事業は運営しているものの、完済の見込みがないほどの巨額の負債を抱えており、いつ破たんしても不思議ではない企業「ゾンビ企業(Zombie Company)」が米国で急増している。

全米企業のうちゾンビ企業が占める割合は、すでに20%近くに達している。新型コロナウイルス感染拡大による影響で、状況がさらに悪化すると予想されている現在、ゾンビ企業は、経済の安定性を著しく脅かす存在となりつつある。

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(画像=JackF/PIXTA/ZUU online)

米非金融系企業の負債が過去最高の約1126兆円突破

法人登録はされているが、事業活動の実態がない企業を「ペーパー・カンパニー」や「ゴースト・カンパニー」と言うが、ゾンビ・カンパニーは事業活動で利益を上げているにもかかわらず、負債で首が回らなくなっている企業のことだ。長期にわたる低金利の恩恵で金利は支払えるものの、元本はいっこうに減ることがない。それどころか支払いのための借り入れを重ね、さらに負債が膨張するというパターンもある。

ゾンビ企業の増加については、新型コロナの感染拡大以前から問題視されていたが、パンデミック(世界的大流行)の影響で借り入れや社債発行がさらに急加速。米メディアAxiosが金融データプラットフォーム「Datastream」などを分析した結果、全米企業中18.9%に達しており、近い将来20%を突破する勢いだ。

米連邦準備制度理事会(FRB)のデータによると、米国の非金融系企業の負債総額は2020年第1四半期に10兆4922億ドル(約1126兆8303億円)に上り、過去最高記録を更新した。6兆 1597億ドル(約661兆5416億円)だった世界金融危機直後の10年前と比べると、ほぼ2倍に匹敵する。

ゾンビ雇用 大量リストラの危機

ゾンビ企業には、コロナが直撃した産業である旅行・レンタカー企業Avis Budget GroupやホテルグループMarriott International、デルタ航空といった大手も含まれる。こうしたゾンビ企業による雇用は現時点で200万人を超えている。

米リサーチ企業Arbor Researchのデータによると、産業コングロマリットのゾンビ雇用数は合計23.3万人、ハードウェアおよびストレージサービスは19.3万人、エネルギー設備およびサービスは18.5万人、ホテル・レストラン・レジャーは15.3万人。

米国の失業者数は2020年2月から5月にかけて1400万人以上増え、2050万人に達しているが、今後ゾンビ企業による大量リストラ(解雇)が加速すると予想される。

約430兆円規模の緊急企業資金も焼け石に水?

米政府は最大4兆ドル(約430兆1311億円)規模のコロナ緊急企業資金を投じて、可能な限り多くの企業の救済を試みている。

ゾンビ企業にとって、こうした措置は、経営維持に必須の資金調達源だが、「長期的な見解から見ると、広範囲な経済成長の可能性や生産性の向上にマイナスの影響を与える」との意見もある。

巨額を投じたところで経済の回復が遅れれば、一部あるいは多数の企業の破たんは免れないだろう。そうなれば結果的に、負債を膨張させるだけの愚策になるという訳だ。

貸し倒れリスクの高い融資が急増

既存のゾンビ企業だけではなく、予備軍が多い点も不安材料である。

欧米では、信用格付けBB以下の投資適格未満の企業を対象とする「レバレッジド・ローン(Leveraged loan)」というビジネス融資がある。本来は担保で裏付けされており、財務状況が悪化した場合は、債務の返済などを要請する財務制限条項が設けられていることから、高利回りのジャンク債より低リスクとされている。

しかしレバレッジド・ローンの一種で、借り手に対する制限条項を緩和した「コベナンツ・ライト・ローン(Covenant-Lite Loan)」と呼ばれる融資を提供する銀行が増加傾向にある点に懸念を示す声も多い。

「バーゼルIII(国際銀行の健全性を維持するための自己資本規制)」や「ドッド・フランク法(ウォール街改革・消費者保護法)」関連のコンサルタント、マイラ・ロドリゲス・バリャダレス氏は、レバレッジド・ローンの中で、コベナンツ・ライト・ローンの占める割合が過去3年間でほぼ8割に達している現状を指摘している。

コベナンツ・ライト・ローンの借り手は従来の融資のように、財務上の数値を満たしていることなどを継続的に公表する義務がない。極端に言うと、貸し手が財務状況を正確に把握することができないまま、借り手が倒産するというパターンもあり得る。

そしてこれらの企業が債務不履行に陥った場合、貸し手は貸し倒れのリスクを背負うことになる。