュニケーションのエキスパート。Wired.comにコラムを寄稿し、いくつかのジャーナリズム委員会にも所属している。LinkedIn、Medium、およびその他のソーシャルメディアを通じ40,000人近くのフォロワーと連絡先を持ち、その多くはインフルエンサーとして知られている。サンフランシスコ在住。本書は初の著書。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)