(本記事は、カレン・ウィッカー氏の著書『つきあいが苦手な人のためのネットワーク術』CCCメディアハウスの中から一部を抜粋・編集しています)

シェアの台頭

Facebook,年収
(画像=Ink Drop/Shutterstock.com)

現段階(2018年)で、リンクトインはサービス開始から15年、フェイスブックは14年、ツイッターは12年、インスタグラムは8年。一世代もたたないうちに、程度の差こそあれ、私たちは公私を分けてきた深い溝を飛び越えた。いまでは家族や友人以外の人たちの意見や生活の出来事、アイデア、ジョーク、画像、ニュースを知り、シェアすることにほとんど何の抵抗も感じない。

テクノロジーが人々に及ぼす影響をテーマに執筆活動をしている産業アナリストのスーザン・エトリンガーは、「昔は、直接会おうとオンラインだろうと、人との交流方法はきわめて限られていて、『公』と『私』の区別はもっとはっきりとしていた。今日のオンラインの世界では、そのふたつは連続体である」と指摘する。

フェイスブックは、個人的な出来事や情報の共有を中心にデザインされた初の大規模ネットワークで、ユーザー数は20億人を超え、圧倒的優位を誇る。これほどまでにフェイスブックが普及したことが、私たちが個人情報を身近な人たちのネットワーク以外の不特定多数の人々に向けて投稿する、いや、さらけ出すことに慣れた大きな要因のひとつだ。

私たちは自分のどんな興味も、仕事上の発言や個人としての意見も、フェイスブックやグッドリーズ(読みたい本を共有するためのコミュニティサイト)、スラック、レディット(米国で最大級の掲示板サイト)、スナップチャットなどにいたるまでの、自分でコントロールできる公私の境目のないひとつの連続体で公開されてもいいと思うようになった。

奥行きのある存在

有力な企業幹部、政治家、ジャーナリスト、セレブなどの著名人でさえ、自分の考えやおもしろい話、胸を痛めた出来事、家族の写真、賛同や批判を各種チャネルを通して発表するのがあたりまえになった。テレビドラマ監督のションダ・ライムズは、2018年に性的虐待常習者ラリー・ナサールに判決を下した裁判長をツイッターで賞賛した。ビル・ゲイツはお気に入りの新しい本の一章をフェイスブックのフォロワーと共有した。ジャーナリストでCNN特派員のジェイク・タッパーは飼い犬の代理としてツイートしている(@winstontapper)。

(本書を執筆している2018年春、フェイスブックはおそらく創業以来最大の危機に見舞われている。同社サービスの政治利用の問題が明るみになり、ピリピリした空気が漂っているのだ。データマイニング企業ケンブリッジ・アナリティカ、つまり第三者によるユーザーデータへの不正アクセスに対する対応の甘さをめぐって、新しい事実が毎日のように明るみに出ている。

ケンブリッジ・アナリティカは、プライバシー保護に必要な安全措置を講じず、同意もなしに数千万人分のフェイスブック利用者の情報を不正に取得していた。大手のテクノロジー関連サービス企業が、政治的メッセージの発信やキャンペーンを含むターゲット・マーケティングを目的にどんな手段でユーザーデータを収集しているかについては、長年激しい議論が繰り広げられてきたが、この件はその最新章といえるだろう。そこには本書の範囲をはるかに超えた複雑な法律や政策の問題が深くかかわってくる。つまるところ、何が「公」で何が「私」かに対する私たちの理解は、これまでよりもあいまいになってきているのだ)。

かつてはごくごく私的なものだと思われていた経験を公表するエグゼクティブはほかにもいる。2016年、当時製薬大手ノバルティスの米国支社長だったクリスティ・ショーは、「家族にかかわる個人的な理由」でその職を退いた。ところがほどなく、よくあるその理由を世間が「解雇された」と解釈していると知って、クリスティは詳しい事情を発表した。きょうだいが骨髄がんを患っていて、臨床治験のために24時間看護する人が必要になったのだという。

その前年、グーグルのパトリック・ピチェットCFOは、7年間勤務したのち同社を去る決断をした経緯を長文にしたため公開投稿した。「バックパックを背負って旅に出て、思い出をふり返りながら、いっしょに結婚25年を祝い、喜びと幸せに満ちたこれ以上ないほどすばらしいミッドライフ・クライシスを楽しむのを、これ以上待ってほしいと、(妻の)タマラを説得できるほどの理由が見つからなかった……」

おそらくいちばん有名なのが、シェリル・サンドバーグが夫のデイブ・ゴールドバーグの急死後に何度かおこなった投稿だ。同様に、マーク・ザッカーバーグは妻のプリシラ・チャンと3度の流産を経験したときの苦しみをフェイスブックで告白している。疑い深い人なら、影響力の大きなこれら2人のエグゼクティブは、ただ自社のサービスを世間に誇示しているだけだというかもしれない。けれども私は、彼らがきわめてプライベートな出来事を公表する選択をしたのは、彼らもまたこの公私一体化の時代に生きているからだと思う。

もちろん、『職業人として』ではない個人の経験や意見を共有するときのリスクは、すでに世間の注目を集めている人々よりも私たちのほうが大きいかもしれない。それでも日々、私たちはあらゆるタイプの人たちのさまざまな個人的体験や、人生の変化にまつわる投稿やストーリーを目にする。心臓が止まりそうなほど深刻なものはあまりない。公私の一体化に関係するのは、どちらかといえば毎日の活動や、頭に浮かんだアイデアや、楽しい出来事のようだ。

まだ世にかすかながら存在するプライバシーなるものを守るため、あるいは超クリーンな公開プロフィールを守るため、あなたの直感がソーシャルメディアへの共有を控えるべきだというかもしれない。けれども、その判断はあなたの足を引っ張ることになるだろう。あなたがどんな人間かわからなければ、ほかの人からの信頼を得られないおそれがある。私たち内向型人間(個人のプライバシー重視派の人々)だって、個人としての自分を共有できる幸福な媒体を見つけることはできる。

【POINT】
まだ世にかすかながら存在するプライバシーなるものを守るため、あるいは超クリーンな公開プロフィールを守るため、あなたの直感がソーシャルメディアへの共有を控えるべきだというかもしれない。けれどもその判断はあなたの足を引っ張ることになるだろう。

かつての同僚のティム・フィッシャーは、このごろになってようやくこうした公私一体化のよさを正しく理解できるようになったそうだ。事業開発とカスタマー・エクスペリエンス戦略の両方で長年の経験をもつ専門家であるティムは、次のようにいう。

「公私の一体化にはほとほと困っていたよ。プライベートで知り合った人とビジネスの関係を築くのをとにかく避けていた。ビジネスがうまくいかなくなったとき、2人の関係がどうなるか心配だったし、相手が興味をもっていないものを売ろうとするなんて、さぞかし嫌な気持ちになりはしないかと気に病んでいたんだ」

だからティムは、仕事と私生活を切り離していた。けれども、時間とともに職業上のネットワークが拡大してくるにつれ、いまや思い出すのさえ難しい「ものすごい数の人とのつながり」の存在に気づいた。「いっしょに仕事をした人、お世話になったクライアント、『仕事関係の友人』とでもいえそうな独自のカテゴリーに入る人がごまんといたんだ。それほどよく話したわけでもないし、正直いって、最初に会ったときのように密接に協力して仕事をする機会は、きっと2度とないと思う」という。

しかし、彼の友人関係の多くが仕事上の知り合いから発展したものだったことを考えると、友人とビジネスをしないという決断は正しかったのだろうか。わざわざつながりを維持していながら、なぜそれ以上関係を深めてはいけないと決めつけているのだろう。彼は自分でも疑問に感じはじめる。やがて新しい会社に移り、彼は「仕事関係の友人のネットワークの可能性をフル活用し、彼らとの人間関係を深める」ようになった。

いまではティムにとって、「仕事関係の友人」は「私を知り、信頼し、願わくは尊敬してくれるという理想のビジネス・パートナーの条件を備えたたくさんの人々のグループ」だ。「人は自分がよく知る、気に入った、信頼できる人を雇いたい、パートナーを組みたいと思うものだ」と、彼はそのように考えている。「自分のやり方を変えるのにはしばらくかかった。でも、いまや仕事関係の友人のネットワークは、新しいことを知りたいと思ったら真っ先に頼る場所のひとつだ」という。

ティムの考えの変化は、個人の関心事と職業人としての意見をひとつの場所で公に発信することがめずらしくなくなったという事実と符合する。その傾向はあまりにも強いので、かたくなに職業人としての顔しか見せないでいると、信頼に欠ける印象を与えるようだ。

たとえSNS上の知り合い全員と親しく付き合っているわけではなくても、仕事や昇進のニュースに混じって、休暇や結婚式の写真、赤ちゃんの誕生や卒業や新しいペットを迎えたこと(ないしは長年飼っていたペットとの悲しい別れ)を知らせるニュースを、フィードで目にするのがあたりまえになっているのはたしかだ。

つきあいが苦手な人のためのネットワーク術
カレン・ウィッカー(Karen Wickre)
グーグル社に10年近く在籍したのち、ツイッター社で編集ディレクターを務めたグローバル・コミュニケーションのエキスパート。Wired.comにコラムを寄稿し、いくつかのジャーナリズム委員会にも所属している。LinkedIn、Medium、およびその他のソーシャルメディアを通じ40,000人近くのフォロワーと連絡先を持ち、その多くはインフルエンサーとして知られている。サンフランシスコ在住。本書は初の著書。

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