(本記事は、カレン・ウィッカー氏の著書『つきあいが苦手な人のためのネットワーク術』CCCメディアハウスの中から一部を抜粋・編集しています)
お互いの利益のために
もうひとつ、ゆるく連絡をとりつづけることにどんな効果があるかわかる話を紹介しよう。先日、以前の同僚を通じて、従業員コミュニケーション分野の新たなポジションを探しているミッシェル(仮名)という女性に会った。ミッシェルはずいぶん長くいまの仕事に就いていて、彼女がいうには、そのせいでそれまでのネットワークを手放してしまった。要するに、ゆるいつながりを維持できなかったのだが、それが問題だと自覚していた。私は、彼女の仕事の分野の知人を何人か紹介して幸運を祈った。
いまも彼女は進捗状況を手短に報告してくれていて、私は、従業員コミュニケーション関連の記事を見つけたら「どうしていますか?すべてがうまくいきますように」と、ささっと書き添えて彼女に送っている。それだけだ。もう一度会う必要はない。私がミッシェルを気づかっていることは彼女もわかっているし、彼女が私を気にかけているのも明らかだ。彼女は人との出会いを通して新たな機会を探し、見識を深めながら、自分のネットワークを確立している。2度となくしたりしませんように!
お互いの利益にまつわる話をもうひとつ。数年前、イアン・サンダースという英国人からツイッターで質問を受けた。私はそれに回答し、もちろん彼のツイッターのプロフィール欄を見た。それを気に入った私は(「クリエイティビティ・コンサルタント、ストーリーテラー、作家。コーヒー好き、好奇心旺盛、ウォーキングが趣味」と書いてあった)、イアンをフォローバックした。彼はロンドン近郊に暮らし、最高の仕事ができるように組織やチームに活力を与える手伝いをしている。
その後、ロンドン旅行を計画した折に、彼に「会いませんか」ともちかけた。私たちは2度も会い、いまでもときどき──ゆるく!──連絡をとりつづけている。顔を合わせたとき、コンサルティングやグループとの仕事の進め方のアプローチについて意見を交わした。イアンは、私が紹介したジャーナリストやコンサルタントと関係を築き、私は彼からクライアントとの仕事を新しい観点でとらえるきっかけをもらった。私たちはツイッターのダイレクトメッセージを介して情報をやりとりし、お互いを気さくで有益な知人、いや友人だと思っている。
ゆるいつながりを維持するには
ゆるく連絡をとることは、とくに以前からの知人との関係を維持するのに効果的だ。そうして私は、幾多の人たちと連絡をとりつづけているが、その多くはかつての同僚だ(前述の私の転職歴を思い出してほしい)。これからも私は、ツイッターで目にした情報や互いに関心のあるニュースをシェアするだろう。「シェアする」とは、簡単なあいさつと、読んだり見たりしたくなるような情報へのリンクを送信するという意味だ。
前に、いまはシェアする手段はきわめて豊富にあると言ったのを覚えているだろうか?リンクトインをよく使うなら、個別のメッセージを送って知人とゆるいつながりを保つことができる。ツイッターやフェイスブック、インスタグラムやスラック(ビジネスチャット・ツール)のダイレクトメッセージ機能でも同じ。あなたがどのサービスを好きで利用しているか、あなたの知人がどのサービスを利用しているかのちがいだけだ。
また、共通の趣味はゆるく連絡をとるときに格好の話題になるし、それを介して仕事上の知人とだってつながれる。たとえば、犬好きの友人エリカは、すぐれたカスタマー・エクスペリエンスを熱心に推奨している。私たちはよく、犬の傑作画像を送り合ったり、顧客の扱いをまちがった企業の話でネット上で盛り上がったりする。
ツイッターのメッセージを使うときもあれば、スラックで共有しているプライベート・グループを使う場合もある。ときおり、犬やその他の話題のメッセージに混じって、ワークショップの招待状やコンサルティング業務関連の内部情報を送ったりもする。こうしたことすべてが、ゆるく連絡をとりつづけることにつながっている。
グーグル時代の友人の多くは別の会社に転職してバラバラになったが、彼らとも同じように、オンラインで連絡をとっている。かつての同僚たちと心地よい親密な関係を共有し、ときに過去の雇用主やライバル企業にまつわるおもしろいニュースや変わり種のニュースを送り合う。ニュースリンクを送れば、関心のなさを表す顔文字が返ってきたり、「いいね!」がもらえたりする。ほら!これでゆるいつながりをもつことができた。
会話に発展するかもしれないし、ずっと先まで何も起こらないかもしれない。やりとりはバーチャルでも、その効果はたまに近所のパブで会って一杯やるのと変わりはない。25年前、社会学者のレイ・オルデンバーグは、人には自宅と職場とは別に、活動しコミュニティが形成される「サードプレイス(第三の場所)」があると主張した。いまでは(私を含めて)多くの人が、地元のコーヒーショップだけでなく、オンライン・スペースを一種のサードプレイスととらえている。
オーラル・ロバーツ大学経営学部准教授のデビッド・バーカスは、『ビジネスで使えるのは「友達の友達」』という著書のなかで、すでに知っている人、とくにあなたと弱いつながりをもつ人こそがあなたを助けてくれると述べている。
「キャリアで挫折すると(中略)ともすれば私たちは、力を貸してもらえるかわかりもしないのに、友人というごく狭い範囲にしか助けを求めない。(中略)そうではなく、私たちは眠っている弱い絆に頼り、話を聞いてもらい、彼らがどんな機会をもっているかたしかめなければならない。できれば、そうした弱い、休眠中の絆を定期的によみがえらせるべきである」。それが、ゆるいつながりを維持するということだ。
ネットワーク拡大に必要なもの
非同期型コミュニケーションがもたらす最良の結果のひとつは、つねにネットにつながっているならとくに、どこにいても個人的な付き合いができることだ。あなたにも世界の遠く離れた場所に住む友人がいるかもしれないし、時差を越えて、どうかすると大陸をまたいで顧客やクライアントや同僚と仕事をする人はますます増えている。
そうした人たちはみな、ネットワークを拡大するチャンスをくれる。いつもの顔ぶれだけにとどまらずにネットワークを広げていくために必要なのは、好奇心と柔軟な心だけ。ズームやスカイプやグーグル・ハングアウト(どれもミーティングの時間をあなたのタイムゾーンに自動的に設定してくれる)のようなビデオ・チャット・ツール、あるいは会話とメール送信ができるワッツアップを利用すれば、多くのタイムゾーンを越えてコミュニケーションをとる(とりつづける)のは、これまで以上に容易でシームレスになる。
ひとつの場所にとどまって、ひとりの雇用主のもとで働き、仕事用の服を着て、車で通勤し、決まった机を割り当てられるなんて、とんでもなく古臭いと(そして、ごめんこうむりたいと)思う時代はさほど遠くない。世界が小さくなるほどに、ゆるくつながったネットワークの価値は高まっていく。
負担が増えてしまった場合
いま述べたように、多くの人とつながりを保つのが楽になったのは喜ばしい。一方で困るのは、うれしくない招待や質問やコーヒーデートが増えたことだろうか。なんといっても、ゆるくつながりつづけるポイントは、それが重荷にならないことなのだ。結局のところ負担が増えてしまっては、ゆるいつながりを維持する、というか連絡をとりつづけられる可能性は低くなる。
「お元気ですか?」のシンプルなメッセージの返信が、次の木曜日午後2時からのよく知らない誰かとのミーティングへの招待だったら……うーん、どうしたものか。決めかねるなら、もちろん会うのを先延ばしにしていい。心から会おうという気になるまで、しばらく、いや永遠に先送りすることもできる。自分があまり力になれそうにないと思うのならば、なおさらだ。私も、ちょっと知っているだけの人たちから何度か連絡を受けたことがある。どうしてもグーグルに入りたいので、コーヒーでも飲みながら会社の話を聞かせてほしいというのだ。
お役に立ちたいのは山々だが、私が退職してからグーグルには3万人以上もの人が入社している。最新の情報を知らないので、たいていはお断りする。代わりに私は、自分のわかる範囲の情報を伝えることにしている。自分の大まかな印象を2、3のパラグラフにまとめ、関連のある最近の記事に、心からの「成功を祈ります」の言葉を添えたEメールを送るのだ。
こんなふうに、(ある程度)コンタクトをとらなければならない人は増えるばかりなので、親密さや時間、依頼の性質に応じた線引きはきわめて重要だ。
線を引くようアドバイスしたところで何だが、あえてもう一度いいたい。広い心をもって、もしつながりを求める突然の依頼にどうしても好奇心がそそられるなら、「いいですよ」と(あるいはせめて「かまいませんよ」くらいは)伝えよう。はっきりした目的のない気軽な集まりが豊かな実をつけることもある。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます